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金沢星稜大が天皇杯出場決定。苦しんだ準決勝を経て見直した自分たちのストロング【無料記事】

新型コロナウイルスの影響で延期になっていた石川県サッカー選手権大会の決勝戦が29日に行われた。カードは3年連続同一となる北陸大学vs金沢星稜大学。一昨年は星稜大、昨年は北陸大と優勝を分け合ってきた両チームだが、今年は後半に挙げた1点を守りきった星稜大が勝利し、記念すべき100回目の天皇杯出場権を手にした。

 

序盤をしのいだ星稜大が反転攻勢に

 

熱中症対策のためキックオフは当初の予定より1時間繰り上がり9時となったが、それでも気温35℃に迫るなかでの消耗戦となった。

 

最初に主導権を握ったのは北陸大。4分にスルーパスから太田和隆斗がシュートを放つと、7分にも太田和がサイドで粘ってボールを出し東出壮太がシュートまでもっていく。星稜大のセンターバック・小園悠馬も「結構セカンドボールを拾われて、アンカーとセンターバックのスペースを使われていた」と振り返ったが、北陸大は長いボールを有効に使って前で起点をつくる、もしくはセカンドボールをうまく拾って二次攻撃を仕掛けていった。

 

しかし星稜大は次第にその圧力に対応できるようになる。アンカーの山崎推智をはじめとした選手ひとりひとりが球際で力強さを発揮。守備からリズムをつくると、攻撃でもピッチを広く使って相手を揺さぶり、中が開けばそこを使ってゴールに迫る。とくに杉本峻斗に青木駿太、中川偉温などが絡む右サイドは徐々に深く押し込めるようになっていった。

 

ハーフタイムで矢島芽吹を入れてテコ入れを図った北陸大だが、主導権は奪い返せない。長いボールを使いながら活路を見出そうとするが、星稜大の対応が早く、起点をつくろうとしてもすぐに複数人に囲まれつぶされてしまう。

 

星稜大は右サイドからの攻撃、そして中川偉温のロングスローなどでチャンスをつくって押し込むと、63分のことだった。右サイドをえぐって杉本が低いクロスを上げると、花枝龍之介が押し込んで先制に成功した。

 

その後も星稜大はチャンスをつくる。71分にはフリーキックの流れから杉本がシュートを放つが惜しくも右に外れる。85分にもロングスローから杉本が決定機を迎えたが、キーパーの好セーブに阻まれた。

 

北陸大は後半シュート2本に抑え込まれてしまった。73分には矢島が左サイドから切れ込んでシュートを放ったがバーを直撃。これが決まっていればゲームの行方は変わっていたかもしれないが、全体的に星稜大の守備の集中力のほうが上回っていた。

 

73分の最大のピンチをしのいだ星稜大は、終盤にセットプレーが続いた時間帯も跳ね返し続け、1点を守りきることに成功。2年ぶりに石川の頂点に返り咲くとともに、天皇杯出場を決めた。

 

土俵際まで追い詰められた準決勝を経てチームのベクトルが統一

 

「僕はなにもしていない。4年生が僕の分身」という星稜大の小松崎保監督。トレーニング内容、分析、試合での課題にどう取り組むかといった部分ではキャプテン、副キャプテン、学生コーチの3人を筆頭に4年生が中心となってチームを回しているという。

 

今年は新型コロナウイルスの影響で2ヶ月間、クラブとしての活動が休止された。選手たちは各自の地元に帰ったが、その間も副キャプテンの杉本が練習メニューをつくり、SNSで共有しながら個々でできるトレーニングを続けた。

 

そして迎えた今シーズン最初の公式戦が22日の県選手権準決勝・金沢大学戦だった。この試合で星稜大は金沢大に先制を許し、土俵際まで追い詰められた。起死回生の同点ゴールが決まったのは後半終了間際のこと。そこから延長戦の後半に勝ち越しゴールを奪い、苦しみながら決勝戦に駒を進めている。

 

キャプテンの河野は言う。「金沢大学さんは戦い方がしっかりしていた。自分たちなりにやっていたつもりだったが、まだまだ取り組み方が甘いと感じた。この1週間は決勝に向けて一層チームのイメージを統一しようという意見がたくさん出て、下級生の意見を取り入れた。サッカーは(チームとして)勝利を目指すものなので、チームのベクトルがひとつの方向を向かないといけない。下級生だから意見が言えないという環境はよくないと思う」。

 

チームとしての強みはなにか。「北陸大学さんは実力などでも自分たちよりも上だと思う。そのなかで自分たちができることは戦うとか、泥臭くやること。それが自分たちのストロングだと思う。そういうところを意識してできていた」。キャプテンが言う「ストロング」は決勝のピッチに表れていた。

 

球際の強さ、囲みの早さ、カバーリング、競り合い、セカンドボールへの反応。たとえ個々の能力で劣っていようとも、同じ大学生、ましてや同じ北信越1部というカテゴリーで戦っているということであれば、そこまでの大きな差はない。気温34.8℃という過酷な環境であるならば、なおさらである。

 

そしてピッチレベルで気になったのが「声」だった。星稜大の選手は厳しい環境のなかでも集中を切らさないように、常に声を掛け合っていた。センターバックの小園も声を出し続けた。「もともと気合系」という小園。神戸に在籍する菊池流帆ほどではないが、90分を通して叫んでいた。空中戦で勝利したとき、プレーが切れたとき、そしてもちろん味方を鼓舞し、動かすときも。自身もアラートに戦い続けており、皆が疲れてきた88分には右サイドで相手選手が抜けそうになったところをうまくカバーし、ピンチの芽を摘んだ。「準決勝は自分たちのサッカーができずに苦しんだ。その反省を生かして決勝でも、とりあえず跳ね返すことだったり、ディフェンスラインが集中してゼロで抑えることを意識していた」と小園。その言葉通りよく跳ね返し、ディフェンスライン全体としても最後まで集中を切らさなかった。

 

新型コロナウイルスの影響で各チームが難しいチームづくりを強いられ、さまざまな制約があるなかで開催された今大会。この異例の大会を制した星稜大のキャプテン・河野は言う。「コロナウイルスの影響で多くの大会がなくなっているなかで、県選手権を開催するために尽力していただいた石川県サッカー協会のみなさんに感謝したいと思います」。そして最後に天皇杯の目標を力強く語ってくれた。「2年前に天皇杯に出たが、1回戦で奈良県代表の奈良クラブさんと対戦して、JFLというレベルの高いチームを相手に自分たちはなにもできなかった。その悔しさがある。2年越しのリベンジを果たしたい」。

 

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