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2バックはちょっと先走った……「早すぎた男」早野宏史がダジャレ抜きで語る監督論【サッカー、ときどきごはん】

 

解説者として一人スルーパスのような鋭いダジャレを繰り出し、すっかり「ダジャレの早野」として定着した早野宏史氏だが、Jリーグ黎明期にマリノスを優勝に導き、ガンバ大阪、柏レイソルでも指揮を執るなど監督として日々戦っていた時代があることをいまの若いサッカーファンはあまり知らないかもしれない。そして、監督道とダジャレ道に共通する「逃げるは恥だが役に立つ」とは真逆の哲学と覚悟があることも……。
今回はこれまで指揮したチームのエピソードをまじえながら、監督視点でサッカーについてたっぷり語ってもらった。テレビではあまり見せようとしない、深く、鋭い分析をぜひ多くの方に読んでもらいたい。

 

■かつての外国籍選手のようになってきたJ1上位の日本選手

今の時代は監督がスタッフをたくさん抱えていく時代になっていて、マネジメントの仕事がすごく多いんですよ。だからヨーロッパでは監督って「マネージャー」って言うんです。スタッフにはヘッドコーチ、アシスタントコーチ、フィジカル、メディカルなんかがいて、その中に分析班があって、ある程度チーム分析をしていくと思うんですよね。

サッカーを数値で表すとなると、「オプタ(Opta)」とかいろんなデータがあるけど、やっぱり統計学だから、そこで出た数字をどうやって自分が解釈して選手にフィードバックするかっていうことが大切で。分析だけしててもしょうがない。

僕が監督をやっていたときはそんなにデータがたくさんあるわけじゃなかったですね。特に一番最初、1993年のJリーグが開幕した年にファーム(現・サテライトチーム)を持ったときはそうでした。だから自分で数字を集めてやってました。相手チームのビデオを何試合か見て、左右のどっちのサイドが強いのか、相手の攻守の形がどうなってるのかとか。

たとえば相手チームで一番シュートを打ってる選手が一番のキーポイントと考えて、その選手が点を取っていればそこを押さえるとか、そこにボールを出すのは誰か調べて中盤の攻防のヒントにしたり、バックラインから誰が一番球出ししてるのか見つけたりしてました。

広島に柳本啓成がいたときは、柳本から久保竜彦に出るパスが多かったんですよ。だったらこのラインを切るために柳本から久保に出させなければ、勝つ確率が上がるわけです。そうやって柳本から誰か別の選手にパスを出させるようにして、広島の攻撃のリズムを崩してました。

Jリーグにはオフィシャルのスカウティングビデオがあって、それを各チーム買って相手チームのことを調べるんですよ。カメラ1台で音もない映像をずっと見るんです。そういうので見て分析しなきゃいけなかった。それを今は分析班がやってるんでしょうね。

ただ、情報がいっぱいあるのはいいんだけど、それをどうやって集約するのかが大切なんですよね。「決定率が高いチームは、ゴールできる確率が高くなるペナルティボックスに入らないとシュートを打たない」とか、そこを考えなきゃいけない。

特徴のあるチームはいいんですよ。原博実監督がやってるときのFC東京は、切り替えと縦の速いサッカーだから、スピードダウンさせておけばいいと判断できたし。でも、のらりくらりやってるチームは難しい。

訳が分からないチームもありますからね。どんな特徴なのか分かんなかったのは昔のジェフ市原(現・ジェフ千葉)でしたね。思い切ったところからシュートを打つから「それ、確率低いよな」と思ってたら入っちゃったりするし。いいときのヴェルディ川崎(現・東京ヴェルディ)も大変でした。

事前の分析ってそんなにピタリとは当たらないですよ。当たってればゲームはコントロールできるけど、当たらない試合もあったんじゃないかな。すべては多分当たらないと思います。

じゃあ当たらなかったときや、相手がやり方を変えてきたらどうするのか準備しておかなきゃいけない。その前に自分のチームがどうなのかっていうことも考えなきゃいけない。相手をいくら分析しても、自分のチームはどういう形ができるのかをマッチングさせないと、結局は意味がないから。

自分たちのサッカーをするためのトレーニングと、相手に対応するためのトレーニングの比率は、7対3……いや8対2もないかな。9対1に近い8対2ぐらいじゃないですかね。じゃないと毎試合ごとに対応トレーニングをしていく間に自分たちの伸びしろがなくなるし、選手からしてみても毎週違うことを言われても難しいから。

方向性があって、そこに向けて少しずつ進歩していく前向きなトレーニングをする中だったら選手は話を聞くけど、「これもやって」「これもやんなきゃダメだよ」って言われたら、自分を失う可能性あるから。目指しているサッカーじゃなくて、今やってるサッカーが発展してるっていう感覚があれば、いくらでも修正がきくんですよ。

ちゃんとした形ができていて自分たちが強ければ、相手への対応なんか考えずにできるはずですからね。だけど自分たちの形がないと、相手に押されてグダグダになるから対策を取ることすらもう無理ですよ。はね返せない。まず自分たちの基礎力を上げておかないと対応できない。免疫がない病気になるのと同じですよ。

ただ代表チームは好きな選手を集められるからカラーが出せますが、クラブチームは在籍してる選手によってサッカーが成り立つので、いくらロングボール作戦を取ろうと思ってもセンターフォワードが170センチだったらロジックとしては合わない。だから在籍している選手によって当然決まってくるんです。それでも僕は「アクティブ」っていう言葉をよく使いました。攻守において「アクティブに動きなさい」っていう話です。

まず自分たちが何かの形を出す。それによって相手を抑える感じにします。時間帯によっては相手を受けることもあるだろうけど、自分たちが何も形を出さなかったら受けっぱなしになるから、押し返すにはアクティブじゃなきゃいけないんです。主体性は自分たちに置いておかないと、いつも相手を分析して対応してるだけではダメで、自分たちが「アクティブにプレーする」ってことがテーマなんです。

攻撃にしても、相手が分析と違って引いたら、中央突破が得意だとしてもなかなか崩せないんですよ。そうやって相手がカウンター狙ってくるときに、トランポリンの真ん中に石を投げたらダメ。カウンター狙いのチームに対してバカみたいに中央を攻めたら思うつぼじゃないですか。センターにボールを入れたら跳ね返りはデカいけど、サイドにボールを入れたらそんなに跳ね返らないんだから、そっちを狙わなきゃ。

そうは言っても川崎フロンターレみたいに内側を攻めて、そこを締められたら外を攻めるというのはなかなかできないんですけどね。川崎はものすごくパスワークが早いし、3人目の動きが決められていて、フリーランニングも周りが見えてるからいいところに出てくる。サイドにレーンがあって、そこからポケットに入れてくるんです。

ああいうサッカーはカウンターにならないぶん、トランシジョンのときにファストブレイクをかける。そういうトレーニングをしているから、すぐボールを奪い返してまた攻撃できるし、あれだけ円熟味を持ったら相手はなかなか崩せないね。

話を元に戻すと、サッカーはサインが出てから動くようなスポーツじゃないので、選手の状況判断の能力を見極めて使うしかないですよね。あとは多分、やっぱり負けん気が強いヤツがアクティブになって流れを変えてくれる。

外国人選手ってみんな気が強いからね。特に自分が監督だったころのアルゼンチン人はみんなそうだったし。外国の選手っていうのは絶対負けたくないと思ってやってて、監督が言う前にやるから。今はJ1の上のほうの日本選手もそうなってきてますね。

「バ、あんなとこ走って……ナイスシュート」「そこ行ったのか、お前なぁ、あ……ナイス」ってことあるから。それ無茶だろうっていうときは、相手もびっくりするから成功したりするんですけど。日本人は「これやってればいいでしょう」というタイプが多くて、それを外国人監督は「素直でいいところだ」って言ってたけど、逆にそれはアクティブじゃないんですよね。

 

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