「football fukuoka」中倉一志

【無料記事】【武丸の目】新たな息吹到来!逆転勝利を引き寄せた北島祐二の抜群の存在感

25→6。68分、第4の審判員が交代を示す表示を掲げた瞬間、ベスト電器スタジアムは一際大きな拍手に包まれた。「よくやった」。「素晴らしいプレーだった」。そんなアビスパサポーターの想いが表現される中、背番号25の北島祐二はその想いをゆっくりと、そして、じっくりと噛み締めながらベンチに下がった。

逆転勝利を収めたこの試合でヒーローは豪快なヘディングシュートで逆転ゴールを決めたフアンマ。あるいは後半開始から登場して右サイドを制圧し、弾丸シュートで同点ゴールを挙げたクルークスになるのかもしれない。だが、筆者は北島祐二しか考えられない。なぜならルヴァンカップの磐田戦に続き、2試合連続で攻撃に効果的な「リズム」を与え続け、彼なしにはこの逆転劇は生まれなかったと言っても過言ではないパフォーマンスだったからだ。

例えば、同点ゴールのシーン。通常、右サイドのコーナーキックは左足で鋭く、高精度なボールを送り込むクルークスがキックに向かう。ただ、このシーンは北島祐二が向かった。「宮(大樹)くんだったり、中で待っている選手も『お前に蹴ってほしい』と言われた」と話すようにチームメイトも一目置くキックの質の持ち主。これでクルークスは得意な位置へ構えることができた。北島祐二のキックにクルークスのキック。ゴールの可能性がまた一段と広がった。「もう1度(クロスを)上げようと思ったんですけれども、ジョルディ(クルークス)が見えたので直前で変えた」。志知孝明から戻ってきたボールを受けると、落ち着いて状況判断。冷静にプレーをキャンセルして、クルークスにパスを送り、スーパーゴールにつながるアシストを記録する。

このシーンだけではない。この試合、スタートはトップ下のポジションを任された。「僕の特長である狭いスペースで受ける動きだったりを出してほしい」と長谷部監督にオーダーされた攻撃のタスクを遂行。3-1-4-2のシステムを採用する湘南のアンカー脇のスペースに上手く潜り込み、前半途中で左サイドハーフにポジションチェンジをしても山岸祐也やフアンマらと抜群の距離感で攻撃にリズムを作った。

良いポジショニングと冷静な状況判断があるからこそ、彼の素晴らしいキックの質が活きている。筆者の感覚としてはこうだ。昨シーズンまではドリブルで果敢に仕掛けるものの、すぐに相手の守備網に引っかかってしまう印象が強かった。だが、今シーズンは一味も二味も違う。

まず、視野が広がったことが大きいように思う。ボール保持の場面では、ルックアップする時間が多くなり、冷静に味方と相手の立ち位置を把握できるようになった。それに伴い、ここはドリブルで行けるのか、味方にパスでボールを預けたほうがよいのか、はたまたシュートをチョイスするべきか。あらゆる選択肢を持ちながら、次のプレーに素早く移行できるようになり、自身の特長がより活きるようになった。

オフ・ザ・ボールでもそれは同じ。冷静な状況判断で相手の捕まえづらいポジションを確保。狭いスペースでも良い位置を取ることで味方からボールを呼び込めるようになり、明らかにボールタッチ数は増えた。ボールに触れるだけではない。そこからキックの質の高さを活かして良い展開を生み、見ている側もワクワクするリズムを作り出す。だからこそ、「(スタートは)北島(祐二)を真ん中で使って、前の選手たち、脇の選手に配給する、あるいは自分がトライできるのかということでした。一つ惜しいシュートがありましたが、ああいう場面を期待して起用しました」と話す長谷部監督の言葉にも頷けるし、ルヴァンカップ2試合連続アシストも必然の出来事であろう。

北島祐二の次なるターゲットはリーグ戦出場、そしてプロ初ゴールだ。現在、アビスパはリーグ戦では得点力不足に喘ぎ、なかなか勝利を挙げられない苦しい状況にある。だからこそ、期待してしまう。北島祐二の更なる躍動でこの状況を打破してくれることを。

[武丸善章=文/中倉一志=構成・写真]

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