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なぜ「福北ダービー」「北福ダービー」は熱いのか(えのきどいちろう)

タグマ!サッカーパック』の読者限定オリジナルコンテンツ。『アルビレックス散歩道』(新潟オフィシャルサイト)や『新潟レッツゴー!』(新潟日報)などを連載するえのきどいちろう(コラムニスト)と、東京ヴェルディの「いま」を伝えるWEBマガジン『スタンド・バイ・グリーン』を運営する海江田哲朗(フリーライター)によるボールの蹴り合い、隔週コラムだ。
現在、Jリーグは北は北海道から南は沖縄まで58クラブに拡大し、広く見渡せば面白そうなことはあちこちに転がっている。サッカーに生きる人たちのエモーション、ドキドキわくわくを探しに出かけよう。
※アルキバンカーダはスタジアムの石段、観客席を意味するポルトガル語。

 

 

Jリーグウォーキングアプリにハマる(えのきどいちろう)[えのきど・海江田の『踊るアルキバンカーダ!』]四十二段目

■首都圏と新潟、地元の違い

J2はマラソンでいえば折り返し点を過ぎた辺り、日程の半分を終えた矢先だ。前半戦の総括をすると西日本勢、とりわけ九州勢の躍進が顕著だった。21節終了時の首位は何と北九州だった。2位は徳島(22節終了時に首位浮上)、3位長崎、4位福岡。これはちょっと想像外だ。評論家の順位予想でも大宮、磐田を推す声が高かったと思う。

筆者は東京在住のライターで、生活感覚がどうしても東京目線である。またメディアのほとんどが東京に一極集中しているため、例えばJリーグ取材でも首都圏のクラブ中心にこなしてきた(フリーランスの立場でいうと、取材費・交通費が安く済むのだ)。が、あるとき、世の中に流通しているJリーグ情報のほとんどが首都圏・関西圏のJ1チームのことじゃないかと思うに至った。まぁ、Jリーグ史の上で、鹿島、磐田の存在は外せないが、そのかつての「2強」もいつしか大都市圏のビッグクラブの波に飲み込まれつつある。

個人的にはその思いから新潟を書き始めるに至った。「東京から距離を置いた視座」である。世界はぜんぜん違う見え方をした。僕は新潟のサポーターの生活感覚を学んでいった。「地元ローカル」の感覚がまったく違うのだ。首都圏クラブの「地元ローカル」は都市近郊のそれだ。僕は「ベッドタウン解放闘争」と名付けたんだけど、親の世代が都心に働きに出て、ただ寝に帰ってきた(したがって親世代には愛着がそれほどない)通勤圏の街にプライドや愛を獲得する闘いだ。首都圏をドーナツ状に取り囲んだ浦和、柏、川崎、調布といった郊外の街を「地元」として主体的に選び取る闘いだ。

といって新潟の「地元ローカル」が解放闘争ではなかったかというと、そうではない。彼らにとっても「アイシテルニイガタ」は発明だった。郷土に誇りを持ち、ニューヨーカーが「アイラブNY」と言うように、地元が好きだと表明していいんだ。サッカーはその契機となり得るんだという発明・発見だ。

 

■日本最強のダービーマッチへ

という観点でJ2九州勢の躍進を見ると、これは非常に面白い。申し遅れたが僕は父の転勤の関係で、中学時代、福岡県久留米市に住んでいた。今でも同級生とLINEでやり取りしているし、(北部)九州の土地勘が多少ある。

とにかく何がすごいってギラヴァンツ北九州なのだ。J3からの昇格チームが前半戦の主役になり、今や徹底的に研究され、包囲網を敷かれるまでになった。Jリーグにおいては新興勢力といっていいギラヴァンツだが、何といっても政令指定都市・北九州を本拠地にしている。第24節(10月4日)に予定されている福岡-北九州の激突は日本最強のダービーマッチに成長し得るカードだと思う。

このカード、福岡-北九州戦は一般には(どちらも福岡県のチームということで)「福岡ダービー」と呼ばれている。特に東京のサッカー媒体はそう呼称しがちだ。が、頑固の「福北ダービー」あるいは「北福ダービー」と呼び続けているファン、サポーターもいる。2つの政令都市、福岡と北九州は歴史的に反目し合い、経済的にも断絶していた歴史がある。どんな映画でも小説でも博多の無頼にとって小倉はいちばんのアウェーだ。いちばんヒリヒリする敵地だ。今からは想像し得ないくらいの緊張感があった。北九州という土地はいったん火がついたらとてつもない。

 

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