デイリーホーリーホック

【シーズンオフ特別企画】ボランティアグループ「Tifare」代表補佐・栗原賢二さんコラム「裏方魂⑧ 化ける瞬間」(2013/2/10)※全文無料公開

まとめる仕事をできなかった演劇時代

20歳の頃に関わっていた演劇・ミュージカルでは、様々な役割を経験しました。役者、脚本、演出、舞台監督、照明、音響、衣装、小道具、撮影、編集まで。ここまで幅広くやった理由は主に人手不足ですが、「仕事を選ばない姿勢」に憧れというか、格好よさを感じたからでした。おかげで立派な器用貧乏になれた(笑)。

良くも悪くもシビれる立場は、やはり役者に稽古をつける「演出」でしょうか。自分で選んだ、あるいは書いた台本を舞台上で形にする。成功したら最高に面白い。しかし失敗すれば……駄目だった時の公演が今も夢に出てきます。もう10年以上経ってるのに(汗)

役者に一貫したアドバイスができない、信頼関係を築けない、遅れるスケジュール。練習場へ行く足取りが重い。さぞ頼りない演出と思われてるだろうな。ネガティブ思考に頭は支配され、ますます冷静な判断できなくなる悪循環。

最後は役者・スタッフが自主的に踏ん張って形になるけど、まとめる仕事は何一つできなかった。打ち上げで、皆の「おつかれー!」という笑顔を直視できない。公演のビデオを見返すのが怖い。

演出は複数の劇団で計4回やりました。さすがに経験は蓄積される。スケジュールの組み方や役者との接し方、芝居のアンケート評価まで、ある程度読めるようになってきます。場数を踏めば物事をより詳しく見れるし、自分なりの「演技理論」もできてくる。この辺は「芝居→サッカー」「演出→監督」「役者→選手」「演技→プレー」と置き換えても良いだろうなと。

イメージ通りに運ぶ場面が増えると、役者一人一人の成長が本当に嬉しく、愛おしくなってくるんですよね。この子はどうしたらもっと伸びるだろう?おお、そんな引き出しも持ってたのか。演技に迷いが出てるけど今は自力で乗り越えるべきかな。半分まではヒントを残そうか。

楽しみつつ経験のすべてをぶつけたい

人を育てる際は「ほめる」「叱る」「見守る」の3つを使い分けると、よく言われます。ほめて伸びるタイプ、叱って伸びるタイプ。あえて何もアドバイスせず成長を待つ場合もある。演出冥利に尽きるのは、長く伸び悩んだ役者がある日を境に急激にパフォーマンスを上げた瞬間。
「ああ、化けたな」と。滞っていた空気が晴れわたる感覚。役者個人はもちろん、芝居全体として化ける時があって、それを体験するとやみつきになります。

サッカーボランティアの現場にも、20歳前後の若いメンバーがいます。彼らの成長を見守るのは楽しい。悩んでいるようなら声をかけるけど、最終的には自分で答えを見つけた方が良いのであまり説教しません。

若手がきっかけをつかもうとしているのに、変に結論を出したら逆効果。目の前の相手は、私より鮮やかに問題を解決するかもしれない。だとすれば天晴れじゃないか。それぞれの持ち場でスキルを伸ばし、将来に役立つ何かを学んでくれるのを願ってます。

10年前にのめり込んだ演劇の世界。毎日徹夜で練習し大学を留年したのだから、なかなかのものです(笑)。就職に際し「遊ぶだけ遊ばせてもらった!これから堅く生きるぞ」と誓ったけれど、実はまだ続いていた。舞台はスタジアムに変わり、劇団はサッカークラブに変わり、同じ熱量で関わっている。

演劇時代の仲間に「地元のJリーグチームに、裏方で関わっている」と話すと羨ましがられます。確かに30歳を越えて情熱を燃やす対象があるのは、幸せな事なのでしょう。

青春をかけた芝居小屋は、お客さんが入ってせいぜい100人。Ksスタには1万人入る。元日本代表もいる。そこで水戸ホーリーホックの「化ける瞬間」に立ち会えたら。こんな面白い筋書きがあるでしょうか? 想像するだけでワクワクします。昔も今も試行錯誤のまっただ中ですが、楽しみつつ経験の全てをぶつけたい。

……とはいえボロボロだった初演出のビデオだけは、未だに見直す勇気がありません。捨てる勇気もなく。人生って、割り切れないトラウマの上に成り立ってるんですよね(苦笑)

(栗原賢二)

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