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【六川亨の視点】2021年12月12日第101回天皇杯準決勝 浦和レッズvsセレッソ大阪

天皇杯準決勝 浦和レッズ2(1-0)0セレッソ大阪
16:04キックオフ 埼玉スタジアム2○○2 入場者数30,933人
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サッカーに限らず、勝負事はいかにメンタルが大事なのかを再認識した。それを最も痛感しているのは浦和のリカルド・ロドリゲス監督ではないだろうか。試合後のキャプテン西川周作と、今シーズン限りでチームを去る宇賀神友弥のコメントを聞かせてあげたいくらいだった。

リーグ戦のホーム最終戦となった11月27日の清水戦は、阿部勇樹も宇賀神もベンチ入りしなかった。槙野智章だけはリザーブに入ったが、ホームのピッチに立つことなく今シーズンの試合を終えた。清水戦は気が抜けたというか、魂が抜けたようなていたらくで0-1と敗れた。

そしてリーグ最終戦、12月4日のアウェー名古屋戦こそ宇賀神は45分、槙野と阿部も10分ほど交代でプレーしたが、「時すでに遅し」である。コロナ禍でビジターチームのファン・サポーターの観戦が制限されるなか、最終戦とはいえアウェーの試合に出て何の意味があるというのだろうか。こうして迎えた天皇杯準決勝、チームは埼玉スタジアムに戻ってきた。そしてGK西川は自身の感情をコントロールすることの難しさを次のように表現した。

「この試合が始まる前、正直怖かったです。この試合に負けることがあればこのメンバーとは今日で最後になる。阿部選手、槙野選手、宇賀神選手、自分が長く一緒にプレーしてきた選手と最後になってしまうという葛藤が試合前にありました。ただ、ピッチに入ったときにファン・サポーターの姿を見て、自分が奮い立ってピッチに立てたことは本当に感謝しています」

一方、「自分のところにボールが来る前に、反対側でオフサイドっぽいシーンがあって、オフサイドディレイでオフサイドになるんじゃないかという気持ちがありました。なので、オフサイドかなという気持ちでリラックスして打てました」とはスタメンで先制点を決めた宇賀神である。「自分を契約満了にするという決断をした人たちをピッチで見返してやる。僕はそういう人間なので、今日のゴールはそれが乗り移ったんじゃないかと思います」と本音もチラリと漏らした。

しかし彼の本心は次のようなものだ。

「正直なところ、名古屋戦で自分の役割は終わったという気持ちがありました。ただ今週、練習をしていくなかで自分がスタメンで出るんじゃないかと気持ちを切り替えるのに難しい時間が何日かありました」

その理由は、チームを去ることが決まっている人間が試合に出るよりも、来シーズンも浦和に残りプレーする選手がピッチに立って戦うべきだと思ったからである。そのためロドリゲス監督に本心を伝えに行こうと思ったのは1回や2回ではなかった。そんな宇賀神の先制点を最後尾で見守った守護神は「1点目のゴールは本当に泣きそうになるくらいうれしかったです。持っているな、天皇杯男と思った」という。

かくして1週間後、天皇杯決勝戦の相手は川崎FをPK戦で下した大分に決まった。GK西川はもちろん、C大阪のキャプテン清武弘嗣も大分出身だ。古巣との対戦を決めた浦和のキャプテンは「運命かな」と思いつつ、「泣いても笑ってもあと1週間、このメンバーでサッカーができることをすごくうれしく思っています。最後は勝って笑いたいし、阿部選手にカップを掲げてもらうのを目標に頑張りたい」と決意を新たにした。

 

 

 

六川亨(ろくかわ・とおる)

東京都板橋区出身。月刊、隔週、週刊サッカーダイジェストの編集長を歴任し、W杯、EURO、南米選手権、五輪を取材。2010年にフリーとなり超ワールドサッカーでコラムを長年執筆中。「ストライカー特別講座」(東邦出版)など著書多数。

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