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黒川淳史選手「僕の『MISSION』『VISION』『VALUE』 ~どうせやるなら100%~」【インタビュー】※無料記事

【写真 水戸ホーリーホック提供】

昨シーズンから定期的に行われているアスリート向け知識習得・人材育成プログラム「Make Value Project(MVP)」。今シーズンはさらに質を高めるために14人の選手を対象に「スタンス面談」を通して、MVVを作成。MVVとはそれぞれの選手の「MISSION(プロアスリートとしてのミッション)」「VISION(実現したいビジョン)」「VALUE(日々の行動、姿勢)」。加えて、選手のスローガンを1つ決めて、大事にしている風土、カルチャーを複数個の単語で表し、それビジュアル化する取り組みが行われた。
そこに記された言葉の一つひとつにどのような思いが込められているのか。今回は黒川淳史選手に自身の「MVV」について語ってもらった。

Q.1年間のスタンス面談によって「MVV(Mission、Vision、Value)」が完成しました。
「『どういうスタンスを持ってサッカーに取り組んでいるの?』と聞かれた際、『何だろう?』と考えてしまう人がほとんどだと思うんですよ。でも、年間通して45分の面談を4回行い、時間をかけて少しずつ過去を思い出しながら、自分の言葉でキャリアコーチに伝えて、それを言語化して作りました。これを毎日見ることによって、自分の原体験をよみがえらせることができる」

Q.1年間サッカーに打ち込んでいると、自分の原点って忘れがちになりますよね。それだけに言語化しておくことでそこに立ち返ることができるようになります。
「人間である以上、感情もあるので、うまくいかなくてイライラすることもある。そういった中で1年間モチベーションを維持することはとても難しい。キャンプの時はみんなフレッシュな気持ちで、そこでアピールしてポジションを奪い取ろうとするし、そこでうまくいかなくても感情をコントロールできる。試合に出られている選手も勢いのある選手に対して危機感を持って取り組むことができるのですが、徐々にチーム内の立ち位置が決まってくると、停滞してしまうところも出てくる。そこで自分の目的が常に頭に入っていると、ぶれずに取り組むことができると思うんですよ。1年ではなく、5年、10年活躍し続けるためにも自分の目的を明確にしておくことが大切だと思っています。このMVVがそのためのモチベーション維持につながると実感しています」

Q.黒川選手の「MISSION-プロアスリートとしてのミッション-」は「プロアスリートの指針・モデルとなり、社会へ還元する」とあります。
「僕の場合、プロになる前にプロアスリートやプロサッカー選手の理想像があったんです。プロ3年目で水戸に移籍してきたことが練習への向かい方やサッカーへの向き合い方などいろいろ見直すきっかけになりました。水戸のベテランの選手は僕の理想に近い存在だったんです。そこから自分なりの選手像を考えながら、昨年から日々の記録を取りながらサッカーに対する向き合い方を変えました。普段の生活からいかにサッカーにつなげるかということにこだわるようになりました。実際、自分のそういう行動が周りを巻き込めるようになってきていると感じるようになってきています。たとえば、チーム全員で試合前の3時間前に食事を食べるんですね。でも、前半が終わったときにエネルギーがかなり消費してしまうので、栄養士からアドバイスを受けて僕はカロリーを摂取するためにハーフタイムに羊羹を食べるようにしたんです。それから何人か真似をする選手が出てきました。それ以外にも僕は食事に気を使っているのですが、『これ、どうなの?』とアドバイスを求めてくる選手が増えました。そういったことを踏まえて、自分がモデルというか、周りにいい影響を与えられる存在になれるんじゃないかという実感を覚えることができました。昨年1年取り組んできて、周りから認められるようになったと思うんです。今年はさらに影響を与えられる存在になった。自分の行動で周りを巻き込めていることが今の結果に少なからず影響していると思っています。サッカーだけでなく、それ以外のところでも周りにいい影響を与えられる選手になりたいですし、プロアスリートのモデルになるための体現をしていきたい。それが僕の使命だと思い、この言葉を選びました」

Q.次に『VISION-実現したいビジョン-』について聞かせてください。「最高峰の舞台で自らのやり方を証明し、あるべき姿を証明する」とあります。
「僕の目標は海外でプレーすること。今のところ、ヨーロッパの方が日本よりもサッカーの価値は高いので、海外で成功することによって国内での成功よりもさらに高い価値を生み出すことができると思っています。僕は体が大きいわけではないですし、身体能力が高いわけでもない。何か突出したものがあるわけではない。それでも、自分の考え方や取り組みがヨーロッパで結果をのこすことによって、より大きな影響を与えられると考えています」

Q.そして、「VALUE-日々の行動、姿勢-」に関して、「・周囲の誰からも認められるような準備、発言、行動。 ・TRに対しての意識と、オフザピッチでも最高の準備 ・毎試合に向けたルーティン、1年間を通したコンディション管理を確立」とあります。
「サッカーをやっていると、『なんでこの選手が起用されるんだろう?』って思う経験が誰にでもあると思うんですよ。一方、『この人は試合に出るべき選手だな』と思われる選手もいる。監督が選手を選ぶのですが、試合に出ていない選手を納得させたり、認めさせる選手になりたい。試合で結果を残すことも大事ですが、日常の生活態度や行動など周りの選手から認められるような存在になりたいですし、そういう選手が集まっているチームが強くなると思う。ベンチにも入れなかったり、試合に出られない選手もプロである以上どんな状況でも必死にやり続けないといけないのですが、試合に出ている選手が認められるような選手であればあるほど、試合に出ていない選手のモチベーション維持にもつながる。それが逆になると、どんどん負のサイクルに入ってしまう。今、自分は水戸で試合に出ることができていますが、『淳史が試合に出るのは当然』と思ってもらうことは大事なことだと思っています。逆に、『淳史より上に行こう』と思う選手がたくさん出てくることによって、チームはもっとよくなると思う。自分が試合に出られなかったとしても、そういう行動を心掛けることによって、試合に出たときに『アイツなら何かやってくれそう』と周りの選手から思われる。それはすごく大事なことなんですよ。なので、そこは強く意識しています。でも、オフザピッチに関しては水戸の選手の意識はすごく高いですよ。練習1時間前に来て準備をするのは普通。どのチームの選手もしていると思います。水戸の選手はそれだけではない。プライベートのところでも食事や生活面でこだわっている選手ばかり。すごくいい集団だと思います」

【写真 水戸ホーリーホック】

Q.「MISSION」「VISION」「VALUE」はどのようにつながっていると思いますか?
「『VALUE』は細かいことなのですが、結局『MISSION』を達成させるためにも、その『VALUE』の一つ一つが大事になってくる。『MISSION』ばかり考えすぎると、足元が揺らいでしまう。なので、足元をしっかり見つめながら進んでいくことが大事。いきなり『MISSION』が達成できるわけではないですから。イチロー選手のように1年や2年ではなく、何年も続けることによって、その取り組みの価値は大きくなっていく。『VALUE』を常に意識して続けることによって、最終的に『MISSION』達成につながる。逆に『自分は何のために努力しているのか』がわからなくなった時、『MISSION』を見て思い出すようにする。ある意味、原点に返ることができるし、それにより、『VALUE』の質を高めることができるし、それが『VISION』への近道となる。すべてつながっていると思います」

Q.「追求・成長・最高峰・縁」というキーワードが記されています。黒川選手の場合、「追求」と「縁」に特別な思いがありそうですね。
「以前は『追求』という言葉になじみがなかったのですが、水戸に来てから卓朗さん(西村卓朗GM)が『追求』という言葉を使っていて、卓朗さんは『オンザピッチでのサッカーの追求』のことを言っていたと思うのですが、オフザピッチでも追求することが大事になると思っています。練習だけでなく、体作りや体のメンテナンスについても追求しないといけない。本当に奥が深い言葉だと思います。短期間ではなく、常に追求し続けることによって、自分のやり方が見つかると思う。それが周りの人の心を打つことができると思っています。なので、追求は尽きないと思います」

Q.「縁」について教えてください。
「この中で一番気に入っているのは『縁』なんですよ。自分がかかわってきた人たちとは今まで本当にタイミングよく出会うことができているんです。大宮のアカデミーに入るときは伊藤彰さん(現甲府監督)とので出会いがありました。水戸では卓朗さんやシゲさん(長谷部茂利監督)と出会うことができました。特に卓朗さんとの出会いが大きかったですね。僕が水戸に来た年からMVP(Make Value Project)がはじまり、毎回参加させていただきました。それにより、すごく視野が広がりましたし、人脈も広がった。それ以外も本当にいろんな縁というか、いろんな人に応援してもらって今があるんです。なので、僕にとって『縁』という言葉は大きいんです」

Q.一番大きな文字で「どうせやるなら100%」とあります。
「子供の頃から親に言われていた言葉です。どうせやるなら、サッカーも、勉強も、遊びも100%でやりなさいと。その言葉が常に自分の中にあって、意識してきました。なので、どんなことも100%でやってないと許せなくなってしまいました。サッカーだけでなく、勉強も同じように一生懸命やってきました。高校時代はクラスで1番の成績でしたし、持久走大会でも全力で走っていました。そうすると、周りの人がすごく助けてくれるし、応援してくれる。それは僕の中での財産ですし、プロサッカー選手として大事なことだと思っています。なので、この言葉を僕は一番大切にしています」

Q.スタンス面談を経て変化はありましたか?
「率直によかったと思います。毎日、ロッカールームでこれを見ることによって、言葉が自分の中に入ってきます。サッカーというスポーツですけど、人間がやるものなので、いろんなところにヒントは隠れていると思うんですよ。全く異なる職業の方の考えから結びつくものもあると思う。そのために視野を広くしてアンテナを立てることが大事だと思っています。そういう意味でMVPでは異業種の方と触れ合うことができるという点で非常に意味のあるものだと実感しています。水戸に来ていなかったら、そういう経験ができなかった。Jリーグの中でこういう取り組みをしているのは水戸ぐらい。そのチームに来たことは本当によかったと思っています。それも縁ですね。でも、こういう取り組みに対してもただ話を聞いているだけでは意味がない。『100%』で臨むことが大事だと僕は思っています」

Q.スタンス面談は誰でも受けられるわけではありません。でも、水戸の選手たちは受けることができています。恵まれた環境だと思いますよ。
「水戸は資金力がないから環境的に恵まれていないと思われがちですが、僕はそんなことないと思っています。ある意味、Jリーグの中でも先進的な取り組みをしていると思いますし、すごく意識の高いクラブだと思っています。本当に水戸に来てよかったと思っています」

【写真 水戸ホーリーホック】

(取材・構成 佐藤拓也)

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