「football fukuoka」中倉一志

アウェイの旅2015 大宮編(その2)

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試合の結果に一喜一憂しても意味がない。それは十分に分かっているつもりだが、試合終了直後に敗戦を受け入れるのは、やはり難しい。特に、それがアウェイゲームならなおさらだ。記者室に集まる大半はホーム側を担当する記者。ホームチームの勝利を喜ぶ空気に溢れる中で、1人、敗戦を受け止めるのは容易ではない。時に、顔見知りの記者が慰めの言葉をかけてくるが、その気遣いが「負けたのだ」という現実をさらに強調する。そんな中で平静を装うには本当にしんどい(汗)。

かと言って、いつまでも引きずるわけにはいかない。「その日感じた悔しさは、その日のうちに解消する」。これは、過去16年の取材を通して身に付けたこと。この日もミックスゾーンでの取材を終えて、大宮の町に繰り出す。狙いは、初めて大宮駅に降り立った時から決めていた店だ。その店の名は「いずみや」。大宮駅東口の正面に堂々とたたずむ昭和の香りが溢れる店。「吉田類の酒場放浪記」などでも紹介されたことがある、センベロ、B級の店として有名な店だ。

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店に入ると、まず目に入るのは壁一面に張られたメニューの数々。数えられないほどのメニューが並ぶ。そして、その値段の安さにも驚く。一番安いのは煮込み(170円)。私の経験だけで言えば、この値段で煮込みを出す店を知らない。そして、店内は非常にシンプル。壁のカウンターの他は、長いテーブルが3列並んでいるだけ。当然のように相席以外に選択肢はない。見知らぬ同士が向きあい、並びあって酒を楽しむ。それもまた、こういう店の魅力のひとつだ。

ここに来たら、古き良き時代である昭和を堪能するに限る。まずは、いまでは見かけることが少なくなったサッポロラガービールをチョイス。生ビールが主体になった現在も、熱処理している日本最古のビールブランドで、「赤星」と呼ばれて根強いファンに支えられている。口に広がり、鼻から抜ける独特の苦みが味わい深い。そして最初の肴は、もちろん「煮込み」(170円)。やや小ぶりではあるが、まさに正統派の煮込み。これだけあればビール2本位は十分にいける。

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追加オーダーは「ハムカツ」(300円)。そして、期待通りに昭和のハムカツが運ばれてきた。現在、飲食店で提供されるハムカツは、厚めに切ったものを揚げてあるが、正真正銘のハムカツとは、薄切りのハムに衣をつけてフライにしたもの。トンカツが何か特別なことがなければ食べられなかった頃に、その代用品として、よく食卓に上がっていたのを思い出す。ハムよりも厚い衣にウスターソースをたっぷりとかけ、ソースと衣をメインに、わずかに残るハムの感触を楽しむ。それが正しい味わい方だ。

そして、ビールで喉を潤した後は、飲み物を「梅割り」(220円)にチェンジする。甲類焼酎を梅酒で割ったものだ。甲類焼酎が市民権を得たのは、宝酒造から「純」が発売された1977年以降で、それまでの甲類焼酎は匂いと味がきつく、飲みやすいものとは言えなかった。そんな頃に、安い焼酎を飲みやすくするために考え出されたのが梅割り。まろやかだが、ガツンとくる。それも当然。焼酎と梅酒を混ぜただけであって、「割」と称しながら、ちっとも割れていない(笑)。

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飲み進むうちに悔しさも紛れ、同時に気分が大きくなってきたので(汗)、さらに梅割りを追加。そして、「肉豆腐」(250円)と「アジフライ」(330円)をオーダーする。「肉豆腐」は至ってシンプルなものだが、味が染みた豆腐が胃にやさしい。「アジフライ」は、半身を揚げたものがふたつ。サクッと言うよりも、カリッとした衣の中から、ふんわりとしたアジが姿を見せ、そして淡白な味がウスターソースの味と一体になって口の中に広がっていく。

さて、店の看板に「大衆酒亭・食堂」と書かれているように、ここは各種定食、丼、麺類などのメニューも抱負。壁のメニューを数えたら34種類もあった。思う存分飲むのもよし。軽く喉を潤したら、しっかりと食事をするのもよし。なかなか、使い勝手もいい。そして何より安いのが嬉しい。この日は酔うほどに飲んで食べて2000円(税込)ポッキリ。敗戦の悔しさをアルコールで流して大宮を後にした。(了)

【中倉一志=取材・文・写真】
◎大宮アウェイ旅 行程&旅費
日時 行程 料金
5月31日 香椎浜→福岡空港 630円
福岡空港→成田空港 7780円
成田空港→大宮 2800円
大宮→上野 470円
ホテル 3240円
6月1日 上野→成田空港 2470円
成田空港→福岡空港 7230円
福岡空港→香椎浜 630円
合計 25250円

※往路はJetstar、復路はPeachを利用

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