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「『スタンス面談』と『アクションプラン』を加え、さらに進化する『Make Value Project』。~『何のために勝つのか?』原体験を掘り起こし、その答えと向き合う~」【コラム】※無料記事

【写真 水戸ホーリーホック提供】

昨年から水戸の強化の一環として定期的に実施されているアスリート向け知識習得・人材育成プログラム「Make Value Project(MVP)」。昨年に続き、今年も年間30回近い回数のプログラムが開催された。いまや「育成」を重視する水戸の強化の代名詞とも言える取り組みとなっている。

ただ、西村卓朗GMは昨年の活動を経て、「選手個人個人の行動変容を見たとき、どこまで効果があったのか、彼らに何が残ったのかを測定できなかった」と課題を感じたという。それゆえ、2年目となる今年に向けて「昨年と違った取り組みを加えよう」と決断した。

そして、新たに実施されたのがキャリアコーチと1対1で面談を行う「スタンス面談」である。
「スタンス面談とは何かというと、その名の通り、自分のスタンスや価値観、使命感がどんなところから来ているのかということを過去の原体験から探り当てようという取り組みです。1対1の面談なのですが、今まで自分で大事にしてきたことをキャリアコーチと対話しながら掘り起こしていく。1回45分から1時間。それを2か月に1回。今年は14人の選手に対して、1人4回行いました。大きな企業ではエグゼクティブクラスの人材がうけることもあるそうです。選手にもより丁寧な関わりを目指して実施しました」(西村GM)

面談では原体験を掘り起こしながら、MVVを作成。MVVとはそれぞれの選手の「MISSION(プロアスリートとしてのミッション)」「VISION(実現したいビジョン)」「VALUE(日々の行動、姿勢)」。加えて、選手のスローガンを1つ決めて、大事にしている風土、カルチャーを複数個の単語で表し、それビジュアル化することで、いつでも選手個々が見られるようにしておく。さらに意欲のある選手には目標を達成するためのマンダラチャート「アクションプラン」の作成も行った。

ちなみにマンダラチャートとは、曼荼羅模様のようなマス目を作り、そのマス目一つ一つに目標や具体的な行動を書き込むことで、思考を深める「目標到達シート」のこと。もともとビジネス界で広く活用されていた手法だが、メジャーリーグで活躍する大谷翔平選手が高校時代に行っていたことによってスポーツ界で注目を集め、サッカー日本代表選手をはじめとしたトップアスリートたちが積極的に採り入れている。

そのマンダラチャートの中に並ぶ言葉が選手個々のMVV(ミッション、ビジョン、バリュー)に繋がっていく。「その単語、文章に選手1人1人のストーリーが詰まっている」と西村GMは説明する。「こだわったのは年間を通して面談を4回行ったこと。自分は何のためにサッカーをやっているのかを見つめなおし、時間をかけて絞り出した中身なのです」と語気を強めた。

「MVPとは選手向けの講義やグループ研修というイメージがあると思いますが、さらに進化させたのが『スタンス面談』と『アクションプラン』の組み合わせ。それにより、MVPの質を高めました。それが2年目の進化です」と西村GMは胸を張った。

スタンス面談の面接を務める櫻井直人氏

「サッカー選手として『何のためにプレーしているのか?』と聞かれたときに『勝つため』といえば、成立するんです。でも、『何のために勝つんですか?』と聞かれると、クラブのMVV、選手個人のMVVを踏まえて、答えられる選手は少ないと思うんです。あまり突っ込まれないところだと思いますが、本来そこを考えないといけない」と西村GM。水戸の選手たちにはそれを答えられるようにしておきたいし、それを考えることがスキルの向上につながると西村GMは信じている。だからこそ、MVPを進化させ、ピッチ内外で選手たちを自らと向き合わせることによって成長させようとしている。
「近年、新人研修の冒頭で、村井チェアマンは選手達にこんな話をします。『あなたたちプロサッカー選手は、個人事業主であり、一人の経営者です。一人の経営者として、大事にしている理念や、ミッション、行動指針はなんですか?』と。MVPのグループ研修のアイデアも、一般企業では社員に研修が定期的に行われます。なぜプロサッカー選手には研修がないのだろうと思ったことも実施を考えた背景です」(西村GM)

「今年は『MISSION』『VISION』『VALUE』の策定が11月になってしまいました。来年は5月頃までに完成させ、もっと早くサイクルを回すようにしていきたい。今後、マンダラチャートによるアクションプランの実施もさらに早く高い頻度でアップデートすることができるようになれば、さらなる高みを目指せると思っています。それが今後のチーム強化の方針となります」と抱負を語る西村GM。その視線はさらに先を見据えている。
「まずスタンス面談があって、その上にグループ研修があり、さらに上にアクションプランがある。その先に何があるかというと、インターンシップ。そして、起業と引退後の転職。そこまでの機能を将来的には水戸はクラブとして持ちたいと思っているんです。以前、Jリーグキャリアサポートセンターの方が言っていたのですが、そういう機能は本来リーグではなく、クラブにあるべきだと。ならば、やってみようと思ったんです」。そして、西村GMは軽い笑みを見せながら、こう続けた。
「世界的に見ても、ここまでやっているクラブはそうそうないと思います」

「人が育ち、クラブが育ち、街が育つ」というクラブミッションのもと、前例のない取り組みに挑戦する水戸。それがクラブの「色」となり、「強み」となっていく。

(佐藤拓也)

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