「football fukuoka」中倉一志

【無料記事】記念すべき日に行われる重要な試合に思うこと。勝ち抜くことでもう一歩先のアビスパが見える:【中倉’s Voice】


※2018年8月4日、山梨中銀スタジアムで後押しするアビスパサポーター

記念すべき試合を迎える。2020年開幕戦以来、約2年4カ月ぶりに解禁される声出し応援。まだ運営検証の段階で、コロナ前のように自由に応援ができるようになるには時間が必要だが、少しずつ、少しずつ、Jリーグの日常が戻ってこようとしていることが感じられる。部分的とはいえ、両チームのサポーターが作り出すスタジアムの雰囲気が今から楽しみでならない。

さて、その試合でアビスパ福岡は鹿島アントラーズと対戦する。ルヴァンカッププレーオフステージ突破がかかる大一番。いつもなら試合前から気合が入るものだが、なぜか落ち着いている自分がいる。今のアビスパなら、どういう状況であれ自分たちらしい戦いをしてくれるはず、そんな確信めいたものがある。もちろん、簡単な試合であるはずもない。正直な言い方をすれば難しい試合になるのは間違いないだろう。それでも、アビスパはアビスパらしく戦ってくれるだろう。

昨シーズン、鹿島に対して15年振り2度目の勝利を挙げたアビスパ。ベスト電器スタジアムでの興奮は、まるで昨日のことのように蘇る。また、鹿島のお株を奪ったような戦い方でアウェイで3-0で完勝した試合も、これまで取材した試合の中で記憶に残る一戦だ。そして昨シーズンからの対戦成績を振り返れば、リーグ戦、ルヴァンカップを合わせて3勝1分2敗。あれほど力の差を感じさせられ続けた相手に対して互角の数字を残しているアビスパに、改めて積み上げてきたものの大きさを感じる。

もちろん、だからと言ってアビスパが鹿島を上回っていると言う気はない。リーグ戦での成績は9勝3分4敗で2位に着ける鹿島と、4勝7分5敗で12位に着けるアビスパと、数字が表しているように互いの間に力の差はある。それでも「自分たちの力を出せば、そこ(勝利)に近づくと思っている」と長谷部茂利監督が話すように、確実にアビスパは力を付けてきている。それは「大改革宣言」をしたクラブと、長谷部監督をはじめとする現場スタッフ、選手たちが2020年から積み上げてきた成果だ。

発展途上のチームは、まだまだコツコツと積み上げている段階だが、今日の一戦は現時点での自分たちの立ち位置を測る重要な試合。そして目標である「カップ戦ベスト4以上」を達成するために乗り越えなければいけない試合。サポーターのチャントに後押しされてホームで戦う鹿島が強いのは誰もが知っていることだが、アビスパにも各地から鹿島サッカースタジアムに駆け付け、チャントで選手を後押しするサポーターがいる。リーグ戦での力関係に拘わらず、負けるわけにはいかない。

私が最も注目しているのは、両チームがどのように試合を進めるのかということだ。初戦で鹿島にアウェイゴールを与えずに1-0で勝利したアビスパは、引き分け以上で、あるいは敗れたとしても、アウェイゴールを奪っての1点差ならプレーオフステージ突破が決まる。そのような状況の中で鹿島が、そしてアビスパが、どのように試合を進めるのかは非常に興味深い。長谷部監督は次のように話している。

「基本的には勝って終わりたいというのがある。ただ、時間経過とともにどういうふうにしていくかというところが重要になってくる。試合が始まって10分、15分、あるいはハーフタイムでいろいろな考え方があると思う。どの点差で自分たちが勝ち上がれるかということが一番重要だと思うので、それを加味して戦略というものを作っておきたい」

ゴールを奪うことのメリット。ゴールを狙うことによるリスク。時間と点差。それを睨みながら進める試合は、得点数に拘わらず、様々な駆け引きの中で行われる中身の濃いものになることは間違いない。ゲームをコントロールすることにおいてはJリーグ屈指の鹿島だが、その相手に対して、技術、戦術、組織力だけではなく、そうした戦いを挑むアビスパの姿を見られることにも心が躍る。おそらく、最後の1分まで勝敗の行方が分からない試合になるだろう。

もちろん、願うのはアビスパの勝利。選手たちは最大出力で鹿島に挑み、ゴール裏に陣取るサポーターはチャントで選手の背中を押す。そして、声を出すわけにはいかない私は記者席から念を送りたいと思う。求めるものはプレーオフステージ突破という結果。それを手に入れた時、アビスパはもう一歩先に行ける。その瞬間を、スタジアムに集う仲間と、DAZNで見守る仲間と、様々な場所からアビスパに想いを送る仲間と一緒に分かち合いたい。キックオフは15:00。勝利の雄叫びを挙げるのはアビスパだ。

[中倉一志=文・写真]

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