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浦和レッズレディース優勝の原動力5+1 試合後インタビューの選手証言を交えて探る

浦和駅西口真正面にコルソがあります。浦和レッズレディースのスポンサーであるショッピングセンター。1階には人気のリンツ ショコラ ブティック、ブーケ(プリン)、浦和名物 ときわだんご、カルディコーヒー等があります。そして、今シーズン開幕当初に書かれた選手の色紙が飾ってあります。「優勝」の文字がいくつもある。「得点」と書いた10番の安藤梢選手は、優勝を決めた試合後のインタビューで、このように語っています。

 安藤–途中出場が多かったので、途中から出てしっかり流れを変えなければならないプレッシャーがあったのですが、打ち勝っていくのが楽しかったです。最高の若者たちとプレー出来て楽しかったです。ひとりひとりがしっかりやるべきことをやっていく仲間が頼もしかったです。

2020年11月8日、浦和駒場スタジアム。2020プレナスなでしこリーグ首位の浦和レッズレディースは5-1で愛媛FCレディースに勝利。3度目のリーグ優勝を果たしました。安藤梢選手は、浦和レッズレディースの前身、さいたまレイナスFCで2004年に優勝。そのとき22歳。2009年に浦和レッズレディースとして初優勝。そのとき27歳。そして、今、38歳。クラブ最年長。しかし、90分間をワントップでフル出場。見事なゴールも決めました。

2020プレナスなでしこリーグは特殊なシーズンです。COVID-19(新型コロナウイルス感染症)の影響で開幕が遅れ、無観客(リモートマッチ)でスタート。各クラブが観客動員に苦しむ中、この日の浦和駒場スタジアムには、今期最高の3,899人のファン・サポーターが集まりました。

安藤—新型コロナウイルスの影響があってこういう世の中ですが、まず自分たちがサッカーをやらせてもらう環境を整えてもらったり、リーグを戦えること、さらにレッズレディースはそういう中でもほかのチームよりもたくさんのお客さんに応援に来ていただいて、選手たちは感謝の気持ちでいっぱいです。その感謝を優勝という結果で返したいとチームのみんなが思っていたので、それを今日叶えられて、少しでもファン・サポーターの方たちに笑顔を届けられたのならよかったと思います。女子サッカーでここまでサポーターがいるというのは世界に誇れると思うので、サポーターの前で優勝したことに意義があります。

優勝の原動力5+1つを選手のインタビューで答え合わせします

今回は、浦和フットボール通信より写真提供のご協力をいただき、浦和レッズレディースが優勝を決めた2020プレナスなでしこリーグ1部 第16節、浦和レッズレディース×愛媛FCレディースを振り返ります。そして試合後インタビューの選手証言を交えて、何が浦和レッズレディース優勝の原動力となったかを探ります。まずは、安藤梢選手のインタビューで触れられていた通り、1番目にはファン・サポーターの後押しを挙げさせていただきます。

 

浦和レッズレディース優勝の原動力

1.スタンドに来場したファン・サポーターの後押し
2.選手の特徴、良さ、個性を理解したポジション変更
3.簡単にボールを奪われないピッチ上とスタンドの共通認識
4.ボールを奪われても、その瞬間にボール回収に動ける距離感で攻め続ける
5.走るサッカーが「浦和レッズレディースらしいサッカー」になった!

6.そしてもう一つ

 

 1.スタンドに来場したファン・サポーターの後押し!

バックスタンドは6年ぶりの開放

当日券の発売なし。浦和駒場スタジアムは熱気に包まれていました、ただし全員がマスクをしているので音は静かに・・・。取材申請するプレスが多く記者席は満席。一部のプレスはメインスタンド上段の特設記者席で取材することになりました。試合前のスタジアムナビゲーター・夏川延子さんの選手紹介によって起きる拍手はコロナ以前と同じ、いやそれ以上。ただし、塩越柚歩選手の紹介で拍手のボリュームが一段と上がるのは昨年との大きな違いです。

いつもの入場テーマが流れ、キャプテンの柴田華絵選手を先頭に猶本光選手がしんがり。ピッチ中央で、いつものようにメインスタンドに一礼し、続いて、いつもとは違いバックスタンドにも一礼します。ファン・サポーターがメインスタンドだけでは収まらず、6年ぶりにバックスタンドが開放されたのです。キックオフ前に静寂があり、メインスタンド、バックスタンド上段、バックスタンド下段からの手拍子と共に試合は始まりました。

先制点で浦和レッズレディースらしいサッカーに

愛媛FCレディースは、阿久根真奈選手、上野真実選手、大矢歩選手、山口千尋選手らが頻繁に前後のポジションを入れ替えて、最終ラインと駆け引きをしてくるチーム。立ち上がりは、浦和レッズレディースの選手たちに戸惑いが見えました。塩越柚歩選手は試合後のインタビューで語っています。

塩越–相手のフォーメーションが何で来るのか分からなかったです。スカウティングによるとトップ下が空くのでボールを収めたりして流れを作ってボールをスムーズに回す感じだったのですが、相手のラインが高くてパスを受けてからのターンが、なかなかうまくいかなかったです。

優勝に向けた緊張感もあり、すっきりしない展開の中で、コーナーキックのこぼれ玉をゴールにパスするように流し込んだのは長船加奈選手。優勝を決めるゴール!・・・9分の先制点で、さぞ熱狂が生まれることかと思っていましたが、大歓声が上がることなく拍手が広がり、全体に安堵の空気。ここまでは浦和レッズレディース持ち味のパスワークが出たわけではありません。どちらかというと、この得点が潤滑油になって、ここから「浦和レッズレディースらしいサッカー」になっていきました。

2.選手の特徴、良さ、個性を理解したポジション変更!仕掛けが変わる

この日の浦和レッズレディースは安藤梢選手と塩越柚歩選手のツートップと紹介されても誤りではありません。しかし、その布陣でサッカーをやる時間とやらない時間がありました。

左のツートップといっても良いくらい高い位置にいた塩越柚歩選手が右の中盤の低めの位置に下がると、右の中盤の高めの位置にいたはずの水谷有希選手が左の高めの大外、しかもタッチライン際に立ち位置を設けて布陣に幅をとります。その場合は、それまでは幅を取る役割でタッチライン際が主な立ち位置だった左サイドバックの佐々木繭選手が少し内側に入る。つまり、塩越柚歩選手と水谷有希選手の選手のポジションが入れ替わるだけではなく、第3の選手のポジションと役割までが変わる。さらに、今度は、ワントップの位置に水谷有希選手が入り、安藤梢選手がやや左にポジションを変えることもあります。その場合は猶本光選手が右のタッチライン際に開いて幅を取る役割になることがあります。

ただポジションが流動的なのではなく、昨シーズンまでは見られなかった、システマチックなポジション変更が行われているように見えます。南萌華選手は、今シーズンのサッカーについて、試合後のインタビューで、このように語っています。

南—森監督は選手それぞれの特徴、良さ、個性を理解してくださっています。ポジションの変更を自由にしながら他のチームにはないサッカーを出来ています。

ボールと相手のポジションを見ながらポジションを入れ替えていくのは、現代サッカーでは当たり前だけれども、この「自由」という単語を拡大解釈したまま浦和駒場スタジアムに来ると、目の前のピッチで何が行われているのかを読み取れなくなります。ポジションが入れ替わるだけではなく、選手それぞれの特徴に合わせて立つ位置、仕掛けが変わります。ただし、そこには法則があり、その法則が確立されたのが、今シーズンの浦和レッズレディースの一番の特徴ではないでしょうか。

塩越柚歩選手の左脚一閃で2-0に

ピッチ中央。ペナルティエリア付近。塩越柚歩選手はドリブルでボールを前に運んでパスコースを作る動きに見えましたが愛媛FCレディースの選手が寄せてこない。目の前のコースが空き、左脚を振り抜くミドルシュート。36分に愛媛FCレディースのゴールネットを揺らし、浦和レッズレディースは2-0とリードを広げます。そのまま飲水タイムへ。あまりに素晴らしいシュートであったためざわつくスタンド。この日もマスク着用がルールで、座席は間隔が空けた指定席ですが、皆、どうしても、今すぐに、塩越柚歩選手のシュートの素晴らしさを話したくなってしまうのです。スタンドの至る所で会話が始まります。

洗練され無駄なく試合の主導権は譲らない

水谷有希選手がワントップの位置で縦パスを受け、反転しようとしたところで倒されます。ペナルティエリア内なのでPKをゲット。自らGKの逆をとって左サイドに蹴り込みました。これで3-0。直後の40分に愛媛FCレディースの筬島彩佳選手のコーナーキックを上野真実選手が、まるで澤穂希選手のようにニアサイドで合わせて得点。愛媛FCレディースが1点を返します。ただ、試合の流れは、この得点でも変わることなく、常に浦和レッズレディースが試合を支配し続けます。前半終了間際の43分に猶本光選手が完璧なトラップでシュートを打ちやすい場所にボールを止め、長い距離のシュートをゴール左隅にコントロール。これが決まり4-1と再びリードを広げます。

3.簡単にボールを奪われないピッチ上とスタンドの共通認識!

実は、前半で最大の歓声が沸いたのは自陣でのパスワーク

浦和レッズレディースの真骨頂は44分。自陣の右コーナー前で水谷選手がクロスの跳ね返りを受けるピンチ、ここで愛媛FCレディースに囲まれると大ピンチを招きます。縦にパス。柴田華絵選手が受けるが厳しいマークの相手を背負い振り向けず。その間にポジションをペナルティエリア内右ギリギリに変えた栗島朱里選手が柴田華絵選手からバックパスを受け、今度は逆にダイレクトの浮き球で柴田華絵選手へ。柴田華絵選手は胸で落としたボールをタッチライン側の水谷有希選手に託し、水谷有希選手は自分の内側、ペナルティエリア角に下がってきた猶本光選手にスピードの速いグラウンダーのパスを預け、猶本光選手がそれをダイレクトで清家貴子選手へ。自陣深くの難しい局面を脱しただけではなく、ここから高速ドリブルが得意の清家貴子選手によるカウンターアタックが開始されます。このとき、前半で一番大きな拍手が湧き起こりました。適切なポジションに立つことでパスコースを生み出し、無駄なボールロスをしない浦和レッズレディースらしい展開が、最も表現されたシーンでした。ここでスタンドのボルテージが最高潮になることから、浦和レッズレディースの目指すサッカーが、いかに、ファン・サポーターに浸透しているかが分かります。声を出して応援できなくとも、ピッチ上とスタンドの共通意識が、ホームゲームの空気を作っています。選手たちも、自信を持ってパスを繋いでいきます。

前半が終了し、引き上げてくる選手たちに、多くのファンサポーターは拍手を贈ります。そのため、ハーフタイムになっても全ての選手がピッチから去るまで、ファン・サポーターは、なかなか席を立ちません。

ボールを動かし愛媛FCレディースを消耗させていく

コンパクトな守備陣形が強みの愛媛FCレディースですが、守備の位置が下がります。大量リードを許しているのですから、これは意図的ではなく、ラインを上げられなくなったのだと考えられます。そのため、浦和レッズレディースは容易にボールを前に進められるようになり、愛媛FCレディースのペナルティエリア内のパスが増えスタンドが湧きます。そうかと思えば、愛媛FCレディースのディフェンスラインの裏側に誰かが抜け出して、長めのクロスを入れて決定機を生み出します。無理に攻め急がない。いたずらに体力を消耗するプレーもしない。でもボールは回り、浦和レッズレディースの選手はパスコースを生み出すための短い距離の動きを止めずに繰り返します。

安藤梢選手のゴールは、ファン・サポーターと選手を繋ぐプレゼント

中盤のファールで笛が鳴ります。ほんの一瞬の空白。素早いリスタートの縦パスを受けたのは安藤梢選手でした。前に持ち出してドリブルを進め、ペナルティエリアに侵入した安藤梢選手が左足を振り抜き、見事にコントロールされたグラウンダーのシュートは愛媛FCレディースのゴールネットを揺らしました。ここまでの4得点とは違うメッセージのこもった拍手。それは「歓喜」というよりも「祝福」でした。浦和の女子サッカーを支え、日本の女子サッカーを背負ってきたレジェンドは、暖かな拍手に支えられて、この試合を90分間フルタイム出場します。

4.ボールを奪われても、その瞬間にボール回収に動ける距離感で攻め続ける!

先制点を奪い、確実に相手を仕留める。今シーズンの浦和レッズレディースは、実に安定した戦いを続けてきました。終盤に動きが落ちることなく、ピンチを作ることも少なく試合をクローズしています。なぜ、今シーズンは、このような安定した試合運びになったのか。選手の動きが落ちなかったことについて、塩越柚歩選手は、試合後のインタビューで、このように理由を語っています。

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