【サッカー人気1位】新潟はなぜ、どこで間違ってしまったのか…

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「農業×サッカー」そしてアート 初の公式戦に挑むFC越後妻有の2020年

「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ」というアートイベントをご存知でしょうか。新潟県越後妻有地域(十日町市・津南町)で開催される世界最大級の国際芸術祭です。

「えっ?WE Love 女子サッカーマガジンは女子サッカーのサイトじゃないの?」という読者の声が聞こえてきそうですが、今回の記事ではアート、そして農業が女子サッカーに深く関係してくるのです。特に、重要なのは、女子サッカー選手たちが、NPO法人越後妻有里山協働機構という「大地の芸術祭」で生まれた作品や施設、プロジェクトを通年事業として運営している法人に勤めているということです。NPO法人越後妻有里山協働機構は「まつだい棚田バンク」運営活動の一環として稲作も行っています。

棚田とは、山の斜面や谷間の傾斜地に階段状に作られた水田のことで、特定NPO法人 棚田ネットワークによると日本の水田の8%が棚田だといわれています。女子サッカー関連の地域でいうと、オルカ鴨川FCのホームタウン・鴨川市には鴨川大山千枚田という大規模な棚田があり稲作を行っているのに加えて、「棚田の夜祭り」にはたくさんの観光客が訪れます。

イリヤ&エミリア・カバコフ「棚田」

インタビューを通して私が感じたFC越後妻有の魅力は、こんな形になりました。

 

 棚田を活かしたアート作品もある越後妻有地域でFC越後妻有は活動しています。

 筆者2006年の「大地の芸術祭」に行ったのですが、イリヤ &エミリア・カバコフの作品「棚田」は大のお気に入りです。実は、この作品の一部になっている棚田は女子サッカー選手が中心に耕作しているそうです。こうした棚田を含む景色の中で楽しむ作品も多くあり、この地域に点在する約200点の常設アート作品は1年を通じで楽しめます。アートと農業がある環境で生まれたのがFC越後妻有。「農業×女子サッカー」 プロとしてサッカーをプレーしながら、棚田の保全活動を行う、全国見渡しても類を見ないプロジェクトです。誕生から5年目の今年、遂に新潟県女子サッカーリーグに参戦します。GM兼監督の江副良治さんは、このクラブに参加してほしい人材をこのように語ってくれました。

「サッカーのスキルは大切ではあるのですが、一番大切なのは我々の考え、目指していることに共感できるようなマインドや姿勢も同じくらい重要だと考えています。やっていることが特別ですから。」

FC越後妻有は今も一緒にプレーしてくれる選手を求めています

FC越後妻有は、どれくらい特別なのでしょうか?インタビューから探ってみましょう。

 今回はオランダの建築家グループMVRDVが設計した、「まつだい『農舞台』」という建築作品からZOOMを繋ぎ、GM兼監督の江副良治さん、2015年のクラブ立ち上げから所属する大平理恵選手、2020年に新加入された渡邊彩海選手の3人にお話をうかがいました。

江副 棚田保全、棚田を耕作する後継者の問題というものに、「大地の芸術祭」が直面した時期がありました。それをなんとかしなければということで立ち上がったプロジェクトがFC越後妻有というクラブです。都市部から移住をしてきた女子サッカー選手が棚田保全、里山保全を行いながらサッカーで新たな息吹、元気を(地域に)お届けする。地方創生に繋げることを目的に立ち上がりました。チームの所在地の十日町市松代(まつだい)は雪深い地域で冬は積雪2〜3メートルという豪雪地帯です。人口比率は高齢者がほとんどを占めています。我々が保全活動をしている棚田においても、年々、後継者がいない田んぼが増えていますし、耕作放棄地も増えてしまっている。(日本の)農村部の課題の最先端の地域なのかなと思います。

選手お二人はなぜ、このクラブに入られたのですか?

渡邊 サッカーをするのに良い環境だと思ったからです。ここなら全力でサッカーに取り組めると思い、このクラブを選びました。具体的には「午前中に練習があること」。農作業に関しては、実際にやってみると筋トレみたいな感じになって(笑)全てトレーニングのようにサッカーに繋がるということが良いなって思っています。食事サポートがあり、豊富なトレーニング器具のあるトレーニング室、24時間使える天然芝のグラウンドがあること、仕事も全て(チームメイトと)一緒なのでチームワークが磨かれる。サッカーを中心にした生活をできます。

とても良い芝生のグラウンドの写真を見ましたが、あのグラウンドで練習できるのですか?

渡邊 そうです。毎日練習できます。しかも奴奈川キャンパスの専用グラウンドなので、他のチームと重なることがなく好きなときに好きなだけ使えるのです。

では、大平(おおだいら)さんはいかがですか?

大平 私は祖父母が農業をやっていたので、小さい頃から農業には興味があって、大学に進学のときに、農学部で学びながらサッカーをできる学校を選んで農業に関する勉強をしました。これと同じ感じで続けられればなーと思い、ここを選びました。なかなか「農業をしながらスポーツ」という取り組みがない。スポーツ選手は食べないとやっていけないのに、なんで(食べ物を育てる)農業とスポーツが繋がってこないのかと疑問に思うこともあったので、自分自身でそれをできたら良いなと思います。

 

特徴ある良いデザインのユニフォームですね。

渡邊 このクラブを表しているユニフォームです。雪とお米を白で表し、アウェイ(2nd.)の深緑色は自然豊かな里山のイメージをしています。それからエンブレムに添えられた稲の葉が選手を支えるサポーターを表現しています。胸に11個の稲穂があるのですが、これはピッチで戦う選手たちを表現しています。ホント思いの込められた、着ていて重みのあるユニフォームだと感じています。

大平 お米が強調されているので自分たちを表現しているなーと思います。どのクラブを見ても、こういうデザイン(のユニフォーム)はないので特徴的だなと思っています。

江副 「大地の芸術祭」のクリエイティブ・ディレクターであるグラフィックデザイナー・佐藤卓さん率いる㈱TSDOの包括的なデザインの一つです。「大地の芸術祭」の全体デザインの中で、地域の特徴やチームのコンセプトが端的に表されているユニフォームになっていると感じます。GMの立場で言うと、ユニフォームに、まだスポンサー名がひとつもないので、そこがまだ課題だと捉えています。

※佐藤卓さん率いる㈱TSDOは、ロッテ キシリトールガム、明治おいしい牛乳、エリエール、オルビス等の商品デザイン、キッズデザイン協議会、クリンスイ等のロゴデザインで知られています。

農業とサッカーという組み合わせ以上に「大地の芸術祭」のような地域のユニークな取り組みと一体化しているクラブだと思うのですが、評判はどうですか?

大平 「まつだい棚田バンク」と一緒に活動することがある「大地の芸術祭」のコアなファンやサポーターの方々から、応援をしていただいていることを感じます。

他のクラブではできない体験はありますか?

大平 自分たちで作ったお米や野菜を食べて、自分たちの力に変えて頑張るっていうのは他にはないことだと思います。あと、アップでグランド周囲をランニングすると地域の方から野菜をいっぱいもらって帰ってくるということもあります(笑)。こちらの地域の人は、新しく来た人や若い人に、親しみを込めて、いろいろな話をしてくれて「ウチに上がっていってお茶でも」とか「夕飯を食べていきなよ」とか、初対面でも孫とか子供のように接してくれる。これは他の地域には絶対にないことだろうなと思います。

渡邊 驚いたのが、神奈川県にいるときにいただく差し入れは、スポーツドリンクとか購入したものなのですが、このクラブの場合は、その方が愛情を込めて作っている物をくださる。なので、さらに力になります。

私が大地の芸術祭に行ったときは、地域の方からおにぎりをいただいて「お代はいらないけれど代わりに何かお返ししてください」という決まりの「車座おにぎり」というイベントがあって、あちらこちらに「車座おにぎり」ののぼりが立っていておにぎりが振舞われていました。都会からやってきた人が、おにぎりをいただいて地域の方とお話しして、一発芸とかをやって次のアート作品を探しに去っていく。そんな体験をしました。そういう地域で育まれた風土みたいなものを感じますね。

この全国でも稀な、女子サッカーチームの取り組みを農業の未来を見つめる専門家はどのように見ているのでしょうか。一般社団法人全国農業会議所 全国農業新聞 新聞業務部次長 川崎正太郎さんにお話を聞いてみました。

中山間地域と女子サッカーチーム

中山間地域は、全国の人口約1割が住むが、農家数や農地面積、農業産出額は全国の約4割を占めるなど日本の食料生産を担う。しかし、離農や人口流出、高齢化などが重なって過疎が進み、「限界集落」と呼ばれる地域社会の維持が困難な地域もある。

新潟県十日町市の女子サッカーチームFC越後妻有は2015年に発足し、市内の棚田でコメ作りをしながらサッカーをする「農業実業団チーム」だ。選手の多くは移住者で、その受け皿が「農業」。選手は収入源とサッカーに集中できる環境が整う。地域住民は農作業を指導し、「我が町のチーム」を応援する。

農林水産省は、農村の地域資源と他分野と組み合わせる「農村発イノベーション」に力を入れる。FC越後妻有が取り組むこの農業とスポーツの組み合わせが広がれば、新規就農や移住が進み中山間地域を含む農村は活性化する。農業が日本のプロスポーツと共に発展し、FC越後妻有の例で言えば、こうした取り組みの成果は、日本女子サッカーが再び世界一となる道にもつながるはずだ。

一般社団法人全国農業会議所 全国農業新聞 新聞業務部次長 川崎正太郎

ここに至るまで5年間。新潟県女子サッカーリーグに初参戦

FC越後妻有は、これまで公式戦を行うことができませんでした。メンバーが足りなかったからです。しかし、遂に公式戦がやってきました。ところが、COVID-19(新型コロナウイルス感染症)の影響は、この里山にも届いています。新潟県女子サッカーリーグの開幕が延期になったのです。

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