「football fukuoka」中倉一志

【無料記事】【レポート 天皇杯2回戦 福岡-鹿児島】ハードワークと一体感で掴んだ久藤体制初勝利。鹿児島を逆転で下す

天皇杯JFA第99回全日本サッカー選手権大会 2回戦
日時:2019年7月3日(水)19:00キックオフ
会場:レベルファイブスタジアム/1,182人
結果:アビスパ福岡 2-1 鹿児島ユナイテッドFC
得点:[鹿児島]永畑祐樹(35分)、[福岡]前川大河(44分)、木戸皓貴(102分)

アビスパ福岡は3日、天皇杯2回戦で鹿児島ユナイテッドFCと対戦(レベルファイブスタジアム)。35分に先制を許したアビスパは44分の前川大河のゴールを同点に。その後は一進一退の戦いが続き、試合は15分ハーフの延長戦へともつれ込んだが、102分に一瞬の隙を突いて裏へ抜け出した木戸皓貴が勝ち越しゴールをゲット。その後もハードワークに徹するアビスパは、鹿児島の反撃を許さず2-1で勝利して3回戦進出を決めた。アビスパは3回戦で清水エスパルスと対戦する。

久藤体制初勝利
延長戦が始まる前、ベンチの前に輪ができた。誰かが声をかけたわけではない。自然と一人ひとりが集まり、その輪が大きくなった。
「サブの選手も、スタッフも、みんなで顔を合わせて勝ち切るという気持ちが一つになった瞬間だった」(木戸皓貴)
そして102分。値千金のゴールが生まれる。前川のロングボールに裏へ飛び出したのは木戸。相手DFと交錯する中、こぼれたボールに左足を振り抜いた。大きく揺れるゴールネット。スタジアムに歓声がこだまする。

守っては山ノ井拓己が見せる。時間は109分。ゴールを襲った強烈なミドルシュートを左へ飛んでセーブ。雄たけびを上げる。
「去年は自分が慕っていた圍さんが回ってきたチャンスを掴んでレギュラーポジションを取り、C大阪へ帰ってもルヴァンカップで活躍している。その姿を自分は目の前で見せてもらった。だから今度は自分が見せたい」
試合前にそう語っていた山ノ井。いつかやってくるチャンスをモノにするために、日々、積み重ねてきたからこそのプレー。それがチームのピンチを救う。

そして、リーグ戦から中2日のスケジュールで疲労が蓄積する身体に鞭打って、全員がハードワークに徹して試合をコントロール。そして試合終了のホイッスルが鳴る。スタンドからは歓声が上がり、ピッチの上では選手たちが抱き合って喜びを表す。公式戦では約1か月振りの勝利。久藤新体制になって勝つことができなかったアビスパに、ようやく日差しがさした。「勝つというのは嬉しいと改めて思った」と試合を振り返ったのは久藤清一監督。アビスパは何よりも必要な勝利を手にした。

難しい状況を乗り越えて
決して簡単な試合ではなかった。
第20節山口戦、天皇杯2回戦の鹿児島戦、そして第21節の岐阜戦と、中2日で続くハードスケジュールに加え、チームは複数のコンディション不良者を抱えた。どんなシステムで行くのか、誰を起用するのか等々、日頃から取材しているメディアでさえ予想がつかない状態だった。それでも、約1カ月もの間、勝利から見放された現状の中では、リーグ戦、天皇杯の区別なく、まずは勝利することが次の一歩を踏み出すには必要だった。

システムはいつものように3-4-2-1。まずは守備から入って試合を落ち着かせ、チャンスの時に前に飛び出していく戦い方に徹する。その狙いを「新しい選手も入ったので、そういうところからしっかりやれればいいと思ってた」と久藤監督は話す。それをプレーで表現したのは、プロ入り後、公式戦初出場の桑原海人。「前半の最初が勝負だと思って、最大の力を出してプレーした」(桑原)。その言葉通り、左サイドから積極的に仕掛ける姿がチームに勇気を与える。

ボールキープ率では鹿児島に上回られたが、それも承知の上。相手が出てくるところを捕まえて、シンプルにプレーして前に出る。疲労のためかミスが多く、奪ったボールを簡単に相手に返してしまうシーンが散見されたが、それでも守備組織に大きな問題はない。35分には、クロスボールへの対応ミスから先制点を奪われたが、チームはバランスを失わない。思うように攻撃を組み立てることができなくても、それぞれがハードワークに徹し、今の自分がやるべきことに集中していた。

ハードワークと一体感で掴んだ勝利
そして44分の同点ゴールは狙いとした形から。ウォン ドゥジェが鋭い縦パスを前線で待つ前川に通すと、その瞬間にスイッチほ入れて前川が前へ。個人技でかわして同点ゴールを奪う。その後も戦い方は変わらず。ミスが多くなかなかチャンスを迎えることができなかったが、同時にやられる心配もなかった。あとはどこで勝負をかけるか。その1点だけに絞られていた。そして生まれた冒頭の木戸のゴール。ミスをしても我慢強く、集中力を失わず、そしてチームの一体感で掴んだ勝利だった。

何よりも大切な勝利を手にしたアビスパ。この1勝でリーグ戦で置かれている厳しい立場が変わったわけではないが、ハードワークと一体感で掴んだ久藤体制初勝利は、チームにとっての大きな後押しになるはずだ。同時に、リーグ戦とはメンバーを入れ替えて戦った鹿児島に対しても、これだけ真摯に戦わなければ勝てないということも改めて知らされた試合。この日の戦い方を最低限のベースとして、アビスパは次の戦いへと向かう。

[中倉一志=取材・文・写真]
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