J論プレミアム

ラジオサッカー中継の素晴らしさを伝えたい(えのきどいちろう)

タグマ!サッカーパック』の読者限定オリジナルコンテンツ。『アルビレックス散歩道』(新潟オフィシャルサイト)や『新潟レッツゴー!』(新潟日報)などを連載するえのきどいちろう(コラムニスト)と、東京ヴェルディの「いま」を伝えるWEBマガジン『スタンド・バイ・グリーン』を運営する海江田哲朗(フリーライター)によるボールの蹴り合い、隔週コラムだ。
現在、Jリーグは北は北海道から南は沖縄まで58クラブに拡大し、広く見渡せば面白そうなことはあちこちに転がっている。サッカーに生きる人たちのエモーション、ドキドキわくわくを探しに出かけよう。
※アルキバンカーダはスタジアムの石段、観客席を意味するポルトガル語。

 

ラジオサッカー中継の素晴らしさを伝えたい(えのきどいちろう)えのきど・海江田の『踊るアルキバンカーダ!』]八十六段目

 

7月2日、群馬-新潟戦の正田醤油スタジアム群馬

 

■敗戦後の気分転換で良い出会いあり

J2第29節、長崎‐新潟は2対2のドローに終わった。連敗しないで済んだけれど、失点のシーンがいかにももったいない。僕は自宅でDAZN観戦だったからちょっと気持ちのやり場に困った。スタジアムなら試合後の選手に拍手を送ったり、ピッチを去るまで見つめたりできる。余韻がある。サポーターと気分をシェアできる。自宅だと何もできないのだ。冷蔵庫を開けても何もない。

それが発端だった。

その夜、僕はもうひと試合、J2のゲームを追体験することになる。

7月の最終土曜日だから僕のような東京下町の人間にとっては隅田川花火の週末だった。が、100万人の人出でごった返す隅田川花火はコロナ禍で3年連続中止になっている。下町の経済的損失も巨大なものだが、それ以上に寂しいのだ。僕は長崎戦ドローの気分を変えるべく、ウォーキングに出ることにした。本来なら花火の余韻で街がまだざわざわしてる頃合いだ。それがその日はひっそり静まり返り、ひと気がないのだった。

7月の終わり。隅田川べりの遊歩道。僕はスマホに入れたラジオアプリ「radiko」でウォーキングの相棒を探す。いつもは「お気に入り」に並んだ番組から選んでいる。その日は何かサッカーのラジオがないかなと思った。もうちょっと余韻がほしいのだ。僕と今夜、サッカーの話をしてくれるような番組はないだろうか。

そうしたら偶然、FM群馬が「Jリーグライブ エキサイティングザスパ」を組んでいるのを発見、うおお、これだこれだエキサイティングザスパだと盛り上がった。読者の皆さんはご存知だろうか。今、もっともホットでエキサイティングなザスパ(?)を放送しているFM群馬のがんばりを。野に咲く一輪の花のような「エキサイティングザスパ」の好ましさを。

そもそも「エキサイティングザスパ」だ。和訳すると「興奮する温泉」。いや、和訳はやめよう。ザスパは僕らサッカーファンの間では温泉ではなく、大槻組長が監督を務める北関東の雄だ。熱いチームだ。僕は10年以上前になるけれど、まだ名称が「ザスパ草津」だった頃、中の人に頼まれて、新宿でザスパ初の東京開催イベント(小島伸幸氏とトークショー等々)をやったりした。クラブスポンサーの「和豚もちぶた」の社長(当時)のお宅にセルジオ越後さんとお邪魔したこともある。なんとなくご縁がある。

僕はradikoのタイムフリー機能を使って、19時開始のFM群馬「エキサイティングザスパ」を聴取した。夜の隅田川遊歩道におなじみ笹川裕昭アナウンサーの声が響き渡る。花火のないひっそりした隅田川は「空想上の正田スタ」に早変わりだ。ザスパは前節山形戦の勝利で降格圏を抜け出したが、依然きびしい闘いが続いている。対する甲府はコロナ禍で練習もままならない苦境にある。ウォーキングしながら、次第にJ2中位下位の苦闘で頭がいっぱいになる。解説は現・上武大学サッカー部監督の植木繁晴さん。ザスパの苦闘を知り抜いた方だ。植木さんはトークが面白いからラジオ中継の解説者としてまさにベストの人選。

 

■ラジオサッカー中継ならではの特性とは

読者のなかにはラジオのサッカー中継は聞いたことないという方もおられよう。キー局ならばニッポン放送が長くサッカー中継を続けている。日本代表のアウェー・オーストラリア戦の地上波中継が見送られたとき、非・DAZN加入のサッカーファンの間で重宝がられたのは記憶に新しい。関東ではごく稀にCRT栃木放送が栃木SCの試合をラジオ中継する。アルビはFM‐PORTが停波になって以来、パッタリなくなってしまった。

「絵がなくて試合の状況がわかるの?」と皆、心配するのだ。確かに試合の細部は映像を見ないとわからない。が、別のことはテレビ中継よりずっと伝わる。それはサッカー場にいる臨場感であり、気分だ。チームへの親近感、応援の熱はラジオがいちばんダイレクトに伝えてくれる。

FM群馬「エキサイティングザスパ」中継は基本的にザスパのことしか言わない。甲府の選手名が放送に乗るのは基本、得点者のみ。そのほかのことは「甲府は」「甲府の攻撃は」と主語甲府で語られる。そこは見切っているのだ。その代わり、ザスパについては微に入り細を穿つ。前半は新加入の鈴木国友の様子が変だ、交代かまだ交代じゃないか、大丈夫か。やっぱり交代か、悔しいだろう、プレーしたいだろうと、そればっかりだった。僕も(隅田川ウォーキングしながら)加入早々スタメン出場し、途中交代を余儀なくされた鈴木国友を心配し通しだ。絶対、DAZNで見ているときより気持ちが入ってしまう。

 

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