J論プレミアム

弱いチームはDAZNの画面に映る選手の数が多い。戦術家・北野誠が明かすプロのサッカー観戦メソッド

 

カマタマーレ讃岐を9年間J2に留まらせ、Jリーグきっての曲者としてその名を馳せた監督・北野誠。戦力差のある相手チームの強さをまんまと消し、したたかに陥れる戦略は緻密なスカウティングの賜物でもあった。現在は今年9月に開幕する日本女子プロサッカーリーグ(WEリーグ)のノジマステラ神奈川相模原で指揮をとる智将は一体どんな視点でサッカーを見て、分析しているのか? 相手の長所と弱点を見抜く方法、チームの出来不出来の判断ポイントからDAZN観戦での戦局の見分け方など、自ら「企業秘密(笑)」と言うスカウティングの極意を明かしてもらった。
たっぷり1万字強のインタビューを前編・後編に分けてお届けする。
(聞き手:ひぐらしひなつ)

※インタビューは4月下旬に行いました
→前編:J2でしか指揮したことのない人間にとって鳥栖と札幌のサッカーは超面白い。智将・北野誠が説くサッカーの深い見方

 

■J2の面白さを再確認した町田と琉球の試合

――最近はJ2は観てないんですか。

観てますよ。先日は町田と琉球の試合を観に行きました。琉球が7連勝していたから面白いなと思って。一緒にやっていた選手もいっぱいいるので、それもついでに。で、町田はきっちりした4-4-2なんですよ。琉球みたいなサッカーと4-4-2の町田がどうやって対戦するかなと。僕が2009年に熊本で監督をやっていたときに選手だった喜名哲裕が、いま琉球のヘッドコーチなんだけど、最初の10分くらいまでは立ち位置がすごく面白くて、僕がいま女子に落とし込んでいる立ち位置の取らせ方をやっていた。ライン上とライン間の取り方がすごく上手で。人と人の間に立つのがね。それで琉球がすごく優位に立ったんだけど、ポゼッションのチームあるあるで、ミスパスをしちゃうんですよ。それで2失点したらもうズタズタになっちゃった。4-4-2がきっちり勝った、J2らしい試合でしたよね。そういうのを見て、ああJ2も相変わらず面白いなと思ってます。

――2失点してチームが崩れるときって、監督の視点で見てるんですか、それとも選手の心理を考えるんですか。

いろいろです。まあ監督目線のほうがあるかな。そういうときに見るのはベンチです。0-2になってあたふたしているときに、じゃあベンチワークはどうなってるんだろうと。樋口さんがピッチサイドに立っているとき、他のスタッフやウォーミングアップしてるフィジカルコーチはどうしてるんだろうと。スタジアムで観るときは大体そういうところを見てますね。で、いまは観客が声を出せないから、チームスタッフの声がよく聞こえるんですよ。あれが面白くて、試合観るよりそっちをじーっと聞いてました。

――たとえばそうやって修正が必要なときに、アグレッシブな方向に舵を切るのか、守備を固めるほうに行くのか。もちろん試合の流れやチームが置かれている状況や選手層によっても変わってくるでしょうけど、その優先順位もそのときどきで変わってくるものですか。

大体は、1週間前、2週間前のトレーニングでしっくり行った距離感や並びに変えます。それはもう自分の匙加減だと思うけど、僕はそうしていましたよ。自分たちの心地いい距離感。そういうところにシフトしてましたね。そうするとチームが落ち着く。それが、讃岐だったら長いあいだ指揮していたから、ある程度わかって選手たちに伝えることが出来たんだけど、岐阜は本当に数ヶ月しかやらなかったから、その距離感すら僕自身が掴めてなかった。だから先に点を取られて選手たちがすごくあたふたしたときに、それを戻すことがすごく難しかったの。

――自分たちのニュートラルな状態を取り戻すということですね。

そう。で、熟成されたチームは、外から監督やコーチが指示を出さなくても、ピッチの中でそれがしっかり出来るんですよ。それこそいま、フロンターレがまさしくそうじゃないですか。ひとつのコンセプトがあって、みんなが良い意味で自由。同じ絵を描いた自由なサッカーをやっています。だからあのチームは負けないんでしょうね。

――中村憲剛さんがいなくなってどうなるかなと思っていましたが、揺るぎませんね。

ですよね。コンセプトがしっかりしてるんだなと思います。

 

■良いサッカーをしている鳥栖がいつか順位を落とすと思える明確な理由

――コンセプトがはっきり見えるチームと見えないチームがあったら、やっぱりその差は試合結果に如実に表れていると思いますか。

僕は思います。それはサポーターもみんなわかっていると思う。だから、そういうチームって強いんじゃないですか。強いというか魅力があるということかな。

――いろんな性格のチームがありますが、こういうコロナ禍などのアクシデントに遭ったとき、崩れにくいのはどういうチームなんでしょうか。

ぶっちゃけ、お金だと思います。ぶっちゃけね。

――リアルですね…。

たとえば、良いサッカーをしている鳥栖が、いま上位に来てる。その鳥栖がいつ落ちるのかを、僕は見ていたい。

――落ちることが前提なんですか。

うん。だって、申し訳ないけど選手層が、J1の中では低いと思う。J1って総力戦だと思うんですよ、上位に行くチームほど。そうしたら鳥栖は良いサッカーをしているし僕は面白いと思っているけど、あれがいつまで続くんだろうということは、いちサッカーファンとしての僕にとっては大いなる見ものなんです。これが落ちずに突っ切れたらすごいと思いますよ。でもビッグクラブたちはそれを許しちゃダメなんですよ。

――鳥栖って相手によっていろんな戦い方が出来ると思ってるんですけど、それでもやっぱり厳しくなりますかね。

うーん。ここから夏。補強とか外国籍選手の合流でしょうね。でもそうじゃないとダメなんですよ。J1は日本のトップレベルのリーグなんだから。だから僕は厳しいんじゃないのかなと思います。ACL圏内に入れば万々歳じゃないかな。

――好調なチームが調子を落としかけたときにどうするかというのも興味深いポイントなんですか。

 

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