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「令和のイギータ」が鳥栖のサッカーを変えた。弱者のサッカーにサヨナラを…Jリーグの二大変態戦術を語る【鳥栖編/西部謙司×サッカー店長】

 

いま、北海道コンサドーレ札幌とサガン鳥栖のサッカーがエモい。やり方は違えど、Jリーグを面白くする存在としてサッカー通の耳目を集めている。一体、何がスゴイのか?

どこが魅力的なのか? またそんなビッグクラブではない2チームがJリーグで上位に入るために何が必要なのか? そして世界の中での特殊性とは?

サッカー界きっての戦術通であるジャーナリストの西部謙司氏と変態的サッカーをこよなく愛し、最近2冊の戦術本をたて続けに上梓して好評の「サッカー店長」こと龍岡歩氏に超絶マニアックにとことん語り合ってもらった。

生物の独自の進化は島のような隔絶した環境で起きやすいと言われる。世界的にも珍しい戦い方はレボリューションの舞台となるのか…。

前編を札幌、後半は鳥栖の二回に分けてお届けします。
(前編「なぜかくもエモい札幌と鳥栖のサッカーは世界でも激レアなのか?」)

 

■給料の高い選手に攻められ続けて、耐えるだけのサッカーに終止符を打った鳥栖

――温故知新な札幌に比べてサガン鳥栖は今のトレンドを押さえている印象でしょうか?

龍岡 そうですね。特殊なところは何と言ってもゴールキーパーのパク・イルギュ(朴 一圭)がDFラインに加わるところだと思います。ただ、それはチームとしてのやり方というよりも、GKのキャラクターを監督がリスペクトしてOKしているという感じではないかなと思います。
実はパク・イルギュとは藤枝MYFC(戦術ディレクター)時代に一緒にやってたんです。だから自分の持ち味を生かしてJ1の舞台で活躍しているのはすごく嬉しいですね。

――当時からビルドアップに加わることも?

龍岡 もう大好きでしたね。フィールドプレーヤーと一緒にパス練習にも入っていました。

――それは本人の志向で?

龍岡 後ろから繋ぐというチームのスタイルがあったので、GKも入れてパスコントロールの練習をやっていました。普通にフィールドプレーヤーの一人みたいな形で何の違和感もなく、彼自身も楽しそうにやっていました。

――元々、足元が上手かったのか、それとも藤枝でよりそういう資質が開花していったのか?

龍岡 両面あると思います。元々ビルドアップにストレスを感じないGKで、なおかつそれをやっていいよというゲームスタイルをとっていたので伸びていったのかなと思います。まあ、当時の監督には怒られたりはしていましたけど。

――どういったことで?

龍岡 相手のロングボールに対してキャッチングできる時でもあえて胸トラップしたりしてたので。

――やりすぎだと?

龍岡 やってましたね。止める技術には自信を持ってる選手でした。

――なるほど。

龍岡 見てる側としてはヒヤヒヤしたことが何度もありましたけどね…。でもそうやって自分のスタイルを昇華させて、活躍しているのは本当に嬉しく思いますね。

――その鳥栖のサッカーについては。

龍岡 鳥栖に関しては、攻撃やポジショニングとかはオーソドックスで、いわゆる正統派のポジショナルプレーだと思いますね。ただ、これはポジショナルプレーとかポゼッションサッカーの宿命なのですが、失点は減るけど得点も増えない。むしろ得点も減るみたいなところがありますね。

――得点も減るんですか。

龍岡 結局、鳥栖の攻撃の形だと後ろからつないでいくので相手の守備が固まった状態から崩さなきゃいけないシーンが多くなる。ポジショナルプレーをやるチームが最初にぶつかる壁と言えるかもしれません。

――あるあるですね。

龍岡 昨年も失点は1試合1失点を切っていて(38試合で35失点)、リーグの中でも3位だったと思うんですけど、得点はそこまで多分取れていない(43得点)。

――確かに。

龍岡 ペナルティエリアへの侵入数もリーグ全体で10位だったりするので、ファイナルサードまでは運べるチームなんですけど、そこからどう崩すかっていう問題がある。自分たちがボール持つことで守備機会は減らしてるので失点も減っていますが。

――ポゼッションだけでなく、ポジショナルプレーでもそういう傾向があると。

龍岡 シティクラスだとペップの頭脳とお金で選手を獲ってくるという力技で壁を突破できるんですけど、普通のチームはだいたい壁にぶち当たります。

 

■主力がごっそり抜けても鳥栖が驚きのクオリティを維持できる理由

――西部さんは鳥栖についてどう思いますか?

西部 去年と今年とはかなり選手が代わってしまったけど、クオリティはそんなに落ちてない。チームとしての方向性もそれほど変わってないっていうのはまず一つ驚きではありました。

――昨季の主力がごっそり抜けたにもかかわらず。

 

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