「football fukuoka」中倉一志

【無料記事】【武丸の目】進化し続けるアビスパ。鹿島の攻撃を制圧した「連動した守備」こそ歴史に残る勝利の要因

2021明治安田生命J1リーグ 第28節
2021年9月11日(土)18:04キックオフ
会場:県立カシマサッカースタジアム/無観客試合
結果:鹿島アントラーズ 0-3 アビスパ福岡
得点:[福岡]フアンマ(26分、41分)、山岸祐也(64分)

鹿島との通算の対戦成績は2勝4分20敗。さらに1996年以来カシマスタジアムでアビスパが勝ったことは一度もなかった。ただ、「そんなことは関係ない」。そう言わんばかりにチーム全員のアグレッシブさを見せ続けて0-3の完勝。歴史を打ち破ったこの試合、フアンマと山岸祐也の鮮やかな3ゴールに目が行きがちだが、筆者は試合全体を通してのチーム全員の「連動した守備」の輝きに引き込まれた。

まずは前線からのプレス。ボールを奪いに行くスイッチを入れるのは2トップのフアンマと山岸祐也。相手のビルドアップに対して、強度高く、絶妙な角度の切り方でパスコースを制限。コンパクトな状態で後ろに構える中盤と最終ラインの選手は縦パスが入ってきたところを迷わずチェックに入り、ボールを奪いにかかる。一人でダメなら前線の選手がすかさずプレスバックをして味方をサポート。しっかりと局面で数的優位を作り出し、持ち前の球際の激しさと粘り強さを加えながら奪い切り、奪っても休まず、そして良い距離感を生かしたまま素早く攻撃へと移行する。それが見事なコンビネーションによって鹿島の守備ブロックを崩す3ゴールへとつながっていた。

個人的に強く印象に残っているのは3点目の場面。スタートは金森健志のプレス。敵陣深くで1度は相手ボールになったが、素早く攻守を切り替えてチェックに行ったことで、鹿島の安西幸輝はクリアする選択肢しかなかった。そのボールを最終ラインからプッシュアップしていたグローリがダイレクトパスで前向きにつなぐと、それを受けた湯澤聖人が縦へのスピードを加速し、ハーフスペースにフリーでポジションを取っていた金森健志へパス。そこからの見事なクロスを山岸祐也がヘディングで叩き込んだ。

この試合で存分に表れた長谷部監督の目指す「良い守備」からの「良い攻撃」の形。これにはチーム全員の献身的な守備が欠かせない。現代サッカーではマストとなっているが、それをピッチに立つ11人全員が連動した状態にするのは日本のトップカテゴリーのチームでも容易なことではない。ただ、今のアビスパは相手に高くポゼッションされようとも、その姿勢は緩むことなく、その精度と強度は試合を重ねるごとに高くなり、どの選手も楽しそうに意欲的に取り組んでいる。

以前、その理由を長谷部監督に尋ねたことがある。こんな答えが返ってきた。
「意欲的にやってくれる選手が来ているということと、守備をするのが当たり前という位置づけを選手には理解してもらっています。サッカーというのはボールがないときは守備なので、基本的にどんなに強くてもボールを持てるのは60%ぐらいですね、65%とか。ですから35%、30%は絶対に守備をするわけで、その30%、まあ40%ぐらいで守備をしなければ、どの国でも、多分どのチームでも上手くいかないという位置づけで選手たちに伝えています。選手もそれを理解しているし分かっています」
そんな言葉をより実感する格別の試合、そして勝利となった。

[武丸善章=文/中倉一志=写真]

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