「GELマガ」鹿島アントラーズ番記者・田中滋WEBマガジン

成長の証を示し、チームは次の段階へ/【レビュー】明治安田J1第12節 横浜FC対鹿島アントラーズ

 まずは、ベースづくりの第一段階は完了、と言ったところだろうか。

 徳島戦に続く零封での勝利は、試合を掌握して手に入れたものではなかったかもしれない。しかし、前半12分に先制すると、45+2分にPKのこぼれ球を押し込み追加点。後半にも80分にセットプレーから追加点をあげ、終わってみれば3対0の無失点の完勝。いい時間帯にゴールを積み重ね、自分たちが圧倒的に支配できずとも、相手にも流れを渡さなかった。

 

 ベースとなる守備は、だいぶ自分たちのものになってきた。

 献身・誠実・尊重。3つの言葉に象徴されるジーコスピリットは、守備の場面で言うと“互いを助け合う”ということだ。相馬直樹監督は、就任最初の徳島戦のあとも次のように話していた。

「1回ダメなら2回行って、一つミスがあっても別の選手がカバーするとか、そういうところを選手たちがお互いを助け合うことを出してくれたところは非常に感じています」

 現象としては、誰かがかわされても、すぐに次の選手がカバーすることでゴールを守る、ということになる。横浜FC戦でも、町田浩樹が伊藤翔との1対1を外されたが、背後にいた沖悠哉がすばやく飛び出してシュートコースを消し、同時に常本佳吾がブロックに入る場面が見られた。他にも、左サイドを破られそうになれば1トップの染野唯月がすばやくプレスバックしてスペースを埋める動きもあった。全体の連動性は高かった。

 相馬監督になって、急に選手たちが互いを助け合うことを思い出したわけではない。ザーゴのときも、こうした姿勢がなかったわけではない。ただ、玉砕も辞さず、時には無謀に見えるほどボールにアタックし続けてしまうと、自分たちで守備陣形を散り散りにしてしまい、ライン間のつながりは薄くなる。味方同士の距離が開いてしまえば、1人がかわされたとき慌ててカバーに動いても、相手はすでに体勢を立て直しており、余裕を持って対処される。無理にボールを奪いに行ったあと、カバーに行った選手も無理に突っ込めば不利になるのは当然のこと。無駄なファウルがかさみ、ファウルの印象は非常にダーティだった。

 しかし、全体がコンパクトになれば、相手が有利な体制に持ち直す前に次の選手がアタックできる。結果として、互いが強く結び付き、助け合う光景を生む。そして、これが守備のベースとなる。これができるようになれば大崩れはしないはずだ。今後は、陣形を伸び縮みさせながらプレスのスタート位置を前後できるようなるだろう。

 つくづく、前監督のチームづくりはもったいなかった。完成形を提示するだけでなく、段階を踏まえたチームづくりができれば、不調になったときに立ち戻る場所を築くことができるはずだった。

 

 その意味では、後半立ち上がり、相手に押し込まれてもしっかり守ることができたことは、土居聖真が言うように“成長の証”である。

「後半の立ち上がりなんかは逆に結構押し込まれる時間が長かった。でも、相馬さんも言ってましたけど、90分間自分たちの時間はないですし、押し込まれているなかでしっかり0に抑えられたところは、流れを相手に渡さなかった一つの要因だと思います。中でやっている選手がいまどういう状況で、どういうプレーを選択しなきゃいけないのかわかっていた結果、追加点も取れましたし、0で抑えられた。そういうところが成長してる証なのかなと思います」 

  これで成績を4勝3分4敗の五分に戻し、順位も10位に押し上げた。

 

 

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