「football fukuoka」中倉一志

[フットボールな日々]アウェイで過ごす特別な時間。一度行ったらやめられない。~アウェイへ行こう:プロローグ

とある理由から、アウェイも含めてアビスパの公式戦を全試合取材しようと思い立ったのが2004年。最初は1年間だけのつもりだったが、1年が2年、2年が3年と続くうちに、アウェイ遠征をやめるきっかけを見つけられなくなり(笑)、今年で16年目を迎えた。最初のうちは、2週間に1回の割合でやって来る非日常に、興奮もし、緊張もしたものだが、今では毎朝歯を磨くのと同じように日常のルーティーンのひとつになった。「ちょっと行ってくる」。気持ち的には雁の巣へ練習取材に行くのと大きな差はない。

それでも、アウェイ遠征は今でも特別な時間だ。知っているようで知らない、その土地ならではの文化に触れるたびに新しい発見がある。「酒場放浪記」を気取って、その土地でしか味わえないB級グルメやソウルフードを楽しむのもいい。もちろん、観光地巡りも楽しみの一つだ。そこには、サッカーがなければ決して訪れることがなかったであろう土地と出会う喜びがある。おかげさまで、足を踏み入れたことがない土地は福井、滋賀、和歌山、高知の4県だけになった。

そして何よりの喜びは、アビスパを大切に思う仲間とともに過ごす時間だ。それは、アビスパがなければ出会うこともなかった仲間たちと、サッカーがなければ足を運ぶこともなかった街で心を一つにできる特別な時間。そこには、全国各地から様々な仲間が集まってくる。年齢も、性別も、アビスパ歴はもちろん、考え方もそれぞれだ。けれど、サッカーとアビスパというキーワードでみんなが一つになれる。それは何物にも代えがたい。

そんなアウェイ遠征は家のドアを開けたときから始まる。博多駅や福岡空港にレプユニやアビスパグッズを身に付けている人を見かけると、特に顔見知りではなくてもちょっぴり嬉しい気持ちになる。そんな仲間が目的地に近づくにつれて増えてくる。もちろん、対戦相手のサポーターの数も増えてくる。その数は圧倒的に多い。だからこそ「この仲間と勝利を勝ち取る」という闘志がわいてくる。

そしてゴール裏。アウェイに来たことを最も強く感じる場所だ。選手たちがウォーミングアップのために出てくる。それを待っていたサポーターが一斉に声を上げる。この瞬間を一緒に味わいたくて、いつもゴール裏へ足を運ぶ。そしてチャントが始まると、力がみなぎってくるのを感じる。気持ちが昂っていくのが分かる。人数だけならホームのサポーターに負けているかもしれない。でも、熱い気持ちでは負けていない。ここにいる仲間と共にプライドをかけて戦う。「We are AVISPA」。そんな言葉が頭に浮かぶ。

試合中は記者席へ。アウェイの記者席では静かにしているのが礼儀。声が大きくならないようにブツブツとつぶやきながらメモを取る。ゴールの瞬間には机の下で小さくガッツポーズを取り、失点シーンでは気づかれないように膝を叩く。そして、勝っても、敗れても平静を装う。勝利したからと言って、ホームのメディアが多い記者室ではしゃぐほど恥知らずではない。敗れたからと言ってホームのメディアに慰められることほど情けないことはないからだ。

勝利の時は祝勝会。敗れた時は残念会。いろんな気持ちをアウェイの土地の酒で流していく。そして、今日、共に戦った仲間たちのことを思う。次もまた笑顔で会いたい。次もまた自分たちにとって特別なクラブであるアビスパと共に戦いたい。そして、リーグ最終戦を、この仲間と共に最高の笑顔で迎えたい。そんな気持ちでいっぱいになる。さて、次のアウェイは17日の岡山戦。まだ勝ち星のないアビスパだが、シティライトスタジアムに集う仲間と力の限りに戦いたい。そして高々と両こぶしを突き上げよう!勝利を手にするのは我々アビスパだ。

[中倉一志=文・写真]
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