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【無料記事】Jリーグの舞台で初めての福島ダービー。熱く戦いつつも冷静さを持ち合わせられるか?【第8節いわき戦プレビュー】

福島ユナイテッドFCは5月4日(水)16:00~とうほう・みんなのスタジアムで明治安田生命J3リーグ第8節いわきFC戦に臨む。

いわきとはこれまで天皇杯福島県予選やプレシーズンマッチでは対戦があったが、いわきのJ3リーグ参入に伴い、ついにJリーグでの対戦が実現した。

既に前売りで2,000枚以上のチケットが売れ、5月2日のメディア向け練習公開日は、在福テレビ局3局と、県内各新聞社が集まり、過去最多ではないかと思うほど多くのメディアが集まった。2日午後に行われたZOOM会見も、東京のメディアが参加しており、注目度の高さが伺える。

見どころはいろいろある試合だが、リーグ戦での初めての福島ダービーという状況に呑まれすぎないことが重要だ。

1.どんなダービーになるのかは誰も分からない。

世界各国にはさまざまなダービーマッチがあり、日本でも埼玉ダービー、静岡ダービー、大阪ダービー、千葉ダービー、みちのくダービーなどさまざまなダービーマッチがある。特に埼玉、静岡、大阪などは非常にヒートアップし、海外のダービーにも似た互いのサポーターが火花を散らす雰囲気がある。

ジュビロ磐田の選手として、数多くの静岡ダービーを戦った服部年宏監督は、静岡ダービーにどう臨んでいたかを問われると「やりたいような、やりたくないような…。負けたら何を言われるか分かりませんし、勝ったらもちろん良いですし。サポーターが前日に来て旗をバーッと出して、『お前ら負けたら分かっているだろうな』というような雰囲気」と語っていた。数々の厳しい試合を経験してきた服部監督にとっても、静岡ダービーは相当プレッシャーがかかる一戦だったのだ。

では、福島ダービーがどんな雰囲気になるのだろうか。それは誰にも分からない、というのが本当のところではないだろうか。「最初なので、選手も正直そういうことは分からないと思います。これはやっていかないと分からないですし、クラブ同士も街同士も選手同士もやっていかないと分からないものです。清水と磐田にしても一番最初の時と10回目の時では違います。経験が大事なので、フレッシュな感じでやって『こういう感じになるんだ』と分かっていって、これが積み重なっていけば出てくると思います。心構えと言っても正直何とも言えないかな、と」という服部監督の見立て通りではないかと思われる。

もちろんいわきには絶対負けない、福島には絶対負けない、と意気込む両チームのサポーターがいるのは間違いないだろう。しかし、福島もいわきも頑張っているので両方応援したい、という声も聞かれた。あと、なんだか楽しそうだから行ってみよう、という人もかなりいるのではないだろうか。

2日のZOOM会見でいわきの大倉智代表取締役はこんなことを語っていた。「選手だけでなくお客さまも含めてみんながつくるもの」。まさにこれから文化がつくられる、その最初の日なのである。

MF遊佐克美はZOOM会見で「歴史が始まります。いろんな人が積み上げてくれたからこそ、この地で一歩目を踏み出せます。試合を見てお互いのチームを応援して良かったと思ってもらえれば。サッカーが福島に根付く、生きている人の活力になり文化として根付く一歩です。この1試合だけでなく、いつかはJリーグのトップカテゴリーで50年100年の歴史になると確信しています」と語った。

これから長い間戦い続けるであろう両チームの紡ぐ物語の1ページ目がどうなるのか、誰にも分からないその1ページ目をそれぞれのスタンスで楽しめば良いのではないだろうか。ダービーだから熱く激しくなければ、と思う方もいらっしゃるかもしれないだろうが、自然と熱くはなるだろうし、まずは歴史の第一歩はどんな感じになるのかな、とそれぞれの人がそれぞれの思いを持ち寄って楽しむ場になれば幸いだ。

2.鍵はサイドの攻防。好調いわき攻撃陣をどう止める?

対戦相手のいわきだが、ここまで4勝2分け1敗。第1節から第8節まで映像を見てみたが、素晴らしいチームであることは間違いない。フィジカルが強い、パワフルなプレー、みたいなイメージを持っている人は多いだろうし、実際それはいわきの側面の一つだろうが、そこしか見ないと落とし穴にはまるであろう。

一番注意しなければならないのはゴールに向かう道筋がしっかりデザインされており、ゴールへの意識が非常に高いチームであるということだ。

そしてサイドの選手が攻撃の起点となっている。一番脅威なのが右サイドバックのDF嵯峨理久だ。青森山田高や仙台大で右サイドハーフとして活躍してきたが、一列下がったところでゲームメイクをしているのが非常に効果的だ。クロスボールでアシストもできるし、カットインしてシュートも狙える。攻撃センスは抜群だ。J3では別格と言えるクラスの選手であろう。

その他にもMF岩渕弘人、FW鈴木翔大、FW有馬幸太郎、FW有田稜、FW古川大悟などアタッカー陣は皆、個性がありいずれもゴールへの意欲は高い。彼らの勢いに呑まれてしまえば、いわきの勝利の確率は高くなるだろう。

また攻撃陣にボールを配球するキャプテンMF山下優人、MF宮本英治も能力が高い。センターバックのDF星キョーワァンはJリーグ上位カテゴリーでプレーしていた選手であり、DF家泉怜依もフィジカル、判断力共にレベルが高い。どのポジションにも大きな穴は見当たらない。

では、どうすればというところだが、まずはフィジカルの強い相手であっても、球際勝負で負けないということは最低条件となってくる。その上でMF諸岡裕人が「主導権争いではセカンドボールも含めて負けないように、チームが押し込める展開をつくるには自分たちのところ(ボランチ)が重要だと思うので、意識してやっていきたいと思います」と語る通り、ボランチの部分での球際勝負やそこからの配球は大きな鍵となってくる。

そして攻撃の起点となるサイドで優位性を保てるかどうかが鍵となる。必然的にDF田中康介、DF北村椋太がどれだけ攻撃する時間を長くできるかは重要になる。とりわけ嵯峨とマッチアップするであろう北村だが「相手あっての試合なのでそこは多少意識しますが、自分のやるべきことを遂行するだけかな、と思っているので、相手はあまり関係ないと自分では思っています」とあくまで冷静だ。過剰にいわきのやり方を意識し過ぎてもうまくいかない可能性は高い。あくまでしっかり相手を見て立ち位置を取る、というベーシックを大切にやってきた福島らしい守備を大事にしていく必要はあるだろう。

3.不確定要素の多い試合こそ、できる準備を入念に。

ダービーというのは、予想もしなかったことが起きやすいのは確かだ。ヒートアップするので退場者が出る可能性もあるだろうし、負傷者が出てしまう可能性もある。いろんなことを想定しなければならないが、想定しきれないことも起きてしまうかもしれない。

試合の雰囲気を含めて、不確定要素が多くなることは間違いないが、だからこそ想定できることに対して、できる準備を入念にやっていく必要がある。山本は「フラットに、大事な1つの試合だと思って臨むようにはしています。ダービーだからいつも以上の力を出そう、ではなくて、練習でできている最大限の力を、しっかり見に来てくれたサポーターまたは仲間に見せることの方がとても大事です」と語る。

学校の試験などと同じようなもので、自分の実力以上のものは出せない。積み上げたものをしっかり出す、ということにしっかりフォーカスしていく必要があるだろう。

また、大事な一戦ではあるが、34試合のうちの1試合という側面もあるのだ、ということを頭に入れておくことも重要である。この試合だけにフォーカスし過ぎると、その後の試合で失速しやすくなるし、負けた場合の気持ちの切り替えも難しくなる。また変な力がこの試合で入りやすくもなる。「高ぶる気持ちはあると思いますが、34試合のうちの1試合なので、もちろん特別な試合であることに変わりないですが、できるだけ平常心でいけるようにチームのみんなに声をかけたいと思います」と諸岡が語る通り、いつも通りの心持ちで臨むことが肝要だろう。

福島サポーター、いわきサポーター、両チームを応援する人たち、まずは試合を楽しみたい人たち、東北のサッカーの歴史の目撃者になりたい人たち、いろんな思いを持ってとうほう・みんなのスタジアムに集まる。選手も含めて、それぞれがそれぞれの思いでこの試合を楽しんでほしい。熱い気持ちを持ちつつも、冷静に戦える方が勝つのがダービー。ぜひ熱くクールに戦ってもらいたい。

(明日5月4日お昼頃、2日に行われた福島ダービーZOOM会見についてお送りいたします。また、試合後は監督・選手コメントをお送りいたします)

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