WE Love 女子サッカーマガジン

WEリーグのその先に「女子サッカーの街」の未来を想う

大和市をご存知でしょうか。神奈川県の中央部に位置する人口約23万人の都市です。南西部は広大な敷地を有する厚木基地が占めています。戦前から基地と共に歩んできた地域です。大和市は大和市スポーツ推進計画に基づいて「大和市女子サッカー支援事業」を展開。大和なでしこスタジアムを本拠に大和シルフィード(プレナスなでしこリーグ2部)が活動しています。実は筆者は神奈川県立大和高校出身。小田急江ノ島線で3年間、大和市に通いました。そんなこともあり、全国的には、それほど知られていない大和シルフィードの試合を頻繁に観戦してきました。大和シルフィードは気になるチームです。この地域で女子サッカーに関係する人にとって大和シルフィードの存在は大きく、例えば、私の母校では中学生時代に大和シルフィードでプレーしていた生徒が入学したことをきっかけに「和高(大和高校)で女子もサッカーをプレーしたい」という声が上がり女子サッカー部が設立されました。伝統的に女子の人数が多い高校だったので、サッカーの男女平等が実現しました。

大和市役所と大和市駅前にはモニュメントがある

J3・Y.S.C.C.横浜のスタジアムDJでもあり、大和市にあるFMやまとのSTAND UP SUNDAY(日曜9時〜)でパーソナリティを務める折原亘さん( @wataru_soccer22 )は声の仕事をする傍で年間500試合以上もサッカー中継を見ているサッカーマニア。STAND UP SUNDAY はスポーツ情報を中心にした番組で大和シルフィードの選手をゲストに招く等、女子サッカーの最新情報をお届けしています。

大和シルフィードと番組で関わる折原亘さんから見た大和市の女子サッカーは?

折原–徐々に大和シルフィードも認知度が上がってきています。大和シルフィードのホームスタジアム(大和なでしこスタジアム)に行くと、収容人数がそんなに多くない(スタンドはメインスタンドのみ約3,000人)ということもあるのですがお客さんが入っている感じになるので、そこは良いと思います。でも、もっとスタジアムは大きくしてほしいですね。僕の番組のリスナーさんがメールを送ってくれたり、選手が番組で質問に答えてくれたりすることで、女子サッカーへの関心が上がってくれればという想いはあります。まず「女子サッカーリーグがある」ということを知らない人が多いですね。なでしこジャパンは知っているけれど「なでしこリーグって何?」という人が多いと思います。大和市は「女子サッカーの街」と言っていますし、川澄奈穂美選手とか上尾野辺めぐみ選手とか、素晴らしい選手を輩出しているのですけれどまだまだです。

大和なでしこスタジアム

–そのお2人は有名ですが筏井りさ選手とか杉田亜未選手とか、ほかにも素晴らしい選手がいらっしゃいますね。私は大和なでしこスタジアムのスタンドに女性が少ないイメージを持っているのですがいかがですか?

折原–少ないですね。同性のファンは重要です。ファンの絶対数が多くないので、迷惑をかけるカメラ小僧とかセクハラ紛いなことをするファンが目立ってしまうのはよくないですね。新しいお客さんを取り入れるために大和シルフィードは広報活動に力を入れているのですが・・・。

–大和シルフィードが大和市民に、もっと浸透していくには何が必要でしょう?

折原–このままなでしこリーグ1部(もしくはWEリーグ)に昇格しても、今ひとつの感じがします。代表選手を輩出するとか・・・あとは大和市出身の有名選手、例えば川澄選手を獲得するとか。僕の、こんな声が川澄選手に届けば良いのですが。

–同じく大和市にゆかりの大野忍選手に加入してほしかったですね。

折原–そうですね。ノジマステラ神奈川相模原に行かれて、昨シーズンで引退されてしまいました。あとはスタジアムを何とかしてほしいです。プロ化を見据えて(WEリーグの集客目標は5,000人)もう少し大きなスタジアムにしてほしいです。
※大和市内では、藤沢市に近い善行駅前にある神奈川県立スポーツセンター陸上競技場は約5,200人収容とされていますが大和なでしこスタジアムと同様に大半が芝生席です。

大和ゆとりの森大規模多目的スポーツ広場は人工芝ピッチでメインスタンドに約300人収容

WEリーグの選手にはロールモデルになってほしい

ニューヨーク州立大学ブロックポート校出身の折原さんらしい視点も。

折原–WEリーグは成功しなければならないですね。成功してワールドカップ優勝に繋がるのが一番。ただWEリーグ成功のイメージはまだ湧かないです。僕の理想は米国女子サッカーのようになることです。例えば、なでしこリーグでは試合後に選手のサイン会を行なっていますが、プロ化で(ファン交流が)なくなったりするのは嫌かな。良いところは残しつつやっていった方が成功するかなと思います。

米国の女子サッカーは選手がロールモデル(将来目指したい人物)として成り立っていると思うのです、成功者を目標に選手たちが頑張るという好循環がある。米国の文化でもあると思うのですが(ロールモデルの一つの表現として)ビジュアルがあると思います。Jリーグのファンになる人は「あの選手が格好いい」を入口にクラブのファンになっていく流れがあって、それは批判されないと思うのです。米国の女子サッカーだとアレックス・モーガン選手は美女ですしスタイルもカッコイイ。それがファンを惹きつけても良いと思うのです。ところが、日本の女子サッカーだと「あの選手可愛い」から入って応援したいと言うと批判されがちです。その批判を取り払えば、もっとファンは増える気がします。そして、米国の女子サッカーは女性のファンが多いです。(一つの要因として)女子のプレー人口が多いですね。大学でも体育会レベル、サークルレベル、準体育会レベルでそれぞれチームがあったりします。
※FOOTBALL BIG COUNTによると米国の女子プレーヤーやは約156万人。日本サッカー協会登録女子選手数は約4万人。

–大和シルフィードについて こうなってほしいなという希望はありますか?

折原–神奈川県を代表するチームになってほしい、神奈川県の女子サッカーを牽引するチームになってほしいという夢があります。もしWEリーグに参入したらJリーグでいう「オリジナル10」みたいになるわけじゃないですか。例えば、スペインのアスレチックビルバオ(バスク地方にゆかりのある選手でチームを構成している)みたいに、大和出身の選手だけ集めるとか、世間が驚くような特別なこともやってほしいです。

–その場合は大和市民的には綾瀬市出身は許されないですか?

折原–イイんじゃないですか、綾瀬市出身も(笑)。大和市近辺ですから。大和市だけではなくて大和市周辺の選手を集めてくれるだけでも十分です。大和市には特徴がないし特別なものがないです、ラーメン屋が多いとは言いますが。大和シルフィードを中心にして、大和市民も健康づくりに活用できるスタジアムやスポーツ施設が整備されると良いと思います。

大和市内で働く3名に女子サッカーについて質問してみました

「実際にスタジアムに訪れたことはありませんが、ホーム試合開催前に選手やスタッフの皆さんが駅前で試合開催の告知をされているのをよく見かけます!」という浜野崇広さん。「活動は街中で目にすること、耳にする事、応援されて居る方のお話を伺う事も有りますし、スタジアムで以前、食品の販売をしていた方のお話も聞いています。しかしながら試合結果や今の大和シルフィードの状況などは追えていないですし、調べようとした時は情報があまり出て来ないというのが、僕の感じる部分です。」という金田博史さん。お二人はFMやまとのスタジオのすぐ近くでOsteria e Bar ELBAという、この地域ではずば抜けて美味しいイタリアンを経営されています。

サッカー馬鹿を自認し「ガナーズ・ヘアードレッシング」を経営する勝村大輔さんには、大和市の女子サッカーは少し違って見えるようです。「そこら中にサッカー少女が歩いていますね。女子サッカーのプロ化については、W杯招致を諦めた今、開幕への熱量が不安です。それでも前向きなチャレンジだと思います。女子サッカーがエンターテイメントとして世の中に受け入れられるかどうかが成功の鍵ではないでしょうか。」

「健康都市やまと」宣言を牽引する女子プロサッカークラブになれるのではないか

特徴がないと言われる大和市ですが、2018年に「70歳代を高齢者と言わない都市」宣言を行い、行政や医療の世界では注目を集めています。それに先立ち2009年に「健康都市やまと」宣言を行い、健康寿命を延ばすためのさまざまな施策を実施してきました。大和市のこの取り組みを具体的に示す象徴として女子プロサッカークラブが大いに役立つのではないかと考えられます。大和シルフィードが地域で何を目指していくのか、これからも目を離せません。

(インタビュー 2020年6月23日 石井和裕)

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