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『シン・ノヅタこけら落とし』は記憶にとどめたい一戦だった(えのきどいちろう)

タグマ!サッカーパック』の読者限定オリジナルコンテンツ。『アルビレックス散歩道』(新潟オフィシャルサイト)や『新潟レッツゴー!』(新潟日報)などを連載するえのきどいちろう(コラムニスト)と、東京ヴェルディの「いま」を伝えるWEBマガジン『スタンド・バイ・グリーン』を運営する海江田哲朗(フリーライター)によるボールの蹴り合い、隔週コラムだ。
現在、Jリーグは北は北海道から南は沖縄まで58クラブに拡大し、広く見渡せば面白そうなことはあちこちに転がっている。サッカーに生きる人たちのエモーション、ドキドキわくわくを探しに出かけよう。
※アルキバンカーダはスタジアムの石段、観客席を意味するポルトガル語。

 

『シン・ノヅタこけら落とし』は記憶にとどめたい一戦だった(えのきどいちろう)[えのきど・海江田の『踊るアルキバンカーダ!』]五十八段目

 

 

■「シン・ノヅタ」こけら落としは盛り上がる展開へ

もしも僕が京都サンガかヴァンフォーレ甲府のウオッチャーだったら、J2第16節のサンガスタジアムの芝の惨状を記事にしていたと思う。あいにくDAZNの中継で見るか、ネットに上がった動画や写真を見るだけなのだ。だから手短にひと言だけ。

京都府の持ち物であることを理由に(=京都サンガは「利用者」でしかないことを理由に)サポーターの発言を封じる向きもあるようだが、あの光景を見たらサポーターは悲しいと思う。それは言い換えれば「サポーターの自尊心が傷つく」「サッカーファン、スポーツファンとして理解に苦しむ」ということだ。アスリート・ファーストを理念に掲げるはずの東京2020関連イベントの、一体どこをどう曲げれば「「ピッチ上を中継車両が何時間も周回する」にGOサインが出せるのだろう。京都新聞によればサンガ・松田天馬選手が実際のプレー面に「影響はなかった」とコメントしているが、そういう問題じゃないと思う。誰の持ち物であれ、誰の差し金であれ、あれはスポーツの現場に対して無神経だ。

が、本題はまったく別の話である。時計を2週間ほど戻したJ2第14節、町田×新潟。僕は個人的にはこの試合、「J2史に残らないかもしれないが、記憶にとどめたい」エポックメイキングな一戦だったと思っている。まず、設定が素晴らしい。開幕から無敗街道をひた走る新潟を「天空の城・野津田」に迎えての攻城/籠城戦だ。それまでサポの間でネタとして流通していた「天空の城」がいよいよゼルビア公式的に解禁された。もう、ラピュタや竹田城の専売じゃないのだ。当日、スタジアムDJ氏も「天空の城」を連発していた。

 

町田市民に配布されたチラシ

 

しかも、その「天空の城」のバックスタンドこけら落としだ。町田ゼルビアは「シン・ノヅタ」のフレーズを考案、最強武装を施した山城・新生 町田GIONスタジアムを大いに訴求した。本来スタジアムというものはバックスタンド改修や増築程度では「こけら落とし」「落成」の表現は使わないものだが、そこはゼルビアの意気込みなのだ。選手を引き連れての内覧の様子は動画でアップされ、期待感をあおる。直前には地元住民向けに「新バックスタンド・カテ3、500円」「サポーターズシート無料」(どちらも数量限定、申し込み制)の案内も出た。

先月も申し上げた(過去記事:栃木新スタで起きた騒動は心温まる展開へ)が、僕は「知~らないスタジアムを訪ねてみ~た~い」派だ。新スタジアムに目がない(だからサンガスタジアムの一件に胸を痛める)。いや、今回はバックスタンドだけとはいえ「こけら落とし」だ。気分が上がる。どんな感じだろう。改修リニューアルという点では等々力のメイン完成がパッと連想されるが、やっぱりメインスタンドとバックスタンドじゃちょっと違うかな。

懸念材料は2つ。(前の週に)延長されたばかりの緊急事態宣言、それから雨だった。町田はよく「神奈川県町田市」とジョークの種にされるが、非常に微妙な立地だ。正直、町田GIONスタジアムのスタジアム対応が神奈川県基準でなく、東京都基準なのはちょっと可哀そうに思えた。結局、ドタンバで入場制限の緩和が決まったけれど、前の週までの「東京都基準」なら無観客もやむなしだったのだ。せっかくの「シン・ノヅタ」こけら落としが無観客になりかねなかった。

 

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