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【無料記事】相手の攻撃の核を封じ、サイドの守備の穴を執拗に突く。意識の徹底が生んだ完勝【天皇杯1回戦ノースアジア大戦レビュー】

天皇杯1回戦

福島ユナイテッドFC7-1(前半5-1/後半2-0)ノースアジア大学
得点者
(福島)1分・38分(PK)・45+3分・64分高橋潤哉、20分・45+1分長野星輝、86分森晃太

天皇杯JFA第102回全日本サッカー選手権大会がいよいよ開幕した。6年ぶりに福島県代表としての出場を果たした福島ユナイテッドFCは、1回戦はとうほう・みんなのスタジアムにて秋田県代表ノースアジア大学と対戦した。

天皇杯初出場、そして東北大学サッカーリーグ1部に昇格したばかりと勢いのある大学生相手にどんな試合をするか注目されたが、結果的にはプロの意地を見せつけ、圧勝という形で終わった。

7得点を挙げた攻撃陣は賞賛に値するが、それを引き出したのは序盤に失点するもその後崩れなかった守備陣の踏ん張りにある。

1.相手の攻撃の核を封じた大武峻

福島は直近のリーグ戦ガイナーレ鳥取戦から1人だけを入れ替え。仙台大在学中で特別指定選手のMF粟野健翔はこの大会に出場できないため、MF上畑佑平士が先発出場した。

ほぼベストメンバーで臨んだ理由について服部年宏監督は「今週この試合しか無いということで、選手のゲームコンディションも含めてベストメンバーで臨むことが次のリーグ戦に向けてもリズムとして良いというのが一つと、こういう試合で選手たちが積み上げたものがうまく出れば良いな、と思いました」と意図を語っている。

一方、ノースアジア大は4-2-3-1のフォーメーション。1トップのFW李昌禧(3年、SC相模原U-18出身)は身長193cmの長身。その後ろトップ下のMF内垣祥一(2年、清明学院高出身)はドリブルなど小技の効く選手だ。

ノースアジア大はボールポゼッションを大切にし、DFラインを高く上げて、攻撃的に試合を進める好チームだ。Jクラブ相手にもそれを変えずにどれだけやれるかを試す格好となった。

福島は開始1分雪江悠人のスルーパスに抜け出したFW長野星輝のクロスにFW高橋潤哉が合わせてあっさりと先制に成功するが、9分MF登録だが左サイドバックに入ったノースアジア大櫻井陽斗(2年、帝京長岡高出身)の縦パスを受けた内垣がドリブルで福島の選手の間を抜いて、ゴールを決めて同点に追いつく。どういう出方をするか分からない相手を見過ぎてしまい、球際に行くのが遅れてしまった。

しかしここから崩れなかった守備は賞賛に値する。大きく貢献したのは身長189cnの長身DF大武峻だ。大武は必然的に相手の長身FW李と競り合う形になったが、大武よりも身長の高い李との競り合いで負けなかった。体の使い方やヘディングのタイミングなどで圧倒的に優ったのだ。

ノースアジア大としては李にロングボールでボールを預けて攻撃の起点として、こぼれ球を内垣やMF高橋優(2年、大成高出身)、MF和田雄飛(2年、大谷室蘭高)らに拾わせたいところだった。しかし李がボールをおさめられないため、それができず、「ワイドハイにショートカウンターで狙おうとしたのですが、あまりそれはできなかったという感じです」とゴールを決めた内垣が語った通り、狙いとしていた攻撃の形が出せなくなってしまった。

ノースアジア大鍵本勝美監督は福島に2点目が入った38分、李をFW佐伯蓮(1年、ガイナーレ鳥取U-18出身)に交代させる選択をせざるをえなかった。「ボールを失う回数が多かったので、そういうゲームをやればすぐに交代させます」と前半途中での交代の意図を語る鍵本監督。李にとっては悔しさの残る交代だっただろうが、J3では別格のセンターバックである大武と対峙してボールをおさめるのはプロでも難しい。プロのセンターバックの凄さを体感できたことをぜひ今後に生かしてもらいたい。

この交代により、ノースアジア大は地上戦で攻めざるをえなくなり、福島としては非常にゲームを進めやすくなった。大武が相手の攻撃の核であった長身FWを完璧に封じたことはこのゲームにとって非常に大きかった。

2.意識の徹底が大勝を生んだ

これだけの大勝となったもう一つの要因は、攻守にやるべきことを徹底できたことにある。昨日取材に応じた全ての選手がそれを語っている。キャプテンのMF諸岡裕人は「どんな試合でも自分たちのやるべきところをやろうということがチームの中で徹底できている」と語り、この試合4得点の高橋も「難しさがある中で、相手どうこうじゃなくて自分たちがやらなきゃいけないことをチームとしてやり続けていくことが多く表現できた部分はあったと思います」と語る。

2得点の長野は「チームとしての攻撃の形が練習からみんなで合わせていった部分が大きいと思います。崩してクロスを通過させるところなど、みんなの意志が合ってきたと思います」とここ最近の試合でもよく見られているクロスからのゴールが多かったことにも手応えを感じていた。

常日頃服部監督が話している「目の前の試合に全力を尽くす」という姿勢が、選手の間にも浸透し、相手がどうあれやるべきことを最初から最後まで徹底するという意識が自然と身につき始めている。

4月の東日本国際大戦の時はまだ「大学生相手だからこのくらいで良いだろう」とまでは思っていなかったかもしれないが、やや雑なプレーが目立った。高橋が「チーム全体として天皇杯福島県予選の大学生(東日本国際大)との試合から、いろいろつなげられた部分が多いと思います」と語った通り、その時の反省をこの試合で生かせた面も大きいだろう。

※※※

かくして、6月1日(水)19:00~浦和駒場スタジアムで行われる2回戦浦和レッズ戦に駒を進めることに成功した。浦和レッズはスペイン国籍のリカルド・ロドリゲス監督が率いて2年目。ポジショナルプレーを浸透させ、スペースをうまく使った先進的なサッカーを繰り広げている素晴らしいチームだ。クラブとしても日本では巨大規模のクラブだ。そうした日本のトップレベルのクラブの胸を借りて試合ができるのは本当に素晴らしい機会である。

選手たちも楽しみにしているようだが、5月29日のテゲバジャーロ宮崎戦から中2日ということで、コンディション的にはなかなか厳しい。しっかりとコンディションを整えて、良い準備をして、思い切ってぶつかってほしい。そうすればどんな結果になろうとも、何か得るものがある試合となることだろう。

(5月23~24日は更新をお休みいたします。5月25日は特別企画をお送りする予定です)

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