J論プレミアム

拝啓、森保一様。余計なお世話かもしれませんが、W杯でのスペインとドイツの倒し方お教えします

 

拝啓、森保一様

突然、このような手紙をしたためたご無礼をお許しください。しかしながら、グループEの大本命とされるドイツ、スペインにも確実に穴は存在します。問題は日本がそれに気づき、徹底して突いていけるかどうかです。さすがに日本を代表するチームなので、スタッフの方も含め重々承知かと思いますが、万が一ということもありますので僭越ながら記事という体裁で前編・後編にまとめさせていただきました。

前編はスペインとドイツの弱点と日本が準備すべき攻略法について、後編は貴殿の指揮継続の是非を含めた日本代表の停滞と改善の方法について、スペイン在住のジャーナリスト・木村浩嗣氏、ドイツ在住の指導者・中野吉之伴氏、サッカーライターの西部謙司氏の3名に忖度なしで議論していただきました。本大会での日本の良い結果を願う気持ちは同じです。どうかご高覧いただければ幸いです。

敬具

→後編「ブラジル戦では惨敗を。そして「このままではダメだ」と気づいてください

 

▼構造的な欠陥を抱えたままの日本代表

――日本代表が11月のワールドカップ・カタール大会でドイツ、スペインに勝つにはどうすれば良いかというテーマで論じられればとは思います。スペイン代表の事情は木村浩嗣さん、ドイツ代表の事情は中野吉之伴さん中心に、西部謙司さんには日本代表を中心にお聞きします。まず大本命視されるドイツ、スペインですけど日本に勝機はないでしょうか?

西部謙司:ワールドカップに出てくる32チームの差は勝敗が絶対に決まってるっていうほどのものではない。サッカーですから、勝つ可能性は常にある。
中野吉之伴:あるといえばある。
西部:実力差はもうご存知の通りだと思う。

――勝敗のポイントになりそうなところはどういうところになりますか?

西部:対策をしっかり立てることに尽きますね。
木村浩嗣:そうですね。
西部:ドイツやスペインと何も考えないで普通にやったら負けます。
木村:そうそう。
西部:だから、ドイツとやった時にはどういう試合をする。スペインとやった時にはどういう試合をする。相手をまずしっかり分析して、しっかりプランを立てて準備をする。自分たちのやるべきことをやって結果を待つというか…。それでも勝てないことはあるでしょう。
木村:それで勝てることもあるかもしれない。
西部:とにかく、何も考えないでやってはいけないということです。

――さすがに何も考えないことはないと思うのですが……。

西部:しっかり考える(笑)。

――しっかり。

西部:それで、しっかり準備をする。

――こうなってしまうと日本は厳しいというのはありますか?

西部:基本的には全部厳しい。まず1対1のところで、そもそも厳しい。

――基本のところですね。

西部:しかもチームのフレームというか、構造的な問題もあるので、そこもしっかりやらなきゃいけない。日本人は、対策を立てるのはできるはずなんだけど、森保さんのチームはそこがちょっと弱いんだよね。

――準備の部分ですか?

西部:実はね。特に咄嗟の時に対応できない。それにドイツ、スペインって言ってるけど、問題はもう1チームだと思う。

――プレーオフの枠で入ってくるチームですか。

西部:コスタリカが来るかニュージーランドが来るかで全くタイプは違うんだけど、ここには勝たなきゃいけないっていう計算になっちゃうと思うんですよ。ところが、日本は相手に対して点を取って勝つってことが一番できてない。

――なるほど。

西部:だからそこがまず、結構問題になっちゃうかなっていう気はします。ドイツとスペインに関しては、割とやることは決まってくるだろうし。胸を借りるつもりで行けばいいとは思うんですが。もう1チームに対して本当に勝ち切れるの? っていう疑問はありますね。
2引き分け、3引き分けでは難しいでしょうから。ここはやっぱり3ポイント取らなきゃいけないでしょう、ベスト16を狙うのであれば。むしろ、ドイツ、スペイン相手に勝ち点1を取るのと、コスタリカ、ニュージーランドに勝ち点3を取るのと、どっちが難しいかっていうと、そんなに変わらないかもしれないよ、という話です。

 

▼ドイツもスペインも日本を過少評価する可能性はゼロ…。いますぐ森保監督に伝えたい、スペインとドイツの攻略法

――そこが落とし穴になるかもということですかね。では木村さん、スペインの状況はどうでしょうか。

木村:スペイン代表は変化をつけるようなことは全くしないんですね。メンバー的にも、フォーメーション的にも、采配的にも。だから、スペインがこうやってくるっていうのは完全に予測がつくので日本代表からするとやりやすい。どうすればスペインを苦戦させられるかというのも、過去の試合を見れば、はっきりわかる。それが3つか4つぐらいあるわけですけど、そこのポイントをきっちり押さえていけば、スペインは苦戦する。

――対策は立てやすい。

木村:スペインが苦戦するところまでは持っていける。それで例えば65分ぐらいまで0-0でいければ、スペインも焦るだろうし、引き分けに持ち込めたり、勝ったりするチャンスも出てくるんじゃないかと。

――日本に対するスペインの印象はどうでしょう?

木村:組み合わせが決まった時に、スペインはもうドイツと自分たちが抜けるっていう風に確信してるわけです。なぜかというと、日本のことをほぼ知らないから。東京オリンピックを見た人は、日本はハードワークするチームで、もしかすると体力的に押されるかもしれない、みたいな懸念は持ってるわけですけど、ドイツの次に日本の名前が出た時には、かなり安堵した空気になっていた。スペイン人の考え方からだと、日本で良かったとまでは言いませんけど、まあ文句は言えないという感じだと思います。

――となると、日本をナメきってしまう可能性も?

木村:いや、それは全くありえないですね。今のサッカーで相手をナメるなんてことはありえなくて、当然テクニカルスタッフは分析するでしょう。きっちり勝てるように、万が一でもサプライズ起こされないような分析はしますよね。ただメディアとかファンっていうのは、そんなレベルにないですから。ほぼ日本のことを知らない。

――そこまで日本のことは知られてない。

木村:久保(建英)ぐらいですから。日本代表の試合が見れない環境でもあるので、メディアの人もほとんど見れてない。そうするとやっぱりメディアには楽観論が出てくる。

――そこに一縷の望みを託したかったんですけど、現場レベルではそういう油断というのはないということですね。

木村:ゼロです。プロなんでそれはありえないです(笑)。

――さきほど仰ったスペインが苦戦する4つのポイントは何でしょうか?

木村:まず、スペインにゴールキーパー(GK)からボール出しをさせちゃいけない。

――GKからのビルドアップ。

木村:別に奪いに行かなくていいから、きちんとスペインのセンターバック(CB)なりサイドバック(SB)のところに日本の選手を配置してGKから楽にボールを出させないことは非常に大事です。ここに出されると数的優位を作られて最後まで行かれちゃいますので。ここが第1。第2が、ファウルでも止められるところは止めると。

――ファウルで、ですか。

木村:これも非常に大事。GKからボール出しをされてしまった場合は、なるべくファウルしてでも次のプレーで止めるようにする。一度中盤で回されてしまうと厄介なので、とにかく前に運ばせないことです。スペインはファウルされても長いボールを蹴ってくることはほとんどないので、中盤につないでくるところを狙い目にしてさらに妨害していく。
第三のポイントは、これもボール出しに関連してきますけれども、ブスケッツをきちんとマークする。ブスケッツがボール出しの起点になるので。ここを、誰かが必ず止める。

――そうすればかなりビルドアップは制限できそうです。

木村:スペインってボールをロストした後にプレスをかけてくるわけですけども、そのプレスが空振りした場合にスペインは後退しなきゃいけなくなるわけですよね。で、後退すると非常に弱い。後ろのディフェンダーに強い選手がいないから。特にCBで1対1に強いのはラポルテぐらいかな。それ以外の選手って割と1対1に弱いので、そこにボールが入れば日本代表はちゃんと攻められる。

――チャンスが作れる。

木村:日本代表が攻撃するときはFW1人はある程度ロングボールを受けられる選手がいいですね。相手のゴールに背中を向けてもボールキープできるような背の高い選手が1人いて、セカンドトップなのかトップなのか、その周りを動く選手が2人か3人の関係でフィニッシュまで持ってくるようなチームにスペインはだいたい苦労している。相手がアルバニアであれどこであれ。
日本はどのくらいボールロストした後にプレスするかわからないですけど、簡単には下がらないでプレスをかけ続けることが大事。ファーストプレス、セカンドプレスぐらいまでは必ず行くぐらいの気持ちじゃないと、下がりきってしまってボールもスペースも支配されると日本は苦しいし、そういうチームは大体スペインに負けてしまいますね。

――引いてしまうよりは、前から頑張って行った方がいいってことですね。

木村:スペインメディアから、日本はすごく体力的に評価されています。体力的には日本の方が上じゃないかと。まあオリンピックとか見たら確かに後半は日本の方が良かったので。そう考えるとあんまり体力温存みたいなことは考えないで、ある程度プレスは前からかけていく。簡単には下がらない、みたいなことが大事だと思います。

――他にスペイン対策で有効な手立てはありますでしょうか?

木村:ジョルディ・アルバを狙う。左SBですけど、そこに体の強いFWを当てるというのは必ずやった方がいい。

――狙いどころということですね。

木村:ジョルディ・アルバは守備が弱いですから、日本はフィジカル的な優位を使って狙うべきですね。ジョルディ・アルバは上がるのでそこの裏も狙い目であるけれど、そこはスペインは百も承知で保険として右SBはほとんど上がらず、CB2枚と合わせて3人を残す。つまり、かなりの時間帯で右SBを3番目のCBのように配置して守る。その代わり右のウイングは順足で前に抜けられるタイプ、左のウイングは逆足でジョルディ・アルバが背中を追い越していくというような攻守のパターンが決まっている。その辺のメカニズムもきちんと研究した上で狙っていけば面白い。
何試合か見るだけでスペインがやることは本当にクリアだとわかると思うので、それに対してどうするかというのが非常に大事ですね。

 

 

▼ドイツは容赦しない。日本相手に最初からフルスロットルでボコりに来る理由

――西部さんは今のスペイン対策を聞いてどうですか?

西部:まとめて森保さんに提出した方がいいんじゃないですか。

――(笑)。

木村:スペインに勝てるかどうかは別にして、対策はしやすいと思いますね。
西部:やってることがもうずっと同じなんで。
木村:全くそうです。だからむしろ、ドイツなんかは対策難しいんじゃないですかね。
西部:ドイツはバイエルン(ミュンヘン)見てればいいんじゃないですか?
木村:バイエルンのサッカーだったら対策のしようがなかなかないですよ。
西部:いや、でもビジャ・レアルが(CL準々決勝でバイエルンを撃破)。

――ビジャ・レアルによる攻略法が参考になると。

木村:いや、スペインはドイツに対する対策は多分できると思うんですけど、バイエルンのサッカーを日本が止めるのは相当難しい。
中野:今、ドイツって逆なんですよ。今までは、バイエルンのサッカーがドイツ代表のベースになっていたけど、今季に関しては、バイエルンのサッカーよりもドイツ代表のサッカーが良くて、バイエルンでは機能してないことが、ドイツ代表では機能するっていう流れになっている。

――何故ですか?

 

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