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僕が東京五輪サッカー日本代表のテストマッチに関心を持てなくなってしまった理由(えのきどいちろう)

タグマ!サッカーパック』の読者限定オリジナルコンテンツ。『アルビレックス散歩道』(新潟オフィシャルサイト)や『新潟レッツゴー!』(新潟日報)などを連載するえのきどいちろう(コラムニスト)と、東京ヴェルディの「いま」を伝えるWEBマガジン『スタンド・バイ・グリーン』を運営する海江田哲朗(フリーライター)によるボールの蹴り合い、隔週コラムだ。
現在、Jリーグは北は北海道から南は沖縄まで58クラブに拡大し、広く見渡せば面白そうなことはあちこちに転がっている。サッカーに生きる人たちのエモーション、ドキドキわくわくを探しに出かけよう。
※アルキバンカーダはスタジアムの石段、観客席を意味するポルトガル語。

 

僕が東京五輪サッカー日本代表のテストマッチに関心を持てなくなってしまった理由(えのきどいちろう)えのきど・海江田の『踊るアルキバンカーダ!』]六十段目

 

 

■いつの間にかハヒハヒできなくなってしまった

「タグマ!」はフリーハンドで書かせてくれる媒体だから、今、いちばん胸の真ん中にあって、苦しいことを正直に書こうと思う。このウェブ連載は海江田哲朗さんとリレー形式でやっていて、僕の担当回は月イチ(基本、月の上旬掲載)だ。だから今回書かないと、次回はオリンピックが始まっていることになる。

率直に言う。僕はオリンピック無理だと思うのだ。本稿執筆の6月29日の時点で実効再生産数は日本全体も、東京都も1を上回っている。コロナ禍の再拡大局面だ。しかも、感染力の強いデルタ株が入ってきた。政治家がどう言いつくろっても大会開催が医療資源を圧迫することは確実だ。僕はここで政権批判をしたいわけじゃない。無理だと思うのだ。無理なのに強行開催すればシワ寄せが来ると思う。

スマホの写真ホルダーを見ていたら、2020年1月のラグビー早明戦の写真が出てきた。去年は元日の第99回天皇杯決勝が新国立競技場のこけら落としで、いよいよオリンピックイヤーの幕開けだとみんなが無邪気に思っていた。僕はサッカー天皇杯のチケットは手に入れられなかったけど、1月11日、第56回全国大学ラグビー選手権決勝に行ったのだ。東京2020の舞台となる新国立競技場が見たかった。写真ホルダーにはコンコースだとか天井だとか、トイレの導線だとか、下見気分でキョロキョロ見てまわった跡が残っている。

まだクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス号」が横浜港に入港する前だ。新型コロナウイルスという用語は一般的ではなく、中国等でひろがっている「新型肺炎」という認識だった。たった1年前のことなのに本当に遠くに感じる。この早明戦のときだって苦々しい気持ちがないわけじゃなかった。「2020東京五輪は神宮の国立競技場を改築するがほとんど40年前の五輪施設をそのまま使うので世界一カネのかからない五輪なのです」(誘致時の東京都知事、猪瀬直樹氏のツイート)と言ってたものが3兆円を上回っているのだ。ツケは税負担の形で必ずふりかかってくる。苦々しいに決まってる。それでも今とはぜんぜん違う。呆れるほど無邪気だった。オリンピックを心待ちにしていた。

僕は基本的にスポーツ好きのお調子者だ。2019年はラグビーワールドカップを大いに楽しんだし、東京2020のプレ大会を見るために(出来たばかりの)有明体操競技場に出かけていった。本来なら開幕1か月前の段階でこんな沈んだ気持ちであっていいわけがない。たぶんハヒハヒ言いながら色んな競技の事前合宿を見物していたと思うのだ。原稿を書いて仕事にするものもあったろうが、それ以前に単にハヒハヒだったと思う。

それがハヒハヒどころかどんよりしている。正直に言うと苦しくてしかたない。森保ジャパンの五輪代表発表も普段なら配信動画にクギ付けになっていたと思うが、ぜんぜん入って来ない。テストマッチも関心が持てない。自分はどうかしちゃったんじゃないかと思う。心が冷え冷えするのだ。

僕は医療リソースに負担を強いてまで東京2020を開催する意味がわからない。極論を言えばスポーツより人命ではないかと思う。「五輪を中止すべきかどうか」という話がいつの間にか「有観客か無観客か」にすり替えられ、それもいつの間にか「有観客の上限は1万人」「その1万人とは別枠で関係者を入れる」に変わってるような全体状況の一切をすっ飛ばして、「鈴木彩艶が落選した」にはなかなかフォーカスできない。

 

■今こそ「スポーツのいちばんの原則」が問われている

だけど、「五輪反対!」を言うのもまた僕には苦しいのだ。僕はこれまでスポーツ選手やチームを応援してきた。ただ応援記事を書いてきただけじゃなく、アイスホッケーチーム「日光アイスバックス」に至っては破綻しかけたクラブにセルジオ越後(現・代表取締役)氏を引き込み、経営再建に奔走した。特にウインタースポーツはそうだけど、マイナー競技の競技環境はJリーグやプロ野球とは違う。マイナー競技の選手らにとってオリンピックの持つ意味は本当に大きいのだ。

「五輪反対!」「オリパラ反対!」を言うことは、僕にとってこれまで自分が全身全霊を傾けてきたことに「×」をつけることだ。選手らに向かってお前にオリンピックはない、お前にパラリンピックはないと言うことだ。苦しい。胸のつぶれる思いだ。自分のやって来たことは一体何だったんだろうと考えてしまう。

 

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