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栃木新スタで起きた騒動は心温まる展開へ(えのきどいちろう)

タグマ!サッカーパック』の読者限定オリジナルコンテンツ。『アルビレックス散歩道』(新潟オフィシャルサイト)や『新潟レッツゴー!』(新潟日報)などを連載するえのきどいちろう(コラムニスト)と、東京ヴェルディの「いま」を伝えるWEBマガジン『スタンド・バイ・グリーン』を運営する海江田哲朗(フリーライター)によるボールの蹴り合い、隔週コラムだ。
現在、Jリーグは北は北海道から南は沖縄まで58クラブに拡大し、広く見渡せば面白そうなことはあちこちに転がっている。サッカーに生きる人たちのエモーション、ドキドキわくわくを探しに出かけよう。
※アルキバンカーダはスタジアムの石段、観客席を意味するポルトガル語。

 

栃木新スタで起きた騒動は心温まる展開へ(えのきどいちろう)[えのきど・海江田の『踊るアルキバンカーダ!』]五十六段目

 

 

■栃木に出来た格好いい新スタ

大概のJサポは同じ習性を持ってると信じるが、僕もスタジアム馬鹿だ。初めて行くスタジアム、行ったことないスタジアムに目がない。感覚としては城マニアに似ていると思うのだ。城マニアは日本じゅうの城の所在地が頭に入っている。できたら網羅的に全国の城すべてをまわりたいと考えている。城マニアとスタジアム馬鹿の違いは(本当は色々あるのだが)、端的に言ってこっちは新スタジアムが建設されるところだ。なかなか向こうは2024年、長崎に「新長崎城」が落成予定ですよ的な話にはならない。スタジアム馬鹿はその点、大いに恵まれている。

で、先日、ついにカンセキスタジアムとちぎ(以下、カンセキ)に行ったのだ。ずっと行きたかった。外周941メートル、総工費216億円をかけて完成した2022年栃木国体のメイン会場である。栃木SCは従来の栃木県グリーンスタジアム(以下、グリスタ)と併用する形でホームゲームを開催している。グリスタはサッカー専用スタジアムだから臨場感が魅力。一方、カンセキは(陸上トラックがついているけど)席数2万5千と大観衆を呑み込むことができる。それぞれに長所があるのだ。

オープンは昨シーズン、本来なら5月6日のJ2第14節大宮戦でこけら落としのはずだった。が、コロナ禍でシーズンが止まってしまう。日程の再編成の結果、12月16日、J2第41節千葉戦が最初のJリーグ開催(競技施設としての最初の利用は8月の陸上競技会)となった。

僕は建て替える前の県総合陸上競技場でJFL時代の栃木SCの試合を見ているし、公園内の県総合野球場に栃木ゴールデンブレーブスの試合を見に行って、その折、建設中のカンセキの写真を撮ったことがある。そのときの印象は「東京オリパラのスタジアムじゃないの?」だった。ちょっと国体サイズのスタジアムには見えない。でかい。格好いい。早くこのスタジアムで試合が見たいと思った。ただオープニングイヤーの2020年、僕の取材しているアルビレックス新潟はカンセキの試合が組まれなかった。だから、DAZNの千葉戦や皇后杯、なでしこ親善試合等の映像でいちごのマークと「とちぎ」の文字が映る度、うらやましく眺めてきたのである。

 

■試合後に起きた騒動と心温まる出来事

念願叶ってカンセキの試合にありついたJ2第9節は平日ナイターだった。帰りの足が心配だったが、西川田駅21時41分発の東武宇都宮線に乗れば浅草まで帰って来れる。僕は東京・浅草在住なので東武線が利用できるのはまことにありがたい。JR宇都宮駅からバスの一手だったグリスタと比べると、西川田から歩けるカンセキは「電車移動サポ」にグッと優しい。事実、この日はこの電車(東武線の東京への最終接続)に乗って、日付が変わる頃、のんびり家に帰った。新潟のパスサッカーvs栃木の鬼プレス(2‐2のドロー)、熱戦の余韻を感じながら。

と、実はその晩、カンセキではなかなかの騒動が勃発していたのだ。23日付の下野新聞が「出庫に3時間 長い延長戦/有料化、夜間料金 混乱招く/サポーターら協力し対応」と報じている。記事のリードを引用しよう。

 

「21日夜に宇都宮市の県総合運動公園陸上競技場(カンセキスタジアムとちぎ)で行われたサッカーJ2の栃木SC対アルビレックス新潟の試合後、公園内の駐車場で大渋滞が発生した。今月1日から駐車場が有料化され、出庫時に料金の支払いが必要になったことに加え、午後9時半以降に出場する場合、夜間料金として通常の200円に1千円が加算されることが混乱に拍車を掛けた。全ての車が駐車場を出たのは、試合が終了した同9時ごろから約3時間後、利用者からは運用の改善を求める声が上がっている」(4月23日付下野新聞、同記事リード)

 

ざっと読んだだけでも「出庫時に料金の支払いが必要になった」「夜間料金として通常の200円に1千円が加算」と生々しいが、とにかく先月までは駐車場が無料だったという事実をおさえておきたい。はるばるアウェーへ乗り込んだ新潟サポはもちろん、地元栃木サポもカンセキ駐車場の勝手がわかっていなかった。

「カンセキスタジアムの西駐車場に車を停めたのですけど、ゲートで駐車券を無くした方がいて、めちゃめちゃ詰まったのと、料金所前で3方向から合流するのでカオスでした。でも、アルビレックスのジャージを着た方が、車の誘導を始めてくれて、料金所でもアルビのサポーターがお金と駐車券の受け渡しを始めてくれて、その後はスムーズに出れました。新潟まで早く帰りたいだろうに…。もう今日の試合は新潟の勝ちです! まだまだ僕らは頑張らないとです」(知人LINE)

これはたまたま試合を見に来ていた宇都宮市の知人がくれたLINEだ。駐車券を紛失した人が立ち往生して、駐車場出口をふさいでしまったらしい。ようやくその車をどかしたと思ったら、今度は小銭が足りない人が立ち往生して、関係ない人がその人の駐車料金を払ったりしたそうだ。まさにカオス。

「料金所前で3方向から合流」は知人の文面の通り、結局サポーターが自主的に誘導を買って出た。警備員さんが時間で帰っちゃって、誰も面倒を見てくれなかったのだ。文面通り、新潟サポが「これはいけない」と先に動いたようだが、途中からは栃木サポも誘導に立ち上がった。さっきまで試合でしのぎを削っていた者どうしが協力し合って駐車場の出庫を助けるというハートウォーミングな展開(!)になった。新潟サポは降雪時の助け合いでこの手のことに慣れている。栃木サポも大変、情に厚い県民性だ。一致協力して、サポだけでこの難局をさばいてしまった。下野新聞の記事に合ったように最終的には3時間かかっている。すごいと思う。サポーターはホントにありがたい。

ただ当然のこと、これはサポまかせにしてはいけない案件なのだ。

 

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