【戦記】幻のプレミアムチケット
【戦記】幻のプレミアムチケット
後半アディショナルタイムに超決定機
1―1で迎えた後半終了間際のアディショナルタイム、大宮の攻撃をはじき返したザスパは、電光石火のカウンターを仕掛ける。姫野宥弥がドリブルで突進すると、その横には高澤優也が併走、GKと2対1の状況となる。
勝った! だれもが勝利を確信した。
姫野がGKまでをかわすか、それとも横に出して高澤にゴールを譲るか。“そのゴール”は、3回戦ヴィッセル神戸戦の“プレミアムチケット”になるはずだった。だが、姫野の強行シュートは相手GKにブロックされてしまう。
・・・。
天を見上げる姫野と、その横で無念さをあらわにする高澤。姫野は「すべてが限界までいっていたので周囲が見られなかった。あの判断は自分の責任です」と肩を下げた。高澤は「横で目一杯の声を出していたが、声が届かなかった。後半には自分にもチャンスがあったし、だれも責められない」と姫野をかばった。
福田俊介のヘッド弾がチームに勇気
ザスパは、リーグ前節熊本戦から、先発全員を入れ替える完全ターンオーバー制で大宮戦へ挑んだ。大宮も、控え選手主体だったが、そんなことは関係なかった。ザスパ代表としてピッチに立った選手たちは、あふれんばかりのモチベーションでゲームへ入った。
前半10分、CB福田俊介、CB岡村大八の間にミドルパスを送り込まれると、ギャップを大前元紀に突かれて、先制を許した。福田は「あのシーンはお互いに譲り合ってしまって間が空いてしまった」と振り返る。早い時間帯に失点したザスパだったが、そこからは主導権を握り、相手を押し込んでいく。岩田拓也、中村駿太、田中稔也ら、ゲームに飢えた若獅子たちは、あうんの呼吸でゴールへ迫った。だが、ゴールが奪えない。
大宮を本気にさせたのは、ベテランDF福田俊介のゴールだった。0−1まま進んだ後半26分、右CKをヘッドで合わせて、古巣相手にゴールを奪う。ヘッド後に倒れ込んだ福田は、起き上がりざまにゴールを確認すると、ゴール裏のサポーターへ拳を突き上げてみせる。
そこからザスパは、さらに攻撃のギアを上げる。交代で入った高澤優也、青木翔大が前線でパワフルなアタックをみせて、ゴールを脅かす。後半40分には高澤が左足でシュート、後半41分には田中稔也が右足でゴールを狙うが、どうしても2点目が奪えない。後半アディショナルタイムのビッグチャンスも逸した。
満身創痍の延長戦
延長前半開始直後、布啓一郎監督は、苦難の決断を余儀なくされる。ゲームメーカーとしてピッチに君臨していた窪田良をベンチに下げたのだ。窪田はゲームを通じて別格のプレーを披露していた。しかし、ケガ明けの体は限界を迎えていた。ケガ再発を懸念した指揮官は、窪田を下げて、残りの延長戦へ臨む。
窪田は「あの時間で足がつってしまい、ギリギリだった。無理すれば、できたかもしれないが、90分以上の試合は想定していなかったので、リーグ戦を考えれば仕方なかった」と複雑な表情をみせた。
飯野七聖、福田、姫野らも、足をつらせながらのプレーとなった。岡村大八は、最後まで決死のディフェンスをみせた。まさに満身創痍。延長戦、しだいに追い込まれたザスパは延長後半28分に、セットプレーの二次攻撃から痛恨の失点。試合終了のホイッスル後、選手たちはピッチに倒れこんだ。激闘。引き上げる選手たちに、サポーターは目一杯のエールを送った。スタンドでは、渡辺広大、舩津徹也、佐藤祥、岡田翔平らリーグ戦主力組が、控え組の勇姿を見守っていた。
試合後、田中稔也は「自分を含めてチャンスを仕留めることができなかった。求められるのは結果。勝たなければ意味がない」と、笑顔なくスタジアムをあとにした。この結果に満足している選手はだれもいない。選手たちは、この悔しさを、リーグ戦へつなげる。 “神戸戦のプレミアムチケット”はつかめなかったが、控え組の選手たちの戦いぶりはそれ以上に価値あるものだった。
(2019.07.04)