デイリーホーリーホック

【HHレポート】ボランティアグループ「Tifare」対談「ボランティアは楽しい!(後編)」(2012/9/25)※全文無料公開

ボランティアもチームの一員として戦っている

――ボランティアをやっていて、喜びを感じる瞬間は?
猪瀬:以前クラブと揉めた時がありまして(苦笑)、その時にボランティア同士で今後どうするか話し合いをしたことがあったんです。その時、「クラブに対していろんな思いがあっても、お客さんは毎試合来る。お客さんのために僕らはやらないといけない」という意見が出たんです。何のために僕らはボランティアをやっているかというと、お客さんが笑って帰る顔を見たいからなんです。「クラブとの隙間はこれから自分たちで埋めていけばいい話で、来るお客さんに迷惑はかけられない。だからやるしかないでしょう」という話になって、僕は「この人たち、大人だな~」と感動したんです。この人たちとだったら、一緒にやっていけるなと思いました。
栗原:チームが勝って、お客さんが笑って帰る。その時に自分はこの試合を作ることができたんだという誇りを感じることができるんです。そして、ボランティアの仲間が笑顔で仕事できれば、最高! みんなの笑顔を見るのが幸せですね。
猪瀬:ボランティアをやりだして、「仲間」という言葉をすごく意識するようになりました。友達は友達で趣味が異なっても友達だし、しばらく会わなくても友達なんですよ。でも、ボランティアは試合のたびに集まって、1つのものを一緒に作り出している。その充実感はボランティアをやりだしてから、感じることができるようになりました。
栗原:ボランティアで長い時間拘束されて足がパンパンになるまで働くのは苦しみではありますが、団体競技を行っている意識ですよね。団体競技で生まれる連帯感がすごく楽しい。1人で試合を見に行ってブログを書いたりするのは個人競技ですね。ボランティアをやることで団体競技の面白さを感じています。
猪瀬:クリからの提案で試合のたびに僕らの書いたメッセージを選手のロッカールームに張ってくれるようになったんです。僕の感覚ですが、ボランティアもチームの一員だと思っています。一緒に戦っているんです!
栗原:あの寄せ書きでホームの勝率が少しでも上がればうれしいですね。実際、ホームでの勝率が高いので、喜ばしいことです。本当に1つ1つの積み重ね。他愛もないアイデアでいいので、どんどん出して実現していくことが大事だと思います。それで強くなったのが、甲府だと思っています。第29節大分戦でうれしい光景がありまして、待機列を作っている時に選手バスが通ったんですね。その時に待機列に並んでいるお客さんから一斉に拍手が起きたんです。本当に偶然の出来事だったんですけど、素晴らしい光景だと思いました。
猪瀬:今ではサポーターが選手の入場時に拍手をするようになっています。やっぱり、そういう盛り上げって必要だと思うんですよね。会場づくりをしているのは僕らだけでなく、サポーターも行っているんですよ。彼らは雰囲気を作り出してくれています。
寺田:それはすごく重要です。サポーターの盛り上がりはスタジアム作りに欠かすことはできませんよ。僕もDJをやりながら、雰囲気を作ることを意識していますが、サポーターの熱気がなければ作れないですからね。

――寺田さんはどういう時に喜びを感じますか?
寺田:ずっと一緒に戦っていると思っているので、どこで試合をしようと、みんなで勝利をつかむために頑張っている。それで本当に勝利したときはすごくうれしい。負けると悔しいけど、次に向けて頑張ろうと思う。それをずっと繰り返している感じですね。水戸のために頑張っていることが生きがいというか喜びになっています。
猪瀬:これは嘘じゃないんだよ。今年は日曜開催がほとんどなので、あまりできないんだけど、土曜開催のときは打ち上げに行く準備をみんながしてくるわけですよ。勝った時のお酒の味は負けた時と比べて百倍美味しいからね!
寺田:そのために頑張っています!
栗原:手前みそですが、寺田くんのDJは誇れますよね。Jリーグ全体を見てもレベルは高いと思います。
寺田:何も出ませんよ(笑)。そう言ってもらってうれしいですが、僕は全然足りないと思っています。
栗原:そう思っている時点ですごいよね。

――寺田さんのDJはうまいだけでなく、愛情が詰まってますよね。
寺田:うれしいですが、自分では分からないんですよね~。
猪瀬:簡単なことかもしれないけど、結局は“笑顔”かどうかですよ。ボランティアをしていて、スタジアムに来てくれた子供が笑顔でいてくれるとうれしい。サッカーを見に来ているのかもしれないけど、その子たちにとっては遊び場なわけですよ。だったら、その子たちに楽しみを与えないといけないと思います。子供が楽しんでくれることは僕にとってのモチベーションです。
栗原:みんなの遊び場であって、僕らの遊び場でもある。そこでみんなが笑顔になれればと思って取り組んでいます。
猪瀬:その場が地元にあってよかったね、という話になるわけですよ。JFL時代は知らないのですが、今Jリーグに上がろうとしているクラブはすごく楽しいと思うんですよね。自分たちで歴史を作っているわけですから。もちろん、水戸にもそういう経験をした人はたくさんいたと思うのですが。
栗原:今、クラブの成長過程に携われていることを幸せを感じますね。


※スタジアムDJの寺田忍氏 【写真 米村優子】

J2最年長になったが、歩みは止めていない

――ボランティアとして、クラブが成長過程にあると感じますか?
栗原:特にメインスタンドの応援しようとする機運がどんどん高まっている気がします。手拍子も歓声も起きる。そこにクラブの成長を感じ取れます。あとはスタジアム全体がホーリーホックブルーに染まるといいんですけどね。
寺田:その可能性が高まってきましたよね。着実に根付いてきているという実感はあります。
猪瀬:話は逸れちゃうかもしれないけど、僕は一つだけ後退した部分があると思うんですよ。それはチアリーディングですね。Holy’sがなくなったことはショックでした。今まであったものがなくなってしまうことは寂しいですね。チアが邪魔だったことはないと思うんですよ。華があったことは間違いないわけで、どういう事情でなくなったかは分かりませんが、なくしてしまったら、それに代わる何かが必要だと思うし。彼女たちのパフォーマンスはスタジアムを盛り上げるための必要なアイテムだったと思いますね。
寺田:それはありますね。
猪瀬:間違いなくクラブは成長していますが、クラブの会議に参加する際に感じるのは、以前話した内容と同じような話を繰り返すことが多いということ。それは悪いことではなく、ゴールがないということなんだと思います。クラブは確実に前に進んでる。でも、運営も満足したら終わりなんですよ。うまく成長できなかったことを繰り返しやっているんだと思います。何度でも繰り返せばいいと思いますよ。時間がかかるのは仕方ないこと。ウチらはJ2最年長だけど、歩みは止めていない自負はあります。そこは大事なところだと思います。
栗原:まずは平均観客動員数を五千人にすること。そこを通過点にしないと、J1への挑戦権は得られないと思います。J1に上がってホームジャックされたら意味のないこと。五千人を超せば、結構ドッと増える気がするんですよ。そこまでが大変だと思います。
猪瀬:水戸のホームタウンの9市町村の人口を足すと80万人ぐらい。鹿島は30万人弱なんですよ。そういう意味では水戸の方が潜在能力は高い。観客に関しては、これからもっと増やせる可能性はあると思います。鹿島はホームタウン以外の観客が多い。でも、水戸はホームタウンの観客が多い。10年間、これだけいろいろやってきても増えないと言ったら終わってしまうわけで、続けていくことが大事だと思いますよ。

――今までやってきたことは決して無駄ではないと思うんですよね。失敗したことも経験値としてクラブの力となっているわけですよ。
栗原:2010年に1万人を集めた時はきつかったけど、あの時の経験は残っています。次に1万人が来た時にどうするべきか、準備はできると思います。
猪瀬:1万人入ったことしか覚えてないです(笑)。結果は忘れました(笑)。でも、スタジアムを見て泣きそうでした。
寺田:あの試合は相当テンション高かったですね。観客動員数を発表した時のことは今でも鮮明に覚えていますよ。感動しました。
栗原:テラちゃんは水戸のホームゲームの観客動員数「1万人」をはじめてコールした男ですから。


※代表補佐の栗原賢二氏 【写真 米村優子】

ボランティアを経験するとサッカー観が変わる

――今後「Tifare」をどのようにしていきたいですか?
栗原:人数が増えれば、もっといい運営ができると思います。でも、まずは今のメンバーがスタジアムに集まって、楽しんでくれるか。そこを大切にしていきたいと思っています。今いる人が楽しいと思ってくれれば、新しく来てくれる人も楽しいと感じてくれるはず。そこはかなり気を配っています。
寺田:みんな、楽しんでいると思いますよ。ボランティアが増えないことについては、すごく悩みますね。でも、それはどこのクラブにもある問題だと思うんですよ。どうやったらいいのか分からない状態ですね。来てくれれば絶対に楽しいと思ってもらえるはずだと思っています。やりがいもあると思いますし、知り合いも増える。試合じゃないところで交流の場がありますし。1回来て、経験してもらいたいですよね。

――実際、人数は足りていないのですか?
栗原:足りないです。
寺田:他のクラブと比べて、半分ぐらいしかいません。
猪瀬:ウチのボランティアの悪いところがあって、「できない」と言いながらできちゃう(笑)。それがいいところであって、ダメなところ。できなければ、クラブがもっと危機感を覚えるのかもしれませんが、彼らがスペシャルだから、できてしまう。それが問題ですね(笑)。その結果、どんどん求められるレベルが上がってしまう。それは誇りではあるのですが、できないことに対しては「できない」と言ってほしい。まず15分の休憩を20分にしたり、前半半分や後半半分みたいな感じでローテーションを組んでやりたい。特に夏場はもっと休みながらやらないときついよね。そういう意味で人数を増やしたい。やはり、抱えている問題を解決できてしまうことが問題だと思いますよ(笑)。
栗原:自分の中で運営のレベルとして5段階あるんですね。その日の集まる人数や仕事内容を踏まえて、「今日は3ぐらいできればいいな」と想定して、そこを越えられれば“勝ち”、越えられなければ“負け”と考えるようにしています。5の運営ができたら最高ですが、できた試しはないです。過去最高で“4の弱”ですね。
猪瀬:この話は初めて聞きましたが、ここまで考えているってすごいよね(笑)。毎年、Jリーグがアンケートを募って、各スタジアム観戦者調査の結果を発表するのですが、どの項目でもいいから、1つでも1位を取りたいですね。ちなみに昨年はサービス部門でJ1・J2総合9位に入りました。それは過去最高の結果です。
寺田:昨年は岡山の評価がすごく高かった。岡山は町全体に「ファジアーノを応援しよう」というムードがある。それがすごい。でも、クラブの規模やスタジアムの雰囲気は負けていない気はするんですよ。
栗原:昨年は「スタッフの親切さ」という項目で2位に入りました。今年は落ちると思います。というのも、観客が増えた結果、1人1人へ対応する時間が短くなってしまいました。そこは反省点ですね。お客さんが増えたのに、ボランティアが増えていない。そこにジレンマを感じています。
寺田:とにかく1回体験してみてもらいたいですね。
栗原:1つの試合を作るのにいろんな立場の人が関わっているということを味わうことだけで、人としての幅も違ってくると思います。サポーターでもいいですが、一度ボランティアも経験してもらいたいなと思います。
寺田:ボランティアを経験すると、サッカー観が変わりますよね。
栗原:ゴールが決まった時、歓声しか聞こえないのですが、音だけでどういう試合展開かを予測することができるようになります(笑)。
寺田:僕は試合を見ているので、それは分かりませんね(笑)。
栗原:寺ちゃんの「ゴール!」の掛け声の枯れっぷりで分かりますよ(笑)。でも、そのすごいゴールが生まれたのも、自分たちが試合会場を運営しているからだという誇りがありますよね。試合前の設営と開門してからの1時間が一番忙しい時間なので、その時間帯だけでいいので手伝ってくれる人がいると助かります。
寺田:試合前だけでいいので、増えるといいですね。
猪瀬:誰が来ても楽しめるかどうかは分からないけど、実際に僕らみたいに楽しんでいる人がいるわけだから、楽しんでもらえる可能性はあると思うんですよ。
栗原:その楽しみの先にお客さんの笑顔があるんですよね。
猪瀬:そうそう。自分が笑っていれば、みんなも笑えるし、みんなが笑っていれば、自分も笑える。ボランティアをやっていると、そういう心の裕福感を得られると思います。
寺田:僕は本当にやっていて楽しいです!
猪瀬:思いがけない出会いがありますからね! 
栗原:面識もなく猪瀬さんと町で会ったら、目を逸らすと思いますよ(笑)。
寺田:ホーリーホックがいろんな人と出会わせてくれたというのはありますね。他のチームの人とも関わることができることも大きい。
猪瀬:みんな、同じものを求めて活動しているから楽しいよね。
栗原:これだけ価値観も生き方もバラバラな人たちと、何を考えているか分かるぐらいの関係を築けるわけですから。それはボランティアならではでしょうね。一緒に汗をかいて苦労しないとこれだけの関係はできないと思います。


※代表の猪瀬義満氏 【写真 米村優子】

(取材・構成 佐藤拓也・米村優子)

ボランティアに興味のある方はこちらへ
→ http://www.mito-hollyhock.net/www/clubprofile/volunteer.html

取材協力:「遊食や かちてん」
     茨城県ひたちなか市勝田本町33−24
     029-274-1002

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