デイリーホーリーホック

【特別寄稿】ボランティアグループ「Tifare」代表補佐・栗原賢二さんコラム「裏方魂24 エピソードがチームを強くする!」(2015/2/28)※全文無料公開

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【写真 水戸ホーリーホック提供】

スタジアムが持つ「物語の力」

強いチームの条件って、何だろう?
試合に負けるたび嫌というほど向き合ってきたこのテーマ、私は『物語の共有』が最も重要だと考えます。
クラブの生まれた経緯や辿った歴史、これから進む目標に至るまで、関わる多くの人々が判っている。
たとえ知識としてインプットされてなくても、集まれば自然とそういう空気が作れる状態。

鹿島アントラーズや松本山雅FCの異様な勝負強さは、スタジアムに「物語の力」が働いているからではないでしょうか。
(それを認めたくないけど、認めざるをえない。腹立ちとセットになった尊敬・・・複雑な心境です)
一方で資金的、戦力的に恵まれていながら、ここぞの所で勝ち切れなくてJ1/J2を行ったり来たりするチームもある。
選手の個性にクラブの個性が負けているというか、全体から感じ取れる物語性が希薄、というのも大きな原因として考えられます。

じゃあ私達はどうしたら良いのか?本題へ入る前に、もう少し物語について説明させてください。
皆さんは漫画をよく読まれるでしょうか。面白かった作品の共通点を考えると、ひとつは「脇役も魅力的」という事に思い当たります。
『スラムダンク』『ちはやふる』『ドカベン』『ハチミツとクローバー』等は、一瞬しか登場しない人物まで生き生きと描かれている。
主人公も良いキャラクターだけど、周囲の仲間やライバルが盛り上げてさらに輝く関係性。何となくサッカーに通じる話です。

それを踏まえて話を戻すと、チームにおける「主人公」はもちろん選手達。
しかし登場するのが主人公だけだとしたら、面白いでしょうか?試合の映像と結果のみ、淡々と流れる状態を思い浮かべてください。
漫画に例えれば、『クリリンやベジータの居ないドラゴンボール』ですよ(笑)継続して楽しむには厳しい。
やはり周辺を支える人々も表舞台に立ってこそ、展開に厚みが出るんじゃないかと。

ストーリーを全て共有したい

水戸ホーリーホックの物語は「幾千幾万の苦難に耐え、少しずつ成長しながら夢の舞台を目指す」というあらすじでしょうか。
日本人の心を動かす王道ですよね。じゃあ、なぜ応援がなかなか増えなかったのか?それは具体的なエピソードがあまり一般に伝わってこないから、と私は思います。
我々ボランティアを含め、皆チームのため懸命に行動し闘っている。一人ひとりの頑張り自体が作品として成立するぐらい。
それが地域に響かない原因はメディア環境もあるでしょう。だけど、もしかしたらこちらの「伝え方」の工夫が足りないのかもしれません。

私がこうしてコラムを書かせて貰っているのは、物語を分厚くするためのエピソードを増やしたいからです。
ボランティアのメンバーは多くを語るより、先に身体を動かして課題を解決する人達。彼らの活躍が伝わらないのは惜しすぎる。
心から愛するチームのため地道な活動をしている方々は、他にも沢山いるでしょう。そのストーリーを全て共有したい。

サポーターが語るJFL時代や、茨城大学応援ネットワークの活動が紹介された事は、とても意義深かったです。
そしてそれを取り上げるデイリー・ホーリーホックの存在が、どれだけ有難いか。
埋もれがちなエピソードを世に広め、議論を深める媒体の果たす役割はとても大きい。

雪に耐えて梅花麗し

なぜこのチームを応援するのか?理由は人それぞれ。
中には「弱さを克服する過程」に、自分自身の人生を重ね合わせている方もいるかもしれません。

勝てる条件が揃いすぎて逆に活かせない。大切な所を決めきれず、良い流れを失ってしまう。ミスを引きずり自滅。
これらは誰もが大なり小なり、実生活で経験した事と思います。私にも数え切れずあります(苦笑)
だからこそ試合で再現されると悔しいし、選手達が乗り越えてくれた時は飛び上がるぐらいに嬉しい。

「強いグループに属しているだけで、自分も強いと勘違いする」のは、人の在り方として美しくないと思います。
負けて味わう情けなさ、やるせなさを他人事とせず応援を続けている方は勇敢な選択をしている。
我々の心は既に強い。物語は既に面白い。難しいとしたら、それをどう伝えていくかというだけの話。

最後に、水戸ホーリーホックについて象徴的な言葉を紹介します。

『雪に耐えて梅花麗し』

梅は厳しい雪の寒さを耐え忍ぶからこそ、春に一番綺麗な花を咲かせる。
日本野球界へ電撃復帰した黒田博樹投手の、座右の銘としても有名ですね。
これまで不遇と思える時期を過ごしたのも、偕楽園の梅花のような絶景を見るために必要な伏線だった。

今年も素敵なエピソードが沢山生まれ、多くの人へ伝わっていきますように。
ともに物語を作りましょう。スタジアムでお待ちしています!

(栗原賢二)

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