WE Love 女子サッカーマガジン

ユニフォームに残す「ベガルタ仙台の味」とは何か?マイナビ仙台のエンブレムは?マイナビ社長室に聞く

「・・・第5WEリーグ理事会で承認されました。それでは早速、参入クラブを発表いたします。マイナビ仙台レディース・・・。」20201015日に岡島チェアはWEリーグ参入クラブを発表しました。岡島チェアが緊張した面持ちで、最初に名前を読み上げたのはマイナビ仙台レディースでした。これを聞いて仙台のサッカー関係者、ファン・サポーターは、きっと安堵に胸を撫で下ろしたことでしょう。その後、記者会見は進み、参入クラブの代表による挨拶で司会者から紹介を受けたのは株式会社マイナビ社長室 室長補佐・粟井俊介さんでした。「ベガルタ」の四文字はなく「マイナビ」であり「社長室」というサッカーの現場からは少し距離を感じる部署名が読み上げられたとき、マイナビ仙台の経営権移管を、改めて実感した人も多かったことと思います。そして、象徴的だったのが、エンブレムの表示です、10クラブはエンブレムを表示していますが、マイナビ仙台だけは空白になっていました。

それから12日後の20201027日に株式会社マイナビによる記者会見が行われました。大きな驚きをもって報じられたのは「全選手と原則プロ契約を結びたい」という発表でした。全選手とのプロ契約を義務付けていないWEリーグで、いち早く、この発表をしたことは、多くのサッカーファン・サポーターから歓迎され、この記者会見に強いインパクトを残しました。同時に「ユニフォームはマイナビのコーポレートカラーであるブルーを予定している。どこかにベガルタ仙台の味が残るようなユニホームに仕上げたい」と発言があり「味」とは何なのか?話題になりました。いうまでもなく、株式会社マイナビは日本社会を支える大企業です。こうした企業がWEリーグクラブの経営に乗り出すことからもWEリーグの大きな可能性を感じます。ただ一方で、マイナビ仙台レディースは、全く新しい新参入クラブなのか、それともベガルタ仙台レディース、東京電力女子サッカーチームマリーゼ、YKKフラッパーズの系譜を受け継ぐクラブなのか、多くの人の心の底に微妙な疑問が残されたままであったことも事実です。そこで、今回は株式会社マイナビ社長室 室長補佐・粟井俊介さんに、気になる疑問に直撃するインタビュー取材をさせていただきました。筆者は、株式会社マイナビから、現時点で最大限の回答をしていただいたと思っています。あの空白を少しばかり埋められる記事となっています。

YKKフラッパーズ(1997年に宮城県で設立)が起点

本題に入る前に、マイナビ仙台レディースのここまでの歴史と株式会社マイナビについておさらいしておきましょう。起点は宮城県志田郡三本木町(合併により現在は宮城県大崎市の一部)です。YKKフラッパーズは1997年に、ここで設立され2000年からL・リーグ(現・プレナスなでしこリーグ)に参戦。2004年にYKKから東京電力にチームが移管されました。当時、東京電力は、このように発表しています。「東京電力株式会社は、女子サッカーチームを企業のシンボリックな強化スポーツとして運営することにより、職場の活性化を図るとともに、日本のスポーツ振興ならびにチーム本拠地地域の活性化に貢献してまいりたいと考えております。」活動拠点は、同じ東北地方の福島県双葉郡にあるJヴィレッジになりました。チーム名は東京電力女子サッカー部マリーゼ。現在は、なでしこジャパンのコーチを務める大部由美さんら、多くの選手がマリーゼ所属となり東京電力の社員として働きました。2011年に東日本大震災が発生し、東京電力女子サッカー部マリーゼは活動を停止します。2012年に東京電力女子サッカー部マリーゼの選手たちを受け入れてスタートしたのがベガルタ仙台レディース(当時)です。2016928日に株式会社マイナビとタイトルパートナー契約を締結し、翌シーズンより名称がマイナビベガルタ仙台レディースとなっています。2020年9月1日に株式会社マイナビが配信したプレスリリースには「『マイナビベガルタ仙台レディース』の意志を引き継ぎ活動していきます。」と記載されています。

常に変化と進化を続けてきた株式会社マイナビ

国内外76ヶ所に事業所がある株式会社マイナビですが、東北地方は秋田県を除くと全ての県に事業所があります。人材ビジネス領域(就職・転職・アルバイト等)の印象が強いマイナビグループですが生活情報ビジネス領域(ウエディング、ニュース、農業等)も展開していて、人生のさまざまなシーンに寄り添う総合情報サービス企業です。社会が必要とするサービスを提供するために、常に変化と進化を続けてきた企業といえます。

活動拠点はマイナビベガルタ仙台泉パークタウンサッカー場

チーム名称:マイナビ仙台レディース
ホームタウン:宮城県仙台市
ホームスタジアム:ユアテックスタジアム仙台
活動拠点:マイナビベガルタ仙台泉パークタウンサッカー場

マイナビベガルタ仙台レディースと関わりの薄い方には馴染みがないのですが、マイナビベガルタ仙台レディースの練習場はベガルタ仙台トップチームとは別の場所にあります。この練習場には「マイナビベガルタ仙台レディース棟」「ベガルタ仙台アカデミー棟」が連なった2階建てのクラブハウスがあります。周辺には、フットサル場、テニスクラブ、乗馬クラブ、ゴルフ場があるスポーツ環境の整った地域。仙台白百合学園、宮城大学、仙台泉プレミアム・アウトレット、それに、FIFAワールドカップ2002日韓大会でイタリア代表が宿泊地としていた仙台ロイヤルパークホテルもすぐ近くです。こうした練習環境やホームスタジアムは、これまでと変わらず継続を明言されました。

では、ここからは株式会社マイナビ社長室 室長補佐・粟井俊介さんのインタビューです。

マイナビはなぜWEリーグに参入するのか?早くから女子サッカーのポテンシャルを感じていたマイナビ

粟井–株式会社マイナビは、今までも、ゴルフ、プロ野球の「マイナビオールスターゲーム」、ビーチバレー、フェンシング、カヌー等、様々なスポーツ大会、選手をスポンサードという形で応援してきました。「夢や目標に向けてチャレンジする人々を応援する」ことにより、我々のユーザに勇気をお届けしてきました。「マリーゼから引き継がれたベガルタ仙台レディース」とは2016年から関わらせていただいています。ユニフォームの袖スポンサーとなったことが始まりです。ベガルタ仙台との関わりでいえば2014年に、東日本大震災復興の取り組みに共感してスポンサー契約をさせていただいたのがきっかけです。また、女子サッカーに関しては2013年から全日本高等学校女子サッカー選手権に協賛させていただいています。ですから、女子サッカーのポテンシャルを以前から感じていたことも、今回のWEリーグ参入の背景としてございます。新たにプロクラブを運営する上で、当社の想いが2つあります。「『女子プロサッカー選手』という存在が、女性アスリートの新たなキャリアとして成立する世界を作りたい」・・・これはWEリーグが掲げている「女性活躍社会」の推進シンボルに重なるものです。(女性のキャリアの)一つの選択肢として、しっかりと「女子プロサッカー選手」の存在を示していきたいです。もう一つは「各選手たちがプロサッカー選手という生き方を、どのように迷い悩みながら選び、壁にどのように向き合ってきたかという『人々の前向きな人生』に役立つメッセージを世の中に発信していきたい。」・・・私たちは、これまでの事業で、生き方の悩みを持った方をサポートしてきましたので、クラブの経営を通じて、先駆者として走っていく女子プロサッカー選手たちの考え、人生観を、世の中にメッセージとして発信していきたいです。

方針は3つあります。

チームはこれからも、仙台を本拠地として活動します。
伝統、想いをしっかりと引き継いだ上で東北、仙台からWEリーグを盛り上げていきたいと考えています。「仙台、東北から、日本へ、世界へ!」です。

WEリーグ初年度より、所属選手全員とのプロ契約締結を原則とします。
先日の記者会見で、所属選手全員とのプロ契約締結(原則)を発表させていただきました。リーグが求めている基準(プロA契約選手5名以上およびプロB・C契約選手[最低年俸270万円(消費税別)]10名以上と契約、他はアマチュア契約可能)以上とします。選手は技術面や戦術面の向上にかけられる時間が多くなるだけではなく、今以上にコミュニケーションもより円滑になります。何よりも、プロとして逃げ道を作らずにサッカーに向き合う環境を、まずは経営としてしっかりと用意したいと考えています。

ユース、ジュニアユースの運営を引き継ぎ、強いチームづくりに向けた育成システムを完成させます。
当クラブは、ユース、ジュニアユースの育成システムが、まだ完成していないです。ユース、ジュニアユースも当社が引き継ぎます。マイナビベガルタ仙台泉パークタウンサッカー場に隣接する仙台白百合学園が2年前に校庭を人工芝にして夜間照明を設置しました。その資金を当社が支援させていただき、仙台白百合学園の校庭がユースチームやジュニアユースチームの練習場所になっています。仙台白百合学園には女子サッカー部はないのですが、ユースチームやジュニアユースチームの中には仙台白百合学園に籍を置き、遠方から寮に入り生活して練習している選手もいます。この育成システムを引き継いで、WEリーグに選手を引き上げていく仕組みを完成させていきます(現在の連携協定はベガルタ仙台と仙台白百合学園の間で締結)。

マイナビグループの事業とのコラボレーションも具体的に検討

粟井–マイナビグループの事業との連携は(当社が事業を譲り受けた後に)様々、考えられるのですが、現時点でも一例があります。マイナビアスリートキャリアというサービスがあります。現役アスリート(学生、社会人)あるいは元アスリートを企業や団体に紹介する人材紹介サービスです。マイナビアスリートキャリアの中に「マイナビアスリートキャリアスクール」があります。ビジネススキルをアスリートに身に付けていただいて、セカンドキャリアやデュアルキャリアの即戦力となるようにスキルアップをしていただくためのスクールです。マイナビ仙台の一部の選手に、このスクールの講師として活動してもらう予定があります。こうした事業とのコラボレーションが、今後も考えられます。また、 ⼀般社団法⼈ ⼤学スポーツ協会(UNIVAS)とパートナーシップ契約を結び、各種の大学スポーツについてキャリアデザインの観点から支援する取組みを進めています。  

WEリーグは「⼥の⼦の夢から限界をなくせ」とメッセージを出されていますが、マイナビは、それを支援することに加えて、女性のプロスポーツの限界としてスポーツ界がなんとなく考えていることを突き破っていこうとする意気込みを感じますがいかがですか?

粟井–女性活躍社会といわれていますが、女性アスリートもプロとして生きる選択肢が男性より多くないと思います。WEリーグ参入のお話をいただいたとき、マイナビグループがWEリーグを共に盛り上げていく過程が、当社がこれまでキャリア支援の事業で取り組んできた考えを、改めて社会に投げかけられる機会になっていくと感じています。

「女性のプロアスリートを育てる」「女性のプロスポーツエンターテイメントを創っていく」使命感を、お話から強く受けるのですが、それとは別にマイナビグループの「事業としての魅力」はどこにありますか?

粟井–実業としてスポーツビジネスに取り組むのは初めてです。厳しさや、他のビジネスとの商慣習の違いもお聞きしています。ただ、当社はいわゆるブランディングに関わる事業を行ってきています。人材だったら「採用ブランディング」、生活情報だったら「企業ブランディング」・・・企業のブランディングに寄与する事業をさせていただいた立場から申し上げると、「スポーツの持つ力」を支援していくことでマイナビの事業との融合ができると、私自身は思っています。そして、女子サッカーそのものに魅力があると思います。海外の女子サッカーを見ると、(日本の現状よりも)もっと可能性があると思います。実際に、私もスタジアムで試合を見ると「男子サッカーにはない面白さ」があると感じています。そうした部分を、丁寧に一人でも多くの方に伝えていくことが重要だと思っています。真面目に、真摯にやっていきたいと思っています。

—ここで少々デリケートな話なのですが、チームカラーとエンブレムについてうかがいます。

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