WE Love 女子サッカーマガジン

異色のクラブ・FCふじざくらはコンセプトを崩さずにWEリーグ入りすることができるか!?

FCふじざくらは、女性アスリートの新しいロールモデルとして、サッカーでも社会人としても活躍できる『プレイングワーカー』を輩出するクラブを目指します。」

2019年に山梨県女子サッカーリーグ2部からスタート。今シーズンは山梨県女子サッカーリーグ1部のFCふじざくらのウェブサイトには謎めいた「プレイングワーカー」というカタカナが使われています。いくつかの記事で説明が掲載されていましたが、どれも、私にはしっくりこない。理解するには、自分で納得のいく記事を書いてみるしか方法はない!と思い、私はFCふじざくらにコンタクトを取りました。

FCふじざくらを理解するための重要人物、GM補佐の五十嵐雅彦さんとキャプテンの工藤麻未選手にお話を聞きました。工藤麻未選手は、菅野監督の元、ノジマステラ神奈川相模原で4年間プレーし引退を表明。その後、FCふじざくらの監督に就任した菅野監督を追うようにしてFCふじざくらに加入しキャプテンを務めています。五十嵐雅彦さんは中田英寿さんのマネジメントで知られ戦略的なPRや社会課題をコミュニケーションで解決する企業であるサニーサイドアップのご出身です。

提供:FCふじざくら

—FCふじざくらのサイトを拝見したのですが、そうそうたるパートナー企業が並んでいますね。

五十嵐–そうですね、なでしこクラブの上位と遜色ないくらいのパートナー数で支援をいただいています。

—大胆なグラフィクデザインにも驚きました。

五十嵐–クリエイティブのメンバーも外から協力を仰いでサッカー界にはないクリエイティブシーンを作って行こうと考えてきました。このロゴが好きであればそれを入口として女子サッカーのファンになってもらうという設計をしています。

提供:FCふじざくら

「プレイングワーカー」とは何者なのか?

五十嵐–ネクストキャリアに困らない選手の輩出を目指しています。「セカンドキャリア」という表現はスポーツ界だけであって(一般的には)死語であると僕らは思っています。今の時代は転職・就職を繰り返してキャリア形成していくのが(社会では)主流ですがどうしてもスポーツシーンにおいてはアスリートという時期を終えるとまた別のジャンルという形で「セカンドキャリア」というものが生まれてくると思います。僕たちは「プレイングワーカー」・・・つまりプレーヤーとワーカーのどちらも一流を目指していくことによって引退した後にキャリアに困らない選択肢を持てる選手をどんどん育てていきたいという思いがあります。こうしたクラブが女子サッカー界に1つあるだけでも女子サッカー界が変わるのではないかと考えました。

多くの選手は働きながらサッカーをしています。本来は仕事で得られるものがあるべきなのですが「サッカーのための仕事」になっているので、マインドが「仕事で成果を挙げる」というところに達していない。私は、仕事と向き合いながら成果を出すということで、引退した後のキャリア形成につながると思っているので、仕事とサッカーとの向き合い方をしっかりしていくのが、ウチのクラブのポイントだと思っています。

FCふじざくらでは、例えば「プレイングワーカー」が自らパートナー企業とアクティベーションをやっています。セルバ・おかじま様とのコラボ弁当では1,000食以上の販売数を達成しました。

工藤–選手が自分で企画書を作って提案しています。これまでは、一緒に商品を試作したり、自分からメール連絡したり、打ち合わせに訪問したりすることはなかったので大きな経験ですし楽しいです。

提供:FCふじざくら

提供:FCふじざくら

仕事とは別に行なっている「オフ・ザ・ピッチ・ミーティング」

五十嵐–「オフ・ザ・ピッチ・ミーティング」はチーム単位で毎月1回程度の実施をしています。女子選手は「オフ・ザ・ピッチ」でのアスリートとしての過ごし方を高めていかないといけません。Jリーガー、プロ野球選手と女子サッカー選手は圧倒的に違うので、自らファンを作っていかないといけない。興味を持ってもらったり、社会人としての資質、素質といったことを高めていくことによって、より応援される人間になっていくということを学ぶ場です。(学んだ結果を)選手自身がアウトプットしていくために実施しています。 

工藤–「オン・ザ・ピッチ」でやるべきことは選手だからわかりきっているじゃないですか。「オフ・ザ・ピッチ・ミーティング」という勉強会を開いてくれて、サッカー選手として、今、何を「オフ・ザ・ピッチ」でやらないといけないのかな?どういうマインドでいないといけないのかな?社会人としてどうするべきなのかな?というところを教えてもらうことで「今、私は、こういうことをしなければならないんだな」ということを気づかせてもらいました。そこでSNSの発信の必要性も感じたし・・・(今までは)「自分なんかが」なんて思っていたし、試合に出ていないときにSNSなんかやると「調子に乗っているだろ」とか思われると思っていたし・・・でも試合に出ている、出ていないにかかわらず発信していくことに意味があると教えてもらって、(今は)「主体性」を持って発信できるようになっています。

工藤–いろいろな仕事をさせてもらって、営業に訪問させてもらって企業のアクティベーション開発に関わらせていただいて、自分が何に興味を持ち、何をやると楽しいのかを仕事をすることで見つけることができたので。セカンドキャリアの不安はなくなってきたと思います。

—練習も含めた「オン・ザ・ピッチ」でプレーヤーとして学んでいく「オフ・ザ・ピッチ・ミーティング」で仕事のあり方及びピッチ外でのファンを育てていく方法を学び、さらに「職場で仕事を学ぶ」3つがあるわけですか。

五十嵐–そうです。この3つの相乗効果です。工藤から「主体性」という言葉があったように「オフ・ザ・ピッチ」で主体性をもった活動をできれば、今度は「オン・ザ・ピッチ」で、どのように主体的にできるのか、例えば、試合中には監督がピッチ上にはいない状況の中で主体性を求められるのがサッカーという競技だと思うのでプレーにも繋がってくると思います。最近は菅野監督からも「主体性」という言葉が強く出るようになっています。僕自身、スポーツマネジメントの仕事を10年くらいしてきて、アスリートのキャリアの問題、社会課題を感じてきたので、クラブを作る段階で、こうした社会課題を解決するプログラムを作っていきたいと思っていました。僕の強い想いが、このクラブには落とし込まれています。

—山梨県で、この取り組みをするのはチャレンジですね。

五十嵐–スポンサ―様は大変ありがたいことに今シーズンは190社を超えています。「おらがまちのクラブを支えよう」という想いを持った企業がたくさんいらっしゃることだともいます。また、この場所でチャレンジできた理由として、ヴァンフォーレ甲府様の存在も大きく、スポンサーが重複する企業様がいくつかあります。(この地域に)スポーツへの理解が進んでいることによって、生まれた形かもしれません。

女子サッカーのビジネスはいかにスポンサービジネスをしっかりやっていくかが重要になってくるので、その点で、有利な環境の地域でした。そして何より、トップパートナーである富士観光開発株式会社様が60年間もこの地で事業を展開して来られたということが最大の強みであり、こうしたチャレンジをできた理由です。

数値目標を持ったチームがプロクラブになるべき

五十嵐–もちろんトップリーグで闘いたいという目標・・・そして、10年スパンではアジアでナンバーワンのクラブを目指したいです。山梨県はアジアからの観光客がとても多い地域なのでマーケットとして魅力があります。ウチには台湾(チャイニーズ・タイペイ)女子代表の正GKMINOという選手がいます。アジアにファンを作ろうという考えも持っています。なでしこリーグ、WEリーグを目指すのは通過点であって、最終的にはアジアNo.1のクラブを目指します。

—工藤さんの目標は?

工藤–35歳くらいまではやりたいです、菅野さんが監督をしている間はやり続けたいです。菅野さんに走らされるのはきついですけれど(笑)。

—WEリーグが始まります。プロリーグが始まる日本の女子サッカーにおける「プレイングワーカー」を輩出するFCふじざくらのポジションはどのようになっていくのでしょうか?

五十嵐–プロクラブって何なのか?自分たちでお金を稼いでクラブ経営していくのがプロクラブであり、スポンサー収入とチケット収入で売り上げを作っていくクラブがプロクラブだと僕は思っていています。昨年、チャレンジリーグ入れ替え戦のホームゲームで500人以上の方が来てくださった。地域に密着してファンを作っていって、今年(コロナ問題がなく)試合が行われれば、その数字はクラブとして超えなくてはいけない数字です。トップリーグを目指すクラブとして、現在クラブで行っている地域に密着してコミュニティを拡げていく活動を継続的に続けていくことで、今シーズンを象徴するような試合においては1試合平均1,300(プレナスなでしこリーグ1部リーグの平均客数)の達成は難しくないと思っています。むしろ、プロスポーツビジネスをしていく上で、そこを絶対的に意識してチャレンジしていかなくてはならない。そういった具体的な数値目標を持ったチームがプロクラブになるべきだと思います。(なでしこリーグ、チャレンジリーグ、山梨県リーグ)どういったカテゴリーであろうと、FCふじざくらは設定する集客目標達成を目指すクラブになります。

提供:FCふじざくら

「プレイングワーカー」とWEリーグのビジョンは相容れるのか?

五十嵐–「プレイングワーカー」とプロ選手という話ですが、(WEリーグでは)「何をもってプロ選手なのか」は、まだお金の話だけになっています。Jリーガーとかプロ野球選手にはあれだけ多くのファンがいてコミュニティがあって、試合があれば、あれだけ沢山のファンが来てくれるので「プロクラブのプロ選手」と言えているのですが、女子サッカー界が、その領域(真のプロクラブ)に達していない中でのプロ選手とはどういうことか・・・「プレイングワーカー」は「サッカーと仕事を両立する」という説明になってしまいがちなのですが、僕としては、そこは本質ではないと思っています。「引退したときにネクストキャリアを築けているかどうか」が「プレイングワーカー」の本質だと考えています。

例えば「オフ・ザ・ピッチ・ミーティング」が派生し、選手主導の「オフ・ザ・ピッチ・プロジェクト」が生まれ、「SNS#キカク部」や「富士五湖の美味しいご飯屋さんを紹介しよう」など、ファンを増やす活動をしています。こうした活動がプロ選手では当たり前であるべきだし「オフ・ザ・ピッチ」と「オン・ザ・ピッチ」が両立するサッカー選手であれば「オフ・ザ・ピッチ」の取り組みがスキルになるかもしれない。そこから金を稼げるかもしれない。そうであれば「プレイングワーカー」というコンセプトにのっとったプロ選手を育成できるはずだと思います。

クラブでキャリアデザインを支援したい

五十嵐–将来的には、選手としての価値を選手自身が理解したことを前提に、選手が希望する契約を選べるようにしたいと考えています。WEリーグではプロ契約とそれ以外の契約選手(働きながらプレーする選手=セミプロ選手)の大きく2種類の契約条件となっておりますが、セミプロ選手の方が給料が低いのかというと、僕は必ずしもそうではないと考えています。社会で対価を得られるスキルを持っていれば給与に反映されるので給与が高いセミプロ選手がいると、僕は、非常に良いプロクラブになると考えています。FCふじざくらは「プレイングワーカー」というコンセプトを崩さず、よりアップデートすることが出来たタイミングで、目標であるトップリーグ、つまり将来的なWEリーグに入れるクラブを目指す構想を持っています。僕は、ただプロリーグができてもセカンドキャリア問題は解決しないと思っています。クラブとしては多くの女子選手に豊かに生きてほしいという願いがある。だからクラブでキャリアデザインを支援したいと考えています 

(インタビュー:2020715日 石井和裕)

FCふじざくらのSNSを見ると、選手が生き生きと活動していることが伝わってきます。既に「女子選手に豊かに生きてほしい」というクラブの願いの一部は現実化しています。プレナスチャレンジリーグへの昇格は達成できませんでしたが、山梨県内でのPR活動やスポンサー企業と共に進めるアクティベーションは、既に日本の女子サッカークラブのトップクラスに肩を並べつつあるといっても良いかもしれません。しかも、選手のプランで、こうした活動が進んでいるのです。まだまだ山梨県外から注目されることが少ないクラブですが、この先、WEリーグのプロクラブを含め、日本の女子サッカー界に、大きな影響を与えていくに違いありません。

山梨県内では高い評価。こんな方からFCふじざくらへメッセージをいただいています。

ヴァンフォーレ甲府の井尻真理子と申します。FCふじざくらの選手の皆さんが元気にプレーをしている様子を見て、私も元気をいただいています。学生時代に女子サッカー部に入ったものの厳しくて1か月もたずに辞めた私は、FCふじざくらの選手の皆さんを尊敬の眼差しで見ています。サッカーをしている男性もステキですが、女性もとっても輝いています。そして、富士観光開発様にはヴァンフォーレ甲府のスポンサーとしてご支援をいただき、感謝しています。

これからも山梨のサッカーを盛り上げていきましょう! 

山梨県女子サッカーリーグ1部第1節は白星発信

COVID-19(新型コロナウイルス感染症)の影響で、開幕が遅れていた山梨県女子サッカーリーグ1部第1節が2020926日に開催されました。FCふじざくらは日本航空高校に1-0で勝利。得点した辻野友実子選手は「公式戦初ゴールはシンプルに嬉しかったです。嬉しすぎて変な喜び方をしてしまうぐらい、嬉しかったです。相手をフリーにしてゴールを流し込むことが出来ました。」と喜びを伝えています(公式コメント)。今シーズンは前後期リーグ戦ではなく、各チーム1回戦総当たりのリーグ戦。20201129日まで全5試合が富士緑の休暇村フジビレッジで開催されます。

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