WE Love 女子サッカーマガジン

WEリーグのパートナーシップを企業側とクラブ側から考える 大和シルフィードの冷静と情熱のあいだ

2020プレナスなでしこリーグ2部を戦う大和シルフィードは、初年度でWEリーグ参入を果たすことができませんでした。しかし、大和シルフィードの取り組みは、全国の女子サッカークラブの中でも異彩を放ち……いや、先頭を走っているといえるかもしれません。多方面から注目を集めています。大和シルフィードはプロ化を見据えて株式会社となりました。代表取締役を務めるのは大多和亮介さんです。横浜F・マリノスのメディア&ブランディング部・部長を勤められていた大多和亮介さんは女子サッカーの可能性と本気度に惚れ、2020年に大和シルフィードの経営に参加されました。それから、大和シルフィードは大きく変わりました。首都圏ベッドタウンの目立たない女子サッカークラブにすぎなかった大和シルフィードが、これまでにないチャレンジをし始めたのです。202010月は大和シルフィードの先進性を感じさせるイベントが2つありました。一つは「サーキュラーHRイベント第四弾スポーツの観点から『働く女性のヘルスケア』について考える」イベント。この #女子サカマガ でも、大変大きな反響を呼びました。2つ目が、今回、ご紹介する「HDIアカデミー2020KCSアカデミー2020」です。会場は西新宿の京王プラザホテル。多数のビジネスパーソンが来場し中継も行われました。その初日、2020年10月22日の10時から大多和亮介さんが基調講演を行ったのです。

大多和亮介さん

大和シルフィードの情熱とHDIの冷静、両側からパートナーシップについてお話を聞きました

大和シルフィードは、現在、プレナスなでしこリーグ2部。今シーズンは第5節まで無敗でスタートダッシュし、リーグ終盤戦まで上位争いに加わっています。2019プレナスなでしこリーグ2部は降格ラインギリギリで苦戦し続け8位だったことを考えると、大多和亮介さんが加わった2020プレナスなでしこリーグ2部は大躍進です。大和シルフィードの情熱については、記事の後半でご紹介します。

大多和亮介さんが基調講演を行った「HDIアカデミー2020KCSアカデミー2020」を主催したのはHDI-JapanHDIは、国際認定資格制度を運用する、ITサポートサービスにおける世界最大のメンバーシップ団体です。HDIは世界で50,000を超える会員を有し、米経済誌フォーチュン・世界企業上位の多数が加盟、世界中に100の支部/地区会を有しています。HDIが提供するものの一つに、例えば、国際的に大変優れたサポートセンターを認定する「サポートセンター国際認定」があります。現在のビジョンは「卓越したカスタマエクスペリエンスでビジネスを成功させる」ことです。記事の前半では、HDIが、なぜ、何を評価して大多和亮介さんに基調講演を依頼したのかをご紹介します。冷静な判断を説明してくださったのはHDI-Japanの櫻林亜佐子さんです。

HDIアカデミー2020KCSアカデミー2020

サポートサービス業界が女子サッカークラブを呼ぶ明確な理由があった

—WE Love 女子サッカーマガジンをご覧になっている読者にHDIの説明をしていただくところからインタビューを始めさせていただきます。

櫻林–私たちはサポートサービス業界に特化したメンバーシップをベースとしてサービスをクライアント企業に提供しています。会社の中でもサポート部門は業務を理解されていないことが多く、女性のパートさんがやる裏方のようなイメージで見られています。しかし、本当は会社にとってとても大切な部署であるという理解を進め、サポート部門の地位を向上することを目指しています。

—コールセンターをはじめとするサポートセンターはお客様と対面して大変なお仕事ですが、プラスに評価していただくことは少なく、クレームを受けたときのマイナス評価が前面に出ることが多いですね。

櫻林–今は、様々な年齢層、属性の方が「手軽に情報を得たい」と考えています。チャットで質問したりするケースも増えています。「FAQの充実で問い合わせを減らす」という戦術の企業もあります。そうした企業とお客様に、少しでも力になれるように、格付け評価やトレーニングを提供しています。私たちは、格付けの三つ星を取得している企業様は「感動を与えられる企業」だと考えています。問い合わせを気軽にしていただいたお客様が「予想以上のサービス」を受けられたときに感動される。それが3つ星に相当するという考えです。お客様が感動するサービスを提供できるよう、私たちはクライアント企業をサポートしています。

—櫻林さんは「HDIアカデミー2020KCSアカデミー2020」ではどのようなお仕事をされたのですか?

櫻林–私はイベント担当ですので、1月頃から、お呼びするスピーカー(講師)の選定、プログラム等の企画の軸を決め、その後は会場のホテルとの連携、お客様への発信の業務も含めて担当しました。当日はMCも担当しました。

櫻林亜佐子さん(HDI-Japan)

—なぜ、大和シルフィードの大多和亮介さんが登壇することになったのでしょう?

櫻林–HDIアカデミーでは、冒頭に基調講演を行います。昨年は弊社の代表取締役CEO・山下辰巳が基調講演を行いました。毎年ではありませんが、サービスサポート業界とは異なるジャンルからお呼びしたゲストスピーカーによる目玉のセッション(基調講演)を行うことがあります。私から、上司に、大多和亮介さんに登壇していただくプランを提案しました。大多和亮介さんに来社していただき代表取締役CEO・山下辰巳ともミーティングを実施して決定しました。女性が集まるチーム、女性が多い組織という点で、サービスサポート業界と女子サッカークラブには大きな共通点があります。

—今のお話を聞きながら、サポートセンターのご苦労を想像しました。「HDIアカデミー2020KCSアカデミー2020」の来場者は男性が多かったです。男性のトップが率いる女子サッカークラブに来場者は興味を感じたのだと、現場で見ていて思いました。実現に至るまでに、社内で、そのようなお話はありましたか?

櫻林–ご来場者をイメージしたときに「女性職員が多いサポートセンターのセンター長さんやSV(スーパーヴァイザー)さんには、女性職員をまとめることに苦労されている人がいるのではないか」という話を社内でしていました。ただ、弊社から大多和亮介さんへ、そういうことを意識した話をしてほしいとリクエストすることは、特にはなかったですね。大多和亮介さんが用意された講演内容が最初からそのように意識されたものになっていました。この基調講演を女性の立場で聞くと「理解してもらえてありがたい」という反応を持つ人もいるだろうし、男性の立場で聞くと「自分が同じようにリーダーだったらこうすれば」と共感してもらえるだろうという内容でした。

現場の手応え・・・来場者にメリットがある基調講演を行えた

—基調講演の中で「チェルシー女子チームが専用アプリを導入し、月経周期を意識したトレーニングメニューを作成している」事例が出てきました。あのような具体的な事例を目の当たりにすると、意識が変わりますね。

櫻林–そうですね、それを上司も言っていました。大多和亮介さんのような、WEリーグ参入を目指す女子サッカークラブのトップでJリーグの社会連携本部プロデューサーをされている人が公の場で月経について堂々と話す・・・「『それってタブーじゃないんだ』という雰囲気を作れることが、とても良かった」と言われました。これまで、一般企業に勤めている男性にはアンタッチャブルだった思うのです。でも、それに対して、具体的な取り組み例を基調講演で話せたのは、とても大きなことだと思います。

—現場での手応えはありましたか?

櫻林–月経周期を意識したトレーニングメニューのところで反応を感じました。ビジネスの現場で、このような考え方を取り入れている例を聞いたことがありません。だから目新しい話だったと思います。「HDIアカデミー2020KCSアカデミー2020」終了後も様々なご意見をいただいています。月経周期など体調のサイクルに合わせたマネジメントについて興味を持たれた方、女性目線で考える機会の重要性を認識してくださった方、メンタルが安定していることが重要な職場には有効な内容だとお考えの方・・・。

—今回の基調講演は成功だったと思いますか?

櫻林–やって良かったと思います。大多和亮介さんには、弊社の考え方を共有してセッションしていただきました。この内容ならば、基調講演を聞いてくださる来場者にメリットがある。サポートセンター業界内の事例とは違った観点でお話をしていただくことに価値がありました。そして、大和シルフィードのスポンサーセールスを目的とした話にならなかったことが、弊社にとってはとても良かったです。

 

さて、ここからは大和シルフィード側に視点を移して、大和シルフィードの情熱についてご紹介していきます。HDI-Japanの櫻林亜佐子さんは「HDIと大和シルフィードのWIN-WINの繋がりが出来た」と言われました。「ただ、本当に良かったのかどうか……。」とも言われました。筆者は、この取り組みに、何一つ疑問を感じるところはありませんでした。なぜなら、1990年代の前半から中盤の記憶があるからです。

—私はとても良かったと思います。1993年にJリーグが始まったばかりの頃は、川淵三郎チェアマン(当時)がビジネスパーソンの集まる会場で講演を頻繁に行っていました。確か、「新しいことに挑戦する」「公共財としてのスポーツ団体」「スポーツの価値を変える」話だったと思います。その後、多くの企業とパートナーシップを結び、Jリーグのビジネスは飛躍的に拡張しました。今は、WEリーグが始まる直前で、Jリーグが始まった直後と似た状況なのだと思います。女性が多く働く職場のビジネスパーソンは、女子サッカークラブのマネジメントの話を聞きたいと思います。

櫻林–そうですか、間違っていなかったですか?

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