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「90分の試合でいろんな選手に感染する可能性は低い」岩田健太郎教授に緊急取材、サッカー観戦の感染リスクとJリーグ再開の是非(後編)

新型コロナウイルス対応に追われるクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」に入り、「カオス状態」と告発する動画をアップ(2日後に削除)し、一躍時の人となった神戸大学感染症内科の岩田健太郎教授。自主隔離を続ける現在もTwitterを中心に有益な情報を発信しているが、タイムラインには突如、ヴィセル神戸の情報をRTしたり「エル・クラシコ見たいな」とつぶやいたり、サッカー通であることを匂わせる投稿が時折流れてくる。
もしやサッカー愛にあふれる感染症の先生なら、Jリーグの試合延期と今後の対策について、ファンの視点をふまえてアドバイスをいただけるはず、ということで2月28日電話でのインタビューに特別に応じていただきました。
全サポーター、サッカー関係者必読の内容を、2回に分けて公開いたします。

前編は試合開催の是非と今後の再開の仕方についての見解を、後編は実際にスタジアムで試合をする際の「観戦者や選手の感染リスク」について、最後はおまけで岩田教授のベールに包まれたサッカー遍歴もあわせて聞いています。
(企画・取材・文/阿波万次郎)

※岩田教授のお話は取材を行った2月28日時点の情報に基づいています。

 

 

【試合が再開されたときの具体的な対策と行動指針とは?】

■スタジアムでマスクをするよりはるかに大事な対策とは?

――これから試合が再開されたとき、主催者はどういうことを想定すれば良いですか?

まず弁護士に相談して法律的な問題を回避しておいたほうがいいと思いますね。たとえば、スタジアムで感染が広まったときのために、免責事項を入れておくとか。これはまさにプランB、プランCの話なわけですけど、十分に起こりうるわけです。
チケットを買ってもらうときに、スタジアム内で起きたコロナの感染については、協会、リーグ、クラブは責任を持てません、というのを明示しておくべきです。

あとはJリーグの各チームにドクターがいますが、感染症の対策に詳しい人はほとんどいないはずなんです。クラブ、選手、ファンを守るために基本的なことができているかどうかは、ちゃんと専門の監修者を入れて対策をしたほうがいいと思います。

――たくさん人のいるスタジアムは感染のリスクが高いですか?

高いですね。人が集まれば集まるほどリスクは高まりますから。

――屋内、屋外だと屋内のほうがやはりリスクは高いですか?

五十歩百歩ですね。屋根がついていてもあまり変わらないです。

――どうでしてですか?

隣の人との距離のほうがより重要です。このウイルスはそれほど飛距離はないので、屋根が何十メートル上にあってもなくてもあまり変わらない。

――サポーターが具体的にできる対策は?

一番大事なのは風邪をひいたら絶対に観に行かないということです。風邪をひいたら絶対にあきらめる。逆に言うとJリーグも風邪をひいたらチケット代を払い戻してもいいぐらいの英断をしたほうがいいのかもしれません。

――お金を払っているとより行きたくはなります。

それは平常時の考え方です。この前のヴィッセルの件、サッカーの応援では大声を出すのも歌を唄うのも普通のことじゃないかという考えもあるかもしれませんけど、今は常識を語るときではないということを理解しないといけません。

――飛び跳ねたりも?

飛び跳ねるのはかまわないんですけど、抱き合ったりとか、肩を組み合ったりとか、常識的にそんなもんだよと思ってやっていることがいまはダメなことが多いということです。それはマスクなんかよりも全然大事なことです。

――開幕節でもマスクをして観戦している方が大勢いました。

マスクの効果は小さい。それよりも風邪をひいたら来ないことのほうがはるかに重要です。
ただ言っても、新型コロナウイルス感染者の8割、9割は治っているので、そんなに心の底からびびる必要はないんです。とくに若い方は治りやすいので、百歩譲って運悪くかかってしまったとしても、この世の終わりというわけではないということもまた事実です。

――過大に恐れてはいけないと。

万が一かかっても治る人がほとんどですが、そうじゃないこともたまにはあるというのもまた事実です。ここはバランスが必要で、みくびってもダメですし、過度に恐れてもダメなんです。我々はよく「正しく恐れろ」と言うんですけど、怖くてもびびってはダメです。

――さきほどの席の間隔をあけるというのはとても有効そうだなと思いました。

効果はあると思いますね。実際にオペレーションするのは難しいと思いますが、開催できないよりはマシだという発想の仕方はあると思いますね。

――席の横とか前後とかでのリスクの違いはありますか?

あまりないと思ったほうが良いです。一番危険なのは対面で向き合うことなんですね。口とか鼻からウイルスが飛んでいくので。サッカー観戦ではみんな同じ方向を向いてますから、リスクはそこまで高くない。

――後ろでヤジを飛ばしているような人がいても? 唾をまき散らして。

後ろを向いて言い返したりしなければ大丈夫です。ひたすら無視して知らんぷりをして前だけ向いて観ることが大事ですね。

――なるほど(笑)。

観戦中は横を向いたりキョロキョロしたりというのはできるだけ避けたほうがいいかもしれません。

 

■もし選手に感染者がいても試合中に濃厚接触となる可能性は高くない

――試合をする際に運営とかチーム関係者がとるべき対策は?

これも観客と同じで風邪の症状が出た選手を試合はもちろん、練習にも絶対に出させないことです。2週間という健康監視の基準がありますので、たとえ元気になってもその期間は監視しなければいけないかもしれません。

実はこの2週間というのは微妙なんですけど、いずれにせよ感染症対策のプロと相談して決めるのが大事で、スポーツドクターの方が少しかじった知識でやるのはちょっと危ないと思います。専門分野がまったく違いますので。

 

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