「GELマガ」鹿島アントラーズ番記者・田中滋WEBマガジン

★無料記事★昌子源残留の舞台裏/【チーム編成】

柏戦後、鈴木満常務取締役は多くの報道陣に囲まれて昌子源の海外移籍について問われると「もう決着が着きました」と言い切った。

ただ、その表情はかたく、それ以上の質問をぴしゃりと寄せ付けない雰囲気があった。

翌23日、「隠すことじゃないんで」と、昌子源が真相を語りはじめる。

昌子には昌子の意志があり、鹿島には鹿島の事情がある。白黒ついた状態を決着というのなら、その色は限りなく白に近いグレーだった。

 

 

まず、始めに5億円以上のオファーが届いたとき、昌子はクラブに「行きたい」と、伝えている。つまり、昌子に海外でプレーする気持ちがないわけではなかった。

しかし、クラブは首を縦に振らなかった。「お金の問題じゃない」と、いまの状況で守備の要である昌子を出せないと判断。内田篤人がシャルケに移籍したときよりもはるかに多くの金額を積まれても移籍を承諾しなかった。

ただ、オファーしたクラブは熱心に交渉を継続する。昌子の代わりとなるCBを用意するとまで言い、獲得に並々ならぬ熱意を示した。しかし、鹿島は、どんな選手だろうと昌子の代わりがそんなに簡単に務まるはずがない、と判断。声で周囲を動かせるCBとして高く評価し、やはり出せない、という”決着”に達したのである。

 

昌子は「お金じゃない」と言ってもらえたことに「素直に嬉しかった」と言った。そこまで言われた選手は歴代でも数少ないだろう。それに意気を感じない選手ではない。

普通であれば、それだけの額を提示されれば「どうぞ、どうぞ」と移籍先に差し出されてもおかしくない。それでも鈴木常務は首を縦に振らなかった。それだけ特別な選手と思われていることは、昌子のプライドをくすぐった。

 

海外移籍を完全に諦めたわけではない。

「もし数十億のオファーが来たらもう一度話してみたい」と、海外に傾いた気持ちは残っており、新たな交渉材料がもたらされれば、もう一度、話し合う機会を設けたいと感じている。

そうしたオファーはさすがに来ないと思われるが、移籍マーケットは期限である8月31日まではなにが起きるかわからない。つまらない額なら、はなから移籍する気はないが、鹿島に数億のお金を残して、堂々と海を渡りたい気持ちは残っているのだ。

 

こう書くと、昌子の気持ちは定まっておらず、フワフワしたままプレーしてると思う方もいるだろう。しかし、そうではないことをすでに彼はプレーで証明した。

「海外に移籍できないからといって腐ってるつもりもない。いまは鹿島の選手。監督に行け、と言われれば全力を尽くします。それをちょっとは証明できたと思う」

柏戦でのパフォーマンスは文句のつけようがなかった。鹿島への忠誠心に変わりがないことを、言葉だけでなくプレーでも示した。

 

昌子は鹿島とJリーグに強いプライドを持っている。「海外に行かないと成長できない」といわれる風潮にも、そうした一面があることを認めつつも、Jリーグでも成長できる部分があると信じている。

「プロになって7年半。鹿島で学んだことをそのままW杯で出した結果、今回のオファーにつながった」

自分は海外で成長したわけじゃない、鹿島で、Jリーグで成長したんだ、という強い自負を持っている。

 

このまま鹿島に残れば「なんだ海外に行かないのか」「がっかりした」という批判の声が上がるだろう。代理人の新井場徹も「また海外移籍に失敗した」と言われるはずだ。事実がそうでなくとも、パッと見たときには結果しか目に入らない。

“昌子、鹿島残留”という結果だ。

どんなに悔しくともそれを受け入れ、プレーと勝利で黙らせるしかない。つまり、移籍も試練、残留も試練。待っているのはどちらも試練だ。

 

オファーはあったけれど断った。ACLで優勝したいので残る。

こうした類の耳障りのいい小さな嘘を並べれば、少しは受け取られ方をコントロールできるのかもしれない。しかし、正直に自分の気持ちを言葉にするのが昌子源だ。

だからこそ海外への興味を隠さず、同時にもう一つの思いも口にする。

「鹿島をもっと強くしたい」

それもまた嘘偽りない正直な気持ちた。

もし、小さな嘘を重ねる人物の言葉だったら、こんなにも素直に受け取ることはできないだろう。

 

とはいえ、まずはセレッソ大阪戦である。ロシアとはまったく違う湿度の高さはかなりしんどいようだ。「敵はレイソルだけじゃなかった」と振り返った。

また、周囲の期待は、これまで以上に強く、ちょっとしたプレーでも拍手が起きる。そうした状況の変化は望んでいたはずだが、こそばゆさもあるのだろう。「プレーしづらい」と苦笑いする。

「これでセレッソ戦でボロボロだったら、またボロカスに言われる」

注目度の高さはかつてないほどだろう。一つのミスも許されない状況と中2日の厳しい連戦に、昌子は気を引き締めていた。

 

 

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