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女子サッカーとパンプス・・・そして試合を「見に来てもらう理由」スフィーダ世田谷FC下山田志帆選手 #女子サカ旅

ドイツ女子2部リーグのSVメッペンでプロ選手としてプレーし、帰国後はスフィーダ世田谷FC(プレナスなでしこリーグ2部)でプレーする下山田志帆選手のインタビューです。プレーをご覧になったことがなくても、「ジェンダー平等」と「LGBTQ問題」を取り上げた記事や毎日新聞に連載されているコラムで下山田志帆選手をご覧になった読者は多いかもしれません。このインタビューでは、ドイツでのプレー経験(2017-2018,2018-2019シーズン)をお持ちの下山田志帆選手に、まず女子サッカーの価値を語っていただきます。「ジェンダー平等」と「LGBTQ問題」の視点からWEリーグが発信するメッセージについても語っていただきます。2019年に「#KuToo」で話題になったパンプスについてもお話ししています。そして、ドイツ時代に過ごしたメッペンの思い出もご紹介します。

「女子サッカーの魅力を教えてよ」という質問になっていること自体が「違うのかな」

女子サッカーの魅力ってどこですか?という話題がたまに出ます。例えば、イベント等でプレナスなでしこリーグの選手が質問を受け回答に困るシーンはよくあります。具体的な答えを出せなく、結局は「ファンと選手が近いことです」という答えに陥ることがとても多いです。女子サッカーの面白さをどのように表現すれば良いのだろう。例えば「個性」。「男子のブラジル代表よりも女子のブラジル代表の方がブラジルっぽい」と見える。日テレ・東京ヴェルディベレーザの選手のサッカーの方が、今の東京ヴェルディよりも昔からのヴェルディ川崎のサッカーの延長線上に見える・・・この意見について下山田さんは、どのように感じたのでしょうか。

下山田–「個性」という意見に納得できます。ただ、そもそも前提として「男子サッカーの魅力と女子サッカーの魅力の比較」になっているように思います。よく、男子にはパワーがあって女子にはパワーがないとか言われますが、そんなことは当然です。「女子サッカーの魅力を教えてよ」という質問になっていること自体が「違うのかな」って、私は思います。サッカーをかなり好きな人は「あのプレーが上手い」「この選手のこういうプレーが好き」という話をしてくる。でも、今、Jリーグのスタジアムに足を運んでいる人の多くは「本当にそういったことを見ているのか?」ってところがあって・・・むしろ「スタジアムに応援しに行って感情が動く瞬間が好きだ」とか「なんかこのクラブにいるこの選手が好きだから純粋に応援したい」とか思っているから、今、Jリーグのスタンドにはあれだけ多くの人がいるのではないかなって思うのです。だから、まず女子サッカーは(男子との比較よりも)ピッチ内に「見に来てもらう理由」が必要な状況。そこを考える必要があると思います。

プロ選手としてプレーしたメッペンの思い出

下山田–私は、ドイツは欧州でも女子サッカーが遅れている地域と思っています。本格的なプロリーグの話も出ていないし、「環境を男子と同じようにしましょう」とは進んでいない感じがします。SVメッペンではプロ契約は3人だけ。私はその1人でした。(プロ契約で)生活面で困ることはなかったし、語学学校にも通わせてくれた。「頑張ればそういう(良い)待遇を手に入れられますよ」という目標が見える環境があるだけでも、やっぱり日本とは違うな、とは思っています。「サッカーに打ち込んでね」という環境をクラブが提供してくました。

メッペンはオランダ国境に近い小さな街です。3つの大きな川が合流し、さらに張り巡らされた運河がそこに加わる。地図で見ると幾何学模様のような街です。下山田志帆選手の家から1分の距離にあった運河。エムス川に繋がり、北海に注ぎます。下山田志帆選手は、ここを通っていつも練習場に向かっていました。

下山田–うまくいかなくて辛いときに、ただただ無心で自転車を漕いで心を浄化する場所でした。空を遮るものが何もないので、飛行機雲が同時にいくつも見えるのですが、それをボーッと眺めるだけでも心が落ち着きましたね…。

練習環境が前向きな気持ちを後押しする

–日本の女子サッカークラブの環境を全体にどのように感じますか?

下山田–私はプレナスなでしこリーグ2部のクラブに所属しているので、安定した環境を持っている女子クラブが少ないように見えます。例えば練習場の確保が、他の競技等(との競合)に左右されてしまう。

—同じ2部の環境で比較すると、地域の中でのスポーツクラブの位置づけやベースになるピッチやクラブハウスをしっかり保有しているドイツとの違いが大きいですか?

下山田–施設を確保できることは大きいです。今は、借りるためにクラブスタッフが動いてくださるし、場所を貸してくださる方もいらっしゃる。そこに対してはとてもありがたいです。感謝しかないです。一方で、選手たちは「していただいている」「してくださっている」と感じ、それを言葉にする毎日。でも、毎日の感謝が積み重なりすぎていて、その反面「サッカー選手として胸を張ってやっていこう」と言える価値(の自覚)が削られていってしまう感覚が正直ある。

—地域の皆さんと対等な関係になれないということかもしれないですね。これは私の考えですが「ありがたいのだけれど支援を負い目に感じてしまう」なんてことかもしれないと思いました。クラブが環境を確保して、クラブを独立した存在としてやっていけるようにならないといけないのでしょうね。対等な関係を築いていかないと次のステップで大きくビジネスが広がっていかないのかもしれません。

下山田–SVメッペンにはクラブハウスがあり練習場は天然芝が3面並んでいます。クラブ専用のスタジアムがありました。(良い環境が当たり前で)感謝の気持ちを忘れてしまうような面もあるかもしれませんが、一方では、自分たちの場所だからこそ良いもの(良いサッカー)を作ろうという意識が常に湧いてくる。そういった前向きな気持ちには(今のプレナスなでしこリーグ2部の多くのクラブの練習環境を考えると、まだ)日本ではなりにくいと思っています。

スフィーダ世田谷FCのチームメイトと

プレナスなでしこリーグや日本サッカー協会のイメージが変わってきている

下山田志帆選手はスポーツ界からジェンダー問題にアクションを起こしています。毎日新聞で自分らしさって何だろう。を連載、「女性スポーツ界から社会を変える」株式会社Reboltを立ち上げ、常設の大型総合LGBTQセンター「プライドハウス東京レガシー」記者会見へ登壇(文部科学省 記者発表室)・・・。2019年9月のプロ化に向けて具体的に動き出した日本の女子サッカーを、下山田志帆選手はどのように見ているのでしょうか。

—女子サッカーのプロ化後に女性アスリートの環境に変化が出ると思いますか?

下山田–最近の日本サッカー協会であったり所属クラブであったりWEリーグの発信を見ると女子サッカーというコミュニティが、どのように社会に貢献していくのかを意識していると思います。今までのプレナスなでしこリーグや日本サッカー協会のイメージが変わってきている印象があります。(今までの個人だけの発信ではなく女子サッカーというコミュニティ全体の)バックサポートを持って選手が発信できるようになると、選手の発信の質や幅が変わってくると期待しています。WEリーグを進めている皆さんも悩みながらやっていると感じます。今のWEリーグの発信は、まだ漠然としています。良い意味で、まだ、私たちが「こうしたい」という意見を言える状態だと思います。

—WEリーグの動画の中で印象が残っているところはありますか?

下山田–例えば、Women Empowerment のメッセージが打ち出されたのは嬉しかったです。ロゴがモノクロだったことも、今までと全然違うのですごく期待感が上がったというか、すごく嬉しかったですね。ビジョンも(今までの)内に篭っていた女子サッカーが外に向けて開いている、と感じて嬉しかったです。そうはいっても一方で、プロモーション動画の最初に出てくる女の子・・・女性のイメージが「The 女子」。女性の活躍のイメージが就活の格好で「女の子走り」・・・(動画に登場する、日常生活での女性の活躍シーンは、この走りのシーンが唯一ですが)女性はそれしかない訳じゃないし・・・。

—ロゴの色は、いわゆる可愛らしいと象徴される赤系統のカラーではなかったですね。

下山田–ちょっと安心しました(笑)。なんか変わった!と思いました。

—WEリーグでは、これから「女の子らしさ」をどうするかが論議される必要性が生じてくるでしょう。それは、きっと、それは難しいテーマだと思います。文春オンラインに掲載された下山田選手のインタビュー記事「ドイツから帰国して、“カミングアウトしたい”が爆発した」の中でパンプスの話がありました。「女性アスリートの場合、移動する際はスカートのスーツにパンプス、と決まっている場合が多いんですが、そういった服装を強制されるのがしんどいという声」・・・読んで考えさせられたとことがあります。古い話ですが2006年〜2007年に私はモックなでしこリーグの冠協賛をしていた株式会社モックの女子サッカー担当でした。2007年に、私が勤めていた会社ではなく別のアパレル企業ですが、史上初めて「なでしこジャパンにオフィシャルスーツを提供する」というニュースがありました。「そのときどうだったかな?」と思って当時のプレスリリースを読み直しました。

下山田–へー面白い(笑)

—資料を見ると、シューズが・・・やはりパンプスだった。当時、私は、パンプスを全く気にしていなかったはずです。それくらい無関心な場合には女性プレーヤーの心理に目が向かないのだなと、今になって思いました。今、なでしこジャパンにオフィシャルスーツを提供しているのはビームスです。シューズは提供されていなくて、2017年の資料には、こう書いてありました。「ホワイトスニーカーやボーダー柄のトップスと合わせれば、爽やかな着こなしに仕上がる。」私が冠スポンサーの担当者としてなでしこリーグに関わっていた頃から10年くらい経過しているのですが、ちょっと(日本の女子サッカー界は)変わったのだな、と思いました。

下山田–この話、めちゃ面白いですね(笑)。確かに、今、なでしこジャパンはシューズを自由に履いているイメージなので・・・逆に、昔はシューズが提供されていたのが驚きです。

—パンプスと言っても「働く女性の足の健康とデザイン性の両立を考え続けた」と説明されている商品なのですが、それでもパンプスなのです。

下山田–「The」って感じですね。スタジアムに来てもらえる理由を選手も日本サッカー協会も探っている状態だと思います。どういう人たちに見てほしいのか、どういうところを見てほしいのかのすり合わせはまだできていないので(ギャップを埋めていくのは)これからだと思います。

「可愛い」「美人」「女の子らしさ」をメディアに押しつけられがちな日本の女性アスリート

下山田–(押し付けられるけれどメディアにたくさん露出することについての気持ちは)複雑です。「良い気分か?」と言われると「良い気分ではない」です。メディアに取り上げられることでうまくいっているかというと(女子サッカーの現場では)うまくいっていないと思います。(そうしたPR方法は)ターゲットが狭いです。そうした発信をきっかけに見に来てくれるファンの幅が狭くなる。逆に来てほしい人が来てくれなくなることに繋がる。

一緒にサッカーを楽しみましょう

下山田–女性といっても色々な(ジェンダー、セクシャリティの)人がいて、社会的に居場所が少ないと言われてしまいがちな人がいます。そんな人(や、それに近い人パーソナリティの人)でも、チームの中で当たり前の存在としてポジションを得てプレーしている。そういう世界が女子サッカーの世界だと私は思っています。女子サッカーは、選手たちがエンパワーメントできる存在になれる場所でもあると思っています。そういう姿を見に来てほしいし、一緒に、例えば、居場所がないとか、女性として生きていく中で社会にモヤモヤを感じる人がスタジアムに来てくれて、戦っている私たちを見て元気を得て帰ってくれるような、そんな場所にしたい気持ちがあります。この思いを私自身は発信していきたいと思うし、そういう場所を一緒に作りたいという人がいるのであれば一緒に作っていきたいと思う。

簡単に言うと「一緒にサッカーを楽しみましょう」「サッカーを楽しめる場所を作りましょう」と言いたいです。

(インタビュー:202072日 石井和裕)

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