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これも日本の未来を占う戦い。“全国4部”JFLの舞台で実現した三重×今治のモダンサッカー対決

その夜、日本中が久保建英のデビューにわくこととなる6月9日昼、三重県の東員町スポーツ公園陸上競技場では、降りしきる雨を物ともせず第21回日本フットボールリーグ(JFL)第10節「ヴィアティン三重vs.FC今治」がおこなわれていた。
A代表の試合も、その場に於ける新鋭のデビューも、もちろん日本サッカーにとり重要なことだ。しかしJ2、J3と新しいカテゴリーができるとともに下位に下り現在は4部となっているJFLでも志の高いサッカーを貫くチームがあること、そうした両者の激突をトップリーグではないアンダーカテゴリーで観られることも、また日本サッカーの進歩を示すものだ。その貴重な試合の様子をレポートしたい。

 

 

▼僅差でFC今治に屈したヴィアティン三重、倍返しを誓う
先に結果を述べると、1-2で軍配はビジターチームの今治に上がった。
ただこの結果は現時点で今治が先行し、より強力な才能を揃えているということでしかなく、勝った今治にも敗れた三重にも期待が膨らむ雨中の決戦となった。

今治は元日本代表コーチでサンフレッチェ広島の監督も務めた小野剛監督が率い、元日本代表の駒野友一や橋本英郎のほか、内村圭宏、園田拓也、修行智仁といった元Jリーガーが顔を揃える。10番の有間潤はJクラブに所属した経験こそないものの、企業チームの雄であるソニー仙台FCで活躍してきた男であり、今治に移籍してきた昨年を含めJFLで4年連続二桁得点をマークしている。全体的にフィジカルと技術に優れ、前から強いプレッシャーをかけ、タテにすばやい攻撃を持つ、JFLでは掛け値なしに強力なチームだ。

一方、三重はJFLに昇格してから連続して二桁順位の下位に沈んでいたが、今シーズンは様相がちがう。レノファ山口FCで名を馳せた上野展裕監督と阪倉裕二ヘッドコーチが新たに就任、今治のような超大物揃いではないがJリーグ経験者と下部カテゴリーの実力者、地元出身者を揃えてコレクティブなチームをつくり上げている。トータルフットボールを標榜する上野監督は結果として強力なプレッシングとハードワークを徹底させることとなり、この方向性は今治と似たところがある。

勝利を収めて会見室へとやってきた小野監督は「我々は紙一重のところで勝てたと思う。スタートから最後までハードワークしてすばらしいチームだったと思います」と、三重を称賛した。
「いま日本では前からプレッシングをするチームがそんなに多くないかもしれないなかで、我々も負けたくないと、そういう気持ちでいこうと選手たちと臨み、ほんとうに苦しい試合でしたけれども、一人ひとりが気持ちを見せてくれて、なんとか勝点3につながったんじゃないかと思います」
前から激しいプレッシャーをかけてボールを奪い合ったうえで攻撃の技巧を発揮するという志の高さ。それが両チームに備わっているのだと伝える、小野監督の言葉だった。

相手のプレッシングを怖がるか、そのプレスによって空いたところを使おうと思うか、その差は言葉で言うほど簡単ではない――と、小野監督。インテンシティの高い状況下でトレーニングを重ね「プレッシングで眼の前に来るということは、あるスペースを明け渡しているということでもある」(小野監督)、そのスペースを制した今治が3ポイントを掌中に収める結果を得た恰好だ。

対する三重の上野監督は「ホームでまた勝てずに申し訳ありません」とファン、サポーターに向けて詫びると「最後はコンパクトに戦うことができなかった」と敗因を述べた。敗れたヴィアティン三重はまだ今シーズン、ホームでの勝利がない。上野展裕監督はつづけて「(2失点目で)ずるずるずるずる下がって失点してしまったこの悔しさを忘れず、今治に行ったときに倍返しをしようと(試合後に)話してきた」と言い、二巡目でのリベンジを誓った。

サイドで数的優位に立てなかったのは、サイドバックがサイドハーフに連動してプレスに行けなかったからということもある。不具合は、シャドー気味に構える相手の10番有間と9番玉城峻吾にアプローチできない中央寄りのエリアにもあった。1対1を怖がり近寄らなかった結果、相手に前を向かせた。
「苦言を呈するならば『いい加減な守備をしてしまった』。そこは徹底させたいと思います」
厳密な意思を呼び起こすべく、上野監督は再起に向けてスタジアムをあとにした。

属するカテゴリーがどこであろうと、質の高いサッカーを追求する。そんな三重と今治の対決をJFLで観られること自体が日本サッカーの進歩であり、また将来を占うものだと感じさせる一戦だった。

 

 

▼試合経過~元札幌勢同士のPK対決は後輩の曳地に軍配
前半29分、ペナルティボックスに入れられた今治のパスを一度は三重守備陣がはじき出すが、持ち直したあとの右からのすばやいクロスをニアで有間が決めて今治が先制。しかし相手の強弱に関係なく得点するすべを持つ三重はこれに折れることなく、34分にボックス内でのダイレクトのパス交換で相手を翻弄し、触らせることなく寺尾俊祐が右足シュートを決めて1-1の同点に追いついた。
ところが再開直後の35分、1トップを張る元コンサドーレ札幌の内村が倒され、今治はPKを獲得。同点としたばかりで勝ち越されれば三重の心理的ダメージは計り知れないものになっていたはずだが、シュートコースを読み切っていたゴールキーパーの曳地裕哉が左に跳びこれを阻止。窮地を脱した。
殊勲の曳地にこのときのことを訊ねると、答えは「読みですね。PKを蹴った内村さんとは札幌のときにいっしょにやっていて。データはなかったですけど、癖は知っていたので、絶対止めてやろうという気持ちで挑みました」。元チームメイトの強みを活かしたPKストップだった。
これで三重は息を吹き返し、1-1のまま前半を折り返した。

だが「ある程度どのスペースが空いてくるかはハーフタイムに話した」と小野監督が言うように、後半は今治がさらに強度を高めスピードを上げつつ、コンパクトさを保てなくなってきた三重のスペースを衝いた。後半34分の決勝点は中央をタテに進みすばやくボールを運んだ有間がそのまま、正確なグラウンダーのシュートを左から対角線上のゴール右隅に蹴り入れたもの。最後はフィジカルや技術など個の力の差を押し出した今治が攻め切り、ハードワークを掲げるチーム同士の対決を制した。

 

 

▼ホームの三重所属選手の談話~堅固なGK陣を象徴する曳地、上野サッカーを熟知する井上
チームとしては2失点。ただ、失点場面を含め、キーパーにノーチャンスといえる被決定機が多かった。一概にGKを責めることはできない試合展開だったが、それでも曳地は守備組織をつくるところの未熟さを悔いた。
「シュート以前のところで、コーチングなどの精度を上げていかないといけないと思います。未然に防げるところは未然に防ぎたいですし、そこを求められてもいますので。練習をやっていくしかない」

今シーズン、試合を重ねるごとに右肩上がりの成長を感じているという曳地。強豪の今治を相手に僅差の試合をできたことも自信にしていいだろう。ただ、敗れたことは事実。手応えに慢心せず、練習をして次節に向かいたい――と曳地は語っていた。

フィールドプレーヤーにも話を訊いた。アルビレックス新潟U-18時代、上野監督に師事した左サイドバックの井上丈はワイドでボールを受ける場面も多かったが、今治の強固なブロックを崩すことができなかった。
「もう一段階上に行くには、そこをかいくぐらないといけない。練習でやっているパターンを正確にやっていけば、もっとネットを揺らすことができると思う」と、向上の必要性を述べていた。

上野監督に直接声をかけられ、三重に加入した。グルージャ盛岡在籍時には上野監督が指揮を執るレノファ山口FCと対戦し「(ユースのときより)パッケージの数も多くなってすごくおもしろいサッカーをしているな」と感じていた。
「また一緒にやりたいなという願いがかなった。上野さんの期待に応えていかないといけないし、ホームで勝ってサポーターの笑顔も見たいので、次に借りを返したい」

 

 

▼野垣内俊、生まれ故郷のためJFLで奮闘中
三重県出身の野垣内俊がヴィアティン三重で二年目のシーズンを迎えている。ヴァンラーレ八戸でプレーした2017シーズンから数えると、JFLは三年目だ。生まれ故郷の三重県にJリーグクラブを誕生させようと、懸命に戦っている。

東員町スポーツ公園陸上競技場に野垣内を訪ねた。
上野監督によれば、野垣内はよく叱られ役になっているのだという。実情はどうなのかと訊くと、彼はにこやかに答えつつ、そのことを認めた。
「このチームでは年齢が上になりますけれども、不足があれば年齢に関係なく上野監督に指導してもらいます。それを若手が見て『平等に扱ってもらえているんだ』と感じてもらえればいい。ぼくもまだ現役でやるつもりですから、きちんと指摘をしてもらえれば選手としてプラスになります」

若い選手からベテランまでがコーチ業などの仕事をしながらプレーするこのチームは、かなりの平等主義に映る。野垣内も「ほんとうにそうで、年齢に関係なく、若手だけでなくベテランも率先して片付けたり、多くの準備もします」と言っていた。この辺りは上野監督の人柄だろう。ただ謙虚で柔和な野垣内だからこそ、叱られ役を務めてチームの和をなしているのでは――という気もする。

サイドバックとセンターバックを兼ねる野垣内だが、今シーズンのポジションはサイドではなくセンター。とはいえ、上野監督は全員守備全員攻撃のトータルフットボールを標榜する。攻撃の意識が強いのかと思いきや「いまはどちらかというとディフェンスの面の意識が一番高い」のだという。
「セットプレーなどでは攻撃の意識を持って行く部分もありますけど、主にうしろでバランスをとる感覚でいます」

 

▼Jリーグ加盟に向けて
Jリーグ準加盟チームと企業チームの強豪が群雄割拠という感じだった1990年代の旧JFLを経て、J2が始まった1999年からの新JFLは企業チーム、クラブチーム、Jリーグをめざすチーム、大学系チームが混在する全国リーグとなった。J3ができて以降は、J1から数えて4部。ただ、J3初年度はJFLとチームを二分した状態で、実力差はあまり感じられなかった。その後、J3のチームもどんどん強くなっていったが、JFLもソニー仙台FCとHonda FCが相変わらずの強さを発揮しつつ、その他のチームが元JリーガーやJクラブの指導者を加えて強さを増してきている。
野垣内の見立てでも、2019シーズンのJFLは一定の実力を有する全国リーグといった感触があるようだ。
「ヴァンラーレ八戸からJFLでプレーして三年目になりますけど、レベルの高いチームが多い。ぼくの感覚ではJ3の中位くらいまでのチームが山ほどいるので、比較的レベルは高いリーグなのかなと思います。個人、個人でもそうですね」

オフに各チームがあらためて編成され、しかもJリーグに比べると情報量が少ないなかで、どうしても新シーズンは各チーム間の実力差がわかりにくい状態でスタートする。ただ何試合か戦っていくうちに、野垣内は「やれる」という手応えを掴んできているようだ。
「ぼくらはまだ(J3加盟の)ライセンスがないので、三重県全体でサポートしていただくかたちができれば一番いい。いま各チームが拮抗しているなかで(Jリーグ加盟条件の)4位以内を狙える順位にいますし、今年は上位を相手に戦えている感覚がある。もっと力をつけたいというのが一番です」
まだ三重はJリーグ百年構想クラブの認定を受けていない。Jリーグ加盟に必要な条件を充たすべく環境を揃えるには、好成績を残して地域の支援を得られる状況にする必要があるのだ。野垣内はそのために戦っている。昇格の前の下慣らしだ。
「そこは狙っていきたいし、狙える範囲。今年一年間を通して意識したい部分です」

地元の三重県出身者が多く所属している。
「思っていたよりわりと多い。三重県にはJリーグクラブがないので少しでも力になりたい――と思って(このクラブに)来てくれたスタッフや選手もたくさんいます。そのぶん、結果を残したい」

「ぼくはFC岐阜に育ててもらったようなもの。いつもFC岐阜の結果を気にして見ています」
そんな野垣内を応援しようという気持ちもあるのだろう、三重の試合にはFC岐阜のファン、サポーターが足繁く通っている姿が目につく。野垣内も「今日も岐阜から観に来てもらっている方が何人かいて、それは本当にうれしい」と言い、そのことは認識していた。悪天候にもかかわらず何人か来たというだけでもすごいことだが、その人数がもっと増えれば、さらに野垣内の力となるにちがいない。
「ぼくもまだまだ現役としてがんばっています。隣の県ですから、FC岐阜の試合がないときは来てもらえるとありがたいです。ぜひ多くの人に来てもらえるとうれしいので、よろしくお願いします」

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「トータルフットボールは普遍」。JFLから革命を起こすヴィアティン三重の胎動

 

後藤勝【ごとう・まさる】

出版社、編集プロダクション勤務を経て主にサッカーライター。主な著書はクラブを好きになっていく過程を描いた草分け的存在の『トーキョーワッショイ! FC東京 ’99-’04 REPLAY』、東京都をロンドン的に再解釈した都リーグ的世界観に基づくSFサッカー小説『エンダーズ・デッドリードライヴ 東京蹴球旅団2029』がある。タグマ!ではFC東京『トーキョーワッショイ!プレミアム』とFC岐阜『ぎふマガ! FC岐阜を徹底的に応援する公式ウェブマガジン』に携わっている。

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