「football fukuoka」中倉一志

【無料記事】【中倉’s Voice】とあるサッカーライターが年末年始の感覚を失ってしまった理由。それでも新しい年はやってくる

新年を迎えたばかりで言うのもおかしな話だが、実は、年を越したことも、新しい年を迎えたことにも、あまり実感はない。サラリーマン時代は仕事納めや、仕事始めなど、年末年始特有の行事があったため、年を越すたびに感慨のようなものを感じたが、サッカーを観る、語ることを仕事にしてからは、まったくそんな感覚がなくなってしまった。

それには理由がある。私が安田生命保険相互会社(現明治安田生命保険総合会社)を退職したのは2015年3月。当時、早期希望退職者は半年前から出社しなくてもよいという当時の特例を利用して、トップレベルのサッカーを肌で感じるために、各カテゴリーの日本一を決める大会を取材することを決めたが、これが年末年始という感覚を失うことになった理由だった。

日本では、各カテゴリーのチャンピオンを決める大会の決勝戦が12月から1月中旬までの約1か月半の間に集中しているため、12月中旬から東京に長期滞在し、12月は中2日、中3日の間隔で、年が明ければ毎日のように大会会場へと向かった。私の中の時間は暦ではなく大会スケジュールに沿って進むため、月日の感覚が薄れ、気が付けば1月中旬という生活が何年か続いた。そして私の頭から年末年始という感覚が消えた。

それでも、新しい年が始まるという感覚に襲われる日がある。それはアビスパのチーム始動日だ。新加入の選手はどんな選手なのか。誰がレギュラーポジションを取るのか。新しくなったチームはどんなチームに仕上がるのか。そんなことを考えながら、新しい戦いが始まることを実感するからだ。特に今シーズンの戦いの舞台はJ1。去年とはまったく違う戦いの始まりに、今から例年以上に高揚しているのを感じている。

やはり注目すべきはチーム編成だろう。昨シーズンのアビスパの躍進は、チームの一体感とぶれない姿勢にあったことは間違いないが、その前提として、チームが目指すスタイルにフィットできるメンタル、フィジカル、テクニックを備えた選手でチームを編成していた。いかに優れた戦術論があろうとも、それを実行できる能力を持つ選手がいなければ、それは絵に描いた餅でしかないからだ。

「それぞれの特徴を出したら活躍できるという選手に所属してもらっている。まずはそういう根底がある」と長谷部監督も話したように、昨シーズンの強化部門のチーム編成は実に的確だった。さらに言えば、グティエレスの怪我により急きょ獲得したドウグラス グローリや、シーズン途中で獲得した松本泰志、山岸祐也らが期待通りの活躍を見せたのも、強化部がチームの状況を的確に把握し、不測の事態に備えて、常日頃から情報収集を怠らなかったことを示している。

現時点(1/2)で発表されている新加入選手は渡大生、志知孝明の2人。昨シーズンの中心選手として活躍したレンタル組の動向は気になるところではあるが、昨シーズンの強化部門の働きを見る限り、その対応は既にシーズン途中から行われていたと見るべきで、どのような結果になるにせよ、J1中位を目指すというクラブの方針にふさわしいチーム編成になることは間違いないだろう。

そして、新しくなったチームを長谷部監督がどのようなチームに仕上げるのかも、もう一つの注目点。昨シーズンはアビスパスタイルのベースを築いたが、J1の舞台はJ2とはまったく違う世界。課題である得点力はもちろん、J2最少失点を誇った守備も含めて、J1基準に沿ったスタイルにアジャストする必要がある。どのようにアプローチして、どのような変化を見出すのか興味は尽きない。

おそらく、新体制発表は1月中旬。今から新しい年が明けるのが楽しみだ。

[中倉一志=文・写真]
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