「football fukuoka」中倉一志

帰って来たジョン マリ。常識破りの強さと得点感覚が生み出す理不尽なゴールがアビスパを勝利に導く:【中倉’s Voice】

その瞬間、スタジアムにどよめきが起こった。
J1リーグ第22節湘南戦の88分。前寛之からの浮き球のパスをゴールに背を向けた体制で胸トラップすると、素早く反転して右足を振り抜いた。鋭い弾道を描いたボールはクロスバーの上に外れたものの、「理不尽なゴール」「何もないところからゴールを生み出す」と評されるにふさわしいプレーだった。やはりジョン マリはジョン マリだった。

ファン、サポーターに強烈な印象を残したのは2021シーズン。シーズン途中に期限付き移籍でアビスパに加入すると、圧倒的なフィジカルの強さと得点感覚で16試合544分の出場時間ながら5得点を記録。特に記憶に残るのが移籍後初ゴールとなった第12節の浦和戦でのゴールだ。1点のリードで迎えた86分に右足から放ったシュートは日本代表経験を持つGK西川周作の正面を突いたが、西川が差し出した両手を吹き飛ばしてゴールネットを揺らした。その有無を言わせずゴールを奪う豪快なプレースタイルはファン、サポーターを魅了した。

契約満了につきシーズン終了後には惜しまれながらチームを離れたが、その豪快なプレーを再びアビスパで見せてほしいという声は多く、アル・シャバブを退団したとの報が流れた時は、SNS上で「アビスパに帰ってきてほしい」という声が溢れていた。そんな中での決まったアビスパへの復帰。合流6日目となる湘南戦では14分間のプレーだったが、そこで見せたプレーはファン、サポーターの期待を裏切らないものだった。

役割として求められるのはゴール。長谷部監督は次のように話す。
「得点力を期待して再度来てもらったということ。簡単に獲得できる選手ではないが、ずっと追いながら最終的には獲得できることになったので強化部には感謝している。今シーズンを迎えるにあたって、ある程度、守備は計算できるのではないかという算段がある中で、グループとして点を取る場面に加えて、個人で取れる選手をずっと探していたが、彼はそれにふさわしい選手」

ジョン マリ自身も自分にかかる期待は十分に承知している。
「ストライカーとして点を取るということは当たり前のこと。特別に意識することはない。ただ点を取る、そういうこと。またチームを勝たせることが自分の仕事なので、自分が点を取ることはもちろん、アシストするということも自分の役割のひとつ。そして、自分はキャプテンではないが、このチームを引っ張っていける存在になれるように頑張っていきたい。今の時点で具体的に何ゴールかというのは言えないが、チームを勝たせるためにできるだけ多くのゴールを取りたい」

今シーズンの目標を8位以上に掲げるアビスパは、8位の浦和に勝点差2の10位に付ける。しかし今シーズンの中位争いは大混戦。8位の浦和から13位の名古屋グランパスまで勝点4差の間に6チームがひしめき合い、おそらく最後の最後までどうなるか分からない戦いが続く。その戦いを制する鍵のひとつとなるのがジョン マリ。アビスパに関わるすべての人たちの期待を背負ってゴールを目指す。

[中倉一志=取材・文/アビスパ福岡=写真提供]

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