デイリーホーリーホック

【コラム】本間幸司選手「夢へ――」(2016/11/16)※無料記事

【写真 水戸ホーリーホック】

【写真 水戸ホーリーホック】

先週の練習中に負傷し、現在別メニュー調整が続いている本間幸司。最終戦も欠場が濃厚だ。だが、クラブのターニングポイントとなるであろう今シーズンの最終戦を前に、彼の言葉をどうしても聞いておきたかった。全体練習よりも時間をかけて調整を行い、グラウンドを出てきた本間に直撃した。すると、出てきた言葉は想像していたよりもはるかに厳しいものであった。

「大幅にメンバーが変わり、リーグ序盤戦は新しいポジションなど見極めるのに時間がかかったところがありました。でも、選手同士がもっと自主的にコミュニケーションを取っていれば、もっと早く今のチーム状態にたどり着いていたと思います。ただ、シーズン通して守備がオーガナイズされていたし、崩れたゲームはホームの徳島戦ぐらいで、それ以外は安定していました。チームのコンセプトを守るという最低限のことを選手たちはしっかりできていたと思いますし、それがこのチームの強みなんだと思います」

今季について、そう振り返った後、「ただ」という言葉とともに口調は厳しくなっていった。

「勝つためにはもっとリスクを背負ってチャレンジしていかないといけないし、そこが勝負の分かれ目になる。セオリーやコンセプトを守るのは大切なことだけど、そこからさらにチャレンジする姿勢を打ち出さないといけない。それができれば、もっと面白い結果を出せたと思う。もちろん、チャレンジをして負けることもある。でも、それを続けることによって、ギリギリの試合を勝つ強さを身につけることができると思う。試合によって『引き分けでOK』みたいな感じになることがあるけど、それではダメ。特にホームではどんな状況だろうと、勝利するために点を取りに行く姿勢を常に見せないといけない」

勝ち切れない試合が続く現状についての思いを吐露した本間。現状を打破するためにも「チャレンジする姿勢を続けること」の必要性を説いた。その中で印象に残っている試合として、第38節のセレッソ大阪戦を挙げた。

「2対2の状況で、アディショナルタイムに『引き分けでもOK』という雰囲気になってしまっていた。確かに苦しい試合でしたが、終盤は相手もヘロヘロになっていた。そこで相手を倒そうという気概が足りなかった。そういう思いを持っていた選手もいたのかもしれないけど、チーム全体で『勝つ』という統一感を出すことはできなかった。もっと前向きな選手がいてほしかった」

苦しい思いをしながら手にした勝ち点1。しかし、それで満足していては現状を打破することはできない。本間はベンチからもどかしい思いで試合を見ていたという。その姿勢が京都戦や北九州戦での「痛み」にもつながったと本間は感じていた。

「勝負弱さはこのチームの課題。問題は複雑だと思います。ただ、リードして迎えた終盤も『守ろう』だけではなく、チャンスがあるなら点を狙いに行く姿勢がないと守り切ることもできない。チーム全体でアグレッシブな姿勢を持ち続けることがまだ足りない。次の一歩を踏み出すためにも、もう一つやるべきことがあると感じています」

そして、話題は最終戦へ。「J2が22チームになってから最高順位がかかった一戦となりますが?」と問うと、本間の表情は険しくなり、怒りをこらえるような声で「そんなのはメディアやクラブ側が言っているだけの話で、俺たちが目指しているのはそんなところじゃない。そんなの甘すぎるし、全然足りない。この結果に納得していない」と返してきた。そして、こう続けた。

「シーズン終盤に向けて、勝ち点50という目標を定めて、それをクリアできる状況にまで来ることができたのは選手みんなの頑張りだと思っています。最終戦で勝って、一つでも上の順位に行くことは大事。ただ、僕はこのチームはもっとできると思っています。愛媛や北九州も過去に6位以内に入っている。やはり、そう考えると、全然足りないんですよ。僕らはJ1に対してチャレンジしていかないといけない。正直なところ、数年前までJ1昇格なんて現実味が帯びていなかったと思います。でも、スタジアムの改修ができれば、J1昇格の可能性が出てくる。選手もフロントもそこに向けて戦っていかないといけないと思います。条件がクリアしてから目指すのでは遅い。今からしっかりその力をつけていかないといけない。そこをみんなにもっと意識してもらいたい」

もちろん、最終戦は全力で勝ちに行く。ただ、たとえ最終戦で勝って一定の目標をクリアしたとしても、決して満足してはいけない。自分たちの本当の目標はそこではない。あくまで通過点に過ぎないのだ。本間はそう強く訴えた。

「昨年残留争いに巻き込まれた中、なんとか残留することができました。ただ、チームとしてそこを意識しすぎているような気がします。僕らはもっと上を目指して戦わないといけない。チームやクラブからまだ『J1』への意識が足りないような気がします。チームもクラブも早くそこを目指せる力をつけないといけないし、そういう意識で取り組んでいかないといけない」

そして、サポーターの存在にまで言及した。今季過去最多の観客動員数を記録し、平均観客数は5千人超えが確実となっている。かつて「1000人もいない試合でプレーすることもあった」と振り返る本間にとって、この変化はこの上ない喜びだという。

「チームとしてそんなに結果を出せていない状況にも関わらず、これだけ多くの人がチームを支えてくれていることが本当にうれしい。本当のファンが増えているということなんだと思う。ありがたい気持ちでいっぱいです。僕がよく思うのは、もしかしたらチームメイトよりサポーターとの方が心が通い合っているかもしれないなということです。本当にこのチームのサポーターは温かいし、優しい。そして、クラブのことを本当によく考えてくれている。だから、僕は常にサポーターと一緒に戦っているという思いを持つことができています。1年間のサポートに対し、感謝の言葉しかありません。だからこそ、もっと彼らを喜ばせてあげたい気持ちでいっぱいなんです。そのためにも、チームとしても、クラブとしても、さらに上を目指して戦っていかないといけない。僕は本気でそう思っています。ただ、個人の力は小さい。これから上にいくためにも、みんなの心を一つにして戦わないといけない。そのためにもサポーターやスポンサーのさらなるパワーが必要です。一緒に『J1』に向けて戦ってもらいたい」

本間の目に常に映し出されているもの。それは水戸ホーリーホックの未来である。先発の座から外れようと、その視線は変わることはない。自らの存在価値を、そして夢を、ぶれることなく、そこに見据えている。

「僕はこのチームに来てから苦しい思いばかりしてきました。でも、それらをすべて還元していくことが自分の役割だと思い、長いことプレーしてきました。5年後ぐらいか、もしかしたら10年後ぐらいになるかもしれませんが、このチームがJ1で戦うチャンスが訪れると思っています。その瞬間を味わいたい。それが僕の夢。着実に近づいてきているのを感じています」

本間幸司の夢であり、水戸に携わるすべての人の夢へ――リーグ最終戦に挑む。

(佐藤拓也)

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