「GELマガ」鹿島アントラーズ番記者・田中滋WEBマガジン

昌子源:鹿島で築いたプライドを捨てる日/【家族の風景】

「ボンジュール」

 待ち合わせの場所に早く着いたためソファで座りながらスマホをいじっていたら唐突に声をかけられた。顔を上げると昌子源が立っていた。

「人が違えば環境が違うし、サッカーに対する価値観が日本とはぜんぜん違う。どういうプレーが盛り上がって、どういうプレーが盛り下がるとかもぜんぜん違う。あとはフランスという国のサッカー、チャレンジ&カバーがまったくない。日本だったらキーパーを抜かして1010だったのが、フランスやったら1110個という感じがすごいする。いろんなことに気づいてきたかな、という3ヶ月でしたね」

 わずか3ヶ月、されど3ヶ月である。この期間で得た経験はかつてない濃厚さだった。デンベレにぶち抜かれ、PSG戦でもムバッペにぶち抜かれた。

「昨日なんかムバッペにぶっちぎられ、リヨンのときもデンベレにぶっちぎられて、いい訳とかない。ぶち抜かれたのは変わりないし無抵抗やったから」

(昌子に準じて彼の呼称はエムバペではなくムバッペに統一する。スタジアムのアナウンスもどちらかと言えば「ムバッペ」だった)

 

 ムバッペとの初対決は衝撃的だった。最初の1対1で昌子はバランスを崩され、手を着かなければ体勢を保てなかった。必死に追いすがったが赤子の手をひねるように簡単に突破されシュートを打たれた。幸いGKが弾いたシュートはシュポ・モティングが吹かしゴールとはならなかったが、日本では味わうことがなかった圧倒的な差を見せつけられた。しかし、昌子は悔しさを露わにする感じではなかった。

「いまはサッカー選手として超中途半端な感じがする。やっぱりこっちでもしっかり結果を残したいし、自信を失いたくない。でも、ちょっとずつ失っていってるのも自分でも感じるんですよ。どうしたらいいんやろみたいなのもあるし、それを相談できる相手もいまはいないから暇さえあればなんか考える。リヨンのときにデンベレにぶち抜かれた場面とか、いまでもどうやって止めたら良かったんやろ、っていまでもすごく考えるんですよ」

 悔しいことは間違いない。むしろ屈辱的とも言える。しかし、感情を煮えたぎらせたところでなにかが解決できるわけではない。目の前の問題に対して、孤独にさいなまれながらも、ひたすら冷静に向き合う。ひたすら論理的な解決策を見出す。そのためには感情やプライドは邪魔でしかなかった。

 

 

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