デイリーホーリーホック

【HHレポート】ヒューマンストーリー「選手寮寮母の櫻井恵美子さん」(2012/7/24) ※全文無料公開

長年の経験、専門知識から生み出されるベストな献立

トップとユース、約30人が生活する選手寮。自身の飲食店の常連客だった元水戸の塩沢勝吾選手(現・松本山雅FC)の誘いで寮母となり、今年で3年目。メインの仕事は、選手の身体を支える食事を朝と夜に作ることだ。
毎日5時に起床、同じく料理人の夫と共に、7時から9時頃までトップの朝食やユース選手の弁当を準備。毎日のように市場、馴染みの小売店へ食材の買出しに奔走し、夜は19時頃から食堂へ来る選手達の胃袋を満たしていく。

メニューの予定表はない。スポーツ栄養学の専門書を読みながら、管理栄養士の指導内容、野菜ソムリエの知識をベースに、その日の仕入れ、予算、天候、練習時間、選手のコンディションなど踏まえ、ベストな献立を頭の中で組み立てる。

「長年市内で飲食店をやってきたから、『今日はハンバーグが売れそうだな』とか分かってくるのよ。自分が食べたい物は大体、選手も同じ事が多い。そういう感覚を大事にしてるんだわ」

毎食共通しているのは、色とりどりの旬の野菜をふんだんに盛り込んだ、バランスの良い約5品のおかず、抗酸化作用のあるトマト、キムチや納豆など発酵食品、3升の白米、サラダ、フルーツ、ヨーグルト、シリアルなど。インスタント食品、化学調味料はほとんど使わず、出来るだけ手作りの品にこだわる。一番人気は、手作り餃子。寮以外のメンバーからも好評で、200個があっという間になくなる逸品だ。


【写真 櫻井恵美子さん】

食事もトレーニングの一種

料理の取捨選択は各自の自由。選手達はバイキング形式で自分の皿に盛り付けていく。食パンをフレンチトーストへ、目玉焼きをスクランブルエッグへと変更したり、それぞれのリクエストにも柔軟に応えているため、全選手の好みを把握しているという。

「口から入れたものでしか、体は出来ない。食事は選手にとって、トレーニングの一種よね。見ていて、年中通して90分走れる子、怪我をしない子は、やっぱりバランス良く食べているもの。納豆や梅干、和食でも洋食でも全部皿に乗せて食べて行く。だから苦手な料理でも箸を伸ばして貰おうと、大きさ、味付けにも気を配っている。朝食を取らない子、食の細い子、偏食になりがちな子には『苦手でも一口食べてみな?』『寝てないで、朝は食堂に来なさい!』と口うるさく言っているの」

食堂からホームゲームの勝利を支える

ホームゲーム前、スタメン、ベンチの選手、監督やコーチ陣らスタッフ全員で取る炭水化物メインの軽食も気遣いを欠かさない。三島康平選手がベンチ入りする時はカレー、橋本晃司選手には鳥そぼろ丼、鈴木隆行選手はさっぱり系のパスタ、市川大祐選手はうどん・・・。試合のメンバー表を前日に必ずチェックし、それぞれの好みに合わせたメニューを準備する。

「選手の食べ具合、雰囲気でその日の試合の結果が、なんとなく分かっちゃう。『この子は今日テンション高いな』と思ったら点を取って来たりするし。好きなものを食べて、ここで和やかな雰囲気を作って、気持ち良く出発して貰わなきゃ」とホーム戦の勝利を陰ながら支える。


【写真 櫻井恵美子さん】

“子供達”との心温かな絆

寮母となるまで、水戸ホーリーホックはもちろん、サッカーが面白いと感じたことは「一度もない」。今では、「ママさん」の愛称で選手らに親しまれ、家族のような日々。我が子の活躍を心配する親のように、ゲームをまともに観戦出来ない程だ。寮で20歳を迎えた選手にはサプライズのバースデーケーキをプレゼントしたり、移籍した元寮生の選手達やチームの結果にも常に気を掛け、心温かな絆を深めている。

「選手は自分の子供のように思ってる。仕事は大変なんだけど、『おいしい!』って食べてくれるのが楽しくて嬉しくて・・・。箸の持ち方が悪かったら直したり、黙っていても顔を見れば、体調や気分も分かるし、怒ったり、笑ったり、みんなかわいい。ずっと寮に住んで、もっと色々な料理を作ってあげたいぐらい!」
リタイヤした後は、全国各地にいる“子供達”一人一人の所へ訪れたいと願っている。

○簡単!美味しい!ロメロ・フランク選手も大好物!
水戸ホーリーホック選手寮特製「豚キムチ」のレシピ公開!

【材料】
・豚こま切れ(脂身の少ない)・・・200g程度
・キムチ・・・100g程度
・塩、コショウ、中華スープの素・・・少々
・卵・・・1個
※ニラ、もやしなど野菜を加えてもOK!

【作り方】
1. 肉を炒めた後、キムチを入れる。
2. 塩、コショウ、中華スープの素を入れて、味を調える。
3. 最後に卵でとじれば完成!


【写真 米村優子】

櫻井恵美子さん
1957年茨城県水戸市生まれ。水戸市内で30年以上続く飲食店の女将、野菜ソムリエとして料理教室「Emiko’s Kitchen」を主宰、寮母と三足の草鞋を履く。ツイッター(@emikos_kitchen)上で選手寮の献立を写真付きで紹介している。

(米村優子)

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