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テレビ朝日 「“あいつ今何してる?” 丸山が恐れた天才ディフェンダー」~フロントスタッフが見たプレー環境と企業支援

オルカ鴨川FCファンショップ「Blauer Kreis(ブラウワー・クライス)は鴨川市役所近くの幹線道路沿いにあります。このような好立地で、Jリーグ傘下ではない女子サッカークラブのファンショップが営業しているのは極めて稀なことではないでしょうか。今回は、このショップとZOOMで結び柴田里美さんにお話をうかがいました。柴田里美さんはテレビ朝日 「あいつ今何してる?丸山が恐れた天才ディフェンダー」で丸山桂里奈さんの学生時代のライバルとして紹介された元選手。県リーグからオルカ鴨川FCでプレーし、プレナスなでしこリーグ 2部への昇格に貢献し引退。現在はフロントスタッフとして働いています。

鴨川シーワールドで知られる千葉県鴨川市をはじめとする千葉県南部地域をホームタウンとするオルカ鴨川FCは「地域と共に」を合言葉に2014年に発足して千葉県リーグに参入しました。2016年にはプレナスチャレンジリーグに昇格し、これを初参戦ながら優勝。2017年からはステージをプレナスなでしこリーグ2部に移し、1部昇格を目指しています。

 

筆者が柴田里美さんと初めてお話したのは、ジェフユナイテッド市原・千葉レディースでプレーされていたときだと思います。ユニバーシアード日本代表、フットサル日本女子代表(1回世界女子フットサルトーナメント)FCRデュイスブルク(ドイツ)でプレーといった経歴からわかるようにチャレンジ精神溢れる柴田里美さんが、なぜ、千葉県リーグ(当時) のオルカ鴨川FCでのプレーを選択したのか、また、女子サッカーのプロ化が目前となる今、何を目指しているのかを改めて知りたくなり、今回のインタビューに至りました。インタビューはWEリーグの立ち上げ発表後、COVID-19(新型コロナウイルス 感染症)対策の緊急事態宣言解除の直後の6月に行いました。フロントスタッフから見たプロ化(WEリーグ)はどのように映っているのかは気になるポイントです。

—現在の柴田里美さんのお仕事を改めて教えていただこうと思います。選手の多くは医療法人鉄蕉会(亀田総合病院をはじめとする医療法人)のお仕事をされていると聞いていますが。

柴田–私は、クラブの広報、グッズ作成から販売管理、地域活動(地域でのイベント実施、地域の会合に出席等)の仕事を主にしています。選手時代は8時から15時まで院内で勤務していましたが、今はクラブの仕事だけをしています。 今、亀田総合病院は落ち着いています。院内感染対策をかなりしているので選手は大丈夫です。

 ※亀田総合病院は全国でも指折りの大規模な病院です。中国・武漢からの帰国者を受け入れた「勝浦ホテル三日月」は亀田総合病院の監修・指導のもとで防疫体制を整備して営業を再開したことが報じられました。

オルカ鴨川FCの提供してくれる環境は素晴らしい

—なぜオルカ鴨川FCでプレーすることになったのですか?

柴田2013-14シーズンにドイツ(女子ブンデスリーガ)でプレーしました。(秋春制なので)夏に帰国して、国内でプレーできるクラブを探って、いくつかのクラブで入団テストを受けていました。そこで北本綾子さん(当時、オルカ鴨川FC GM兼監督・選手)に会ってお話をしました。北本さんとはユニバーシアード日本代表と浦和レッズレディースで一緒にプレーしたことがありました。また、別の日にフットサル場でたまたま北本さんにお会いして「(鴨川に)練習に来てみない?」と声をかけていただいたのです。まだ所属クラブが決まっていなくて、私は個人練習だけではなくチーム練習をしたかったので、さっそく翌週に鴨川に行きました。そこで練習に参加して、サッカーを「凄く楽しいな」って思ったのと、県リーグのクラブで、ここまでの環境を用意してもらっていて凄いなって思いました。ここで、みんなと一緒にチームを作り上げていくのは楽しいかもしれないと思った。うん、環境面は驚きました。過去に、エルフェン狭山(当時)所属の時は1時間半も運転して通っていました。ジェフ千葉のときだと(自分の勤務地が遠かったので)仕事の通勤時間が往復2時間。その上で夜に練習は、もう大変。(オルカ鴨川のように)一つの街で仕事もサッカーも完結できるのはとても恵まれていると思います。とても良いなと思ったのです。

違いに驚いたFCRデュイスブルクでのプレー環境

柴田–ドイツではアマチュア契約で、働きながらプレーしました。私がプレーしたFCRデュイスブルクはお金がないクラブだったのですが、それでも、バスを保有しているとかグラウンドも天然芝、人工芝、クレー、それにカフェ、ロッカー (クラブハウス)が整っていて・・・お金がないクラブでこの環境なのだから、ドイツサッカーの常識のレベルが高いですね。地域のクラブでさえ、グラウンドの脇にカフェが併設されていて、子供を送り届ける親御さんとか街のお年寄りとかが集っているというのが当たり前にあって・・・これは日本では見られない光景でした。

柴田FCRデュイスブルクは、アンダーカテゴリーからトップチームまで、女子だけのクラブとして成立していました。環境面は大事です。年齢を重ねていくと回復力も下がります。トレーニングをしっかりできる環境が大切ですね。ところがFCRデュイスブルクは経営が悪化して、男子3部リーグのクラブ・MSVデュイスブルクと一緒になりました。2014年の途中から傘下に入りMSVデュイスブルクの女子チームとなって活動することになりました。ちょっと珍しい経験をしています。

—やはり柴田里美さんがオルカ鴨川FCでのプレーを選んだ原因として、プレー環境はとても大きかったですか。

柴田–仕事も住まいも、サッカー用品も消耗品(飲料等含む)も支援がありがたくて「(現役の)最後のご褒美だな」と思いました。

—スポンサーからの支援はありがたいですね。

柴田–ありがたいことに100社以上から支援していただいています。金銭面の支援だけで はありません。例えば、食品を寄贈いただく・・・これからお返しできることはお返ししていかなければならないと思っています。純粋に試合を楽しみにしてくださっている方も沢山います。

オルカ鴨川FCを支える医療法人鉄蕉会(亀田総合病院をはじめとする医療法人)では鴨川市の人口の10%以上にあたる人数の人々が働く

ここでオルカ鴨川FCの立ち上げ当時を振り返ってみましょう。2014218日の千葉日報によりますと「亀田総合病院が全面バックアップ」と書かれ、亀田総合病院歯科センター長の亀田秀次さんが「若者の元気が鴨川に集まるといい」とクラブの設立意義を語っています。スポーツ医学科部長の大内洋さんが「女子サッカーは高校卒業で辞めてしまう子が多い」ため「続けられるように女子サッカー部をつく れないか」と提案したのがチーム立ち上げのきっかけとなったと書かれています。 オルカ鴨川FCは医療法人鉄蕉会(亀田総合病院をはじめとする医療法人)が立ち上げた女子サッカークラブなのです。

1993年のJリーグ立上げ以来「企業スポーツはダメ」とする風潮が強まり、その声の勢いは佐藤工業撤退による横浜フリューゲルス消滅時に頂点に達しました。また、バブル崩壊による経営環境の悪化等から、多くの大企業が実業団スポーツから撤退していきました。しかし、2019年に大ブームを巻き起こした「ジャパンラグビートップリーグ」は企業スポーツによるリーグ戦ですし、長く女子の人気スポーツのトップクラスを維持しているバレーボールのVリーグも企業スポーツです。最近では、一概に「企業スポーツはダメ」と決め付けるわけではない考え方も、再び 台頭してきている感じがします。

昇格プレーオフのときは至る所に看板が掲出された

オルカ鴨川FCを支える医療法人鉄蕉会の職員はグループ全体で約4,000人。さらには亀田医療技術専門学校の生徒数340人、亀田医療大学の生徒数320人。合計人数は、鴨川市の人口約3万人の約14%にあたります。海外からも多くの患者が来院。 鴨川市内のタクシー運転手にお話しをうかがうと「秋葉原までお客さんを乗せた」 「羽田の送迎は当たり前」とのこと。医療法人鉄蕉会のような地域の暮らしに根差した企業のスポーツによる地域貢献は今後も継続してほしいものです。

美しい海、棚田の風景、食資源に恵まれた鴨川市

筆者は、昨年、1度だけ鴨川市に足をのばし試合を観戦しました。晴天に恵まれ、九十九里の美しい海、美味しい海の幸を味わった後に鴨川市陸上競技場に向かいました。メインスタンドはほぼ満席。入場者数は739人。中央部のスポンサー席への着席数が多いことに驚きました。私は2006年・2007年は、スポンサー席で観戦する立場だったのですが、これほどまで多くの人数がスポンサー席に着席される試合を経験したことがありませんでした。スタンドの外に設けられたテントやキッチンカーによるオルカ横丁も賑やかで素晴らしい日帰り旅行をすることができました。

鴨川グランドホテルのカフェからの眺め

ところが、その翌週に台風15号が襲来。メインスタンドの屋根とベンチが吹き飛んでしまいました。ベンチは、プレナスなでしこリーグの多くのクラブ等の支援もあって修繕できましたが、屋根は予算を確保できず、点検等の安全管理と応急処置をしてリーグ戦を開催しています。

この屋根が吹き飛んでしまった

さて、インタビュー後半では、WEリーグ(女子プロサッカーリーグ)が1試合平均入場者数を5,000人と発表したことを受けて、集客についての話題から始まります。ちなみに、プレナスなでしこリーグ1部リーグの1試合平均入場者数は1,345人(2019年シーズン)です。 

徐々に増えている観客数、自分たちに何ができるのか、模索を続ける毎日

—オルカ鴨川FCのファン層はどのような印象ですか?

柴田–医療関係者よりも地域に古くからお住まいの方が多いです。平均年齢が高くて40歳、50歳くらいの方も多いですし70歳代の方もいらっしゃります。孫がサッカーをやっているという方、街のお年寄り、漁師さんも多いです。他のクラブと比べて年齢層が高いと思います。「試合がないと、楽しみがないんよー、暇だよー。」と言ってくださる方も多いです。

—鴨川市には医療技術を学ぶ学校があったりして、周辺の市町村と比べると比較的、若い人が住んでいるエリアですが、観客の平均年齢が高いのが意外です。

柴田–亀田総合病院の職員数は約3,000人ですから、その1割に来ていただくだけでも、かなりの人数になりますし年齢層が下がると思います。観客やファンを増やす方法は手探り状態です。どうやったら増えるのかなー。徐々には増えているのだけれど、もっと爆発的に増やさないと。自分たちに何ができるのか、まだ日々模索という感じです。

—日テレベレーザは去年の途中から、急に客席にプレーしている女性の姿が目立つようになった印象があります。

柴田–大事ですよね。選手たちが憧れの存在になることはとても大事だと思います。ただ、鴨川市は女子サッカーのプレー人口が少ないです。南房総エリアにはプレーしている女性が少ないので、アカデミーチ-ムでは、君津市、木更津市から鴨川市にまで送迎をしています。

試合の日は(スタジアム前で開催する)オルカ横丁で賑わって、地元の野菜の販売、マルシェみたいなことをやって「サッカーはついでに見る」くらいのイベントをやろうと思っていました。COVID-19(新型コロナウイルス感染症)で、しばらくは、ちょっと難しいですが・・・。

オルカ横丁

—柴田里美さんは女子サッカーのプロ化「WEリーグ」立ち上げの発表について、どのように感じましたか?

柴田–現実にできるのかな?と(最初は)正直に思いました。でも、女子サッカーの発展のためにはプロリーグのような、選手が目指すべき場所が必要ですし、立ち上がって動き出した以上、その成功に貢献すべく、私たちも頑張っていく考えです。ただ、現状のプレナスなでしこリーグの観客数を見てもWEリーグの観客目標数には、まだまだ及びません。それを増やしていくことが大きな課題の一つだと思います。海外のプロリーグのように自立したリーグになったら魅力的ですね。

女子サッカーは稼げるスポーツなの?

—厳しい時代もドイツでのプレーも、こうして鴨川市での生活も経験された柴田里美さんは、女子スポーツ界の中の女子サッカーの環境をどのように捉えていますか?

柴田–女子サッカー界(の今昔)で比べると、以前より良い環境を目指していやっている、改善は目まぐるしいです。プレナスチャレンジリーグ(トップから3部に相当するリーグ)でも職業斡旋をできているクラブがあちらこちらに出てきたりして、昔とは考えられないくらい女子サッカー界は良くなってきていると思います。じゃあ、他の女子スポーツを比べてみたらどうなのか?女子サッカーよりも良い環境でプレーしている選手もいる。例えば女子ラグビーとかも・・・。女子プロゴルフは動く金額が大きい。女子サッカーは、まだ稼げないスポーツなのかなー・・・稼げるスポーツとまでは言い切れないですよね、と思うときもあったりして・・・。

—もっと上を見ていきたいところですね。

柴田–今でも(女子スポーツ全体の中では)環境はかなり良いです。以前と比べれば、とても良くなりました。でも、選手には「このままで良い」とは思ってほしくない。「結果を出せば良い環境がついてくる」くらいの方が成功するのかなー・・・って、私、古いかも、考え方が(笑)。

※2020年9月現在、オルカ鴨川は「WEリーグ」参入について同様に何も発表をしていません。 

(インタビュー:2020年6月27日 石井和裕)

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