「football fukuoka」中倉一志

【無料記事】【武丸の目】逆境を乗り越えて手中に収めた勝点1。スタジアムの一体感をより強くした後半の飲水タイム

2021明治安田生命J1リーグ 第23節
2021年8月9日(月・祝)19:03キックオフ
会場:ベスト電器スタジアム/5,182人
結果:アビスパ福岡 1-1 サンフレッチェ広島
得点:[広島]ジュニオール サントス(67分)、[福岡]前寛之(90+7分)

スコアは0-1。さらには退場者を出し、10人での戦いを強いられる劣勢の状況で迎えた後半の飲水タイム。ベンチにいる監督、コーチ、スタッフ、そして控え選手から自然と声が出た。「まだまだいけるよ」、「いける、いける」、「大丈夫、大丈夫」。誰一人諦めていない。言葉だけではない。そういった姿勢でピッチに立つ選手をサポートし続けている。そんな気持ちを感じたからこそ、メインスタンドにいるサポーターから自然発生的に拍手が沸き起こり、それはベスト電器スタジアム全体を包み込んだ。

そして始まった残り4分の1の戦い。田邊草民、ジョルディ クルークス、ジョン マリ、そして城後寿。攻撃的なカードを切り続け、ゴールへと矢印を向け続ける。もちろん、リスクを冒し、攻め続ける中で、追加点を失いそうな場面もあった。そんな危険も奈良竜樹を中心に回避。「後ろは大丈夫だから点を取ろう」。そう言わんばかりの安心感と頼もしさで前線の選手、そしてサポーターをも勇気づけた。次第に大きくなる手拍子はスタジアム全体にこだまし、アビスパ戦士の背中を押しながら広島の選手には大きなプレッシャーを与え続けた。

そしてドラマは訪れる。提示されたアディショナルタイムの8分も残りわずか。右サイドでジョルディ クルークスがボールをキープ。エミル サロモンソンはインナーラップし、スペースを作り出す。そこにボールを受けに来たのはキャプテン前寛之。するりとマークを剥がし、前を向いた。迷わず左足を振り抜く。広島のディフェンスを弾く。ゴールネットが揺れる。よしっ。連敗という暗いトンネルに一筋の光が差した魂のゴール。必死に守る広島ゴールを「ホームの強い想い」でこじ開けた。

長谷部監督はいつも言う。「勝負を決めるのはゴール」。当たり前のことかもしれないが、今シーズンはその言葉がより身に染みる。なぜならJ1になってゴールに至る紙一重さが増しているからだ。現時点でアビスパは他のJ1のチームに比べ、個の能力では劣る部分も多くあると思う。ただ、その中で勝つためにゴールを奪い、ゴールを守らなければいけない。だからこそ長谷部アビスパは「チームの一体感」を大切にしている。その理由は至ってシンプル。それがないと勝てないからだ。

長谷部監督は常日頃選手を「見ている」とも言う。傍観しているのではない。この選手をどのタイミングでどのように配置すれば最大限の力を発揮して、チームの為になるかを常に考えながら選手やコーチングスタッフとコミュニケーションを取り、チームをマネジメントしている。戦術面だけに限った話ではない。この日ベンチには先日、大ケガを負ったことが発表された杉山力裕のユニフォームがあった。出場はここまで1試合。ベンチに入ることが多い中で、誰よりも最前線で声を出し、ベンチ前に転がってきたボールを誰よりも早く拾って渡す。ピッチに立つことができない時でも、誰よりも「試合に入っていた」一人に違いない。杉山だけではない。そんな気持ちを持っている選手が揃っているから自然と飲水タイムの光景は生まれる。

だからこそ今のアビスパの結束は強い。振り返れば昨シーズンのアウェイ千葉戦やホーム金沢戦も土壇場で追いつき、この勝点1があったからこそと言えるシーズンになった。だからこそ、今シーズンのアウェイC大阪戦でもぎ取った勝点1も、ホームの力で掴み取った広島戦のこの勝点1も大事に次につなげることで価値がより上がる。今のアビスパにそれができないはずはない。

[武丸善章=文/中倉一志=写真]

« 次の記事
前の記事 »

ページ先頭へ