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ハイライン! 大嶽直人監督による「シームレス」なサッカーの体現を目指す畑中美友香選手(伊賀FC) #女子サカ旅

プレナスなでしこリーグは、細かくパスを繋いだ華麗な攻撃が注目されやすいリーグです。そんなリーグに、守備の強度で特徴を打ち出しているクラブがあります。伊賀FCくノ一三重とノジマステラ神奈川県相模原です。両クラブの共通項は監督です。伊賀FCくノ一三重の大嶽直人監督、ノジマステラ神奈川県相模原の北野誠監督、いずれも京都パープルサンガ(現・京都サンガ)でプレーして引退しているのです。2人の監督は、男子のトップクラスの厳しいリーグでプレーした経験を生かし、これまでの女子サッカーの常識に囚われない指導をしてきました。

大嶽直人監督 提供:伊賀FCくノ一三重

あのドーハの悲劇の当事者・大嶽直人監督の目指すサッカーとは?

今回は、伊賀FCくノ一三重の大嶽直人監督の目指してきたサッカーを畑中美友香選手へのインタビューから探ります。また、最後に #女子サカ旅 として、大変だった遠征のお話と、厳しい大会の後に痩せるのとは逆に増量してしまった福井での体験もご紹介します。

畑中美友香選手は、プレナスなでしこリーグでは珍しい「2世選手」です。お母様は14歳でイングランド女子代表戦に出場し、日本女子代表の最年少出場記録を保持しています。大阪府高槻市ご出身の畑中美友香選手は、高校1年生のときにスペランツァ大阪高槻に加入。高校卒業を機に伊賀FCくノ一三重に移籍。6年目の選手です。2016年にはU-23日本女子代表としてラ・マンガU-23女子国際大会に出場。2019年には、なでしこジャパンに挑戦する選手たちを発掘・育成・強化するプロジェクト・なでしこチャレンジの合宿メンバーに選ばれています。

提供:伊賀FCくノ一三重

畑中–伊賀FCくノ一三重は「縦に速いサッカー」とよく言われます。ボールを奪った後は、すぐにフォワードに直結する「ダイレクトプレー(ダイレクトにゴールに直結させるプレー)」が縦に入って、それが攻撃のスイッチになります。

—「ダイレクトプレー」は伊賀FCくノ一三重を象徴するキーワードだと思うのですが、他にもキーワードを挙げると何かありますか?

畑中–「ハイプレス」だと思います。「ハイライン」で後ろもラインを上げていくのが伊賀FCくノ一三重の特徴だと思います。ラインが高いと、どの対戦相手も考えることは一緒です。裏を突いてくることが増えてくると思います。しっかり準備をして、ラインコントロールをみんなで注意しています。

—大嶽監督が、今のスタイルに向けて、最初に、どのあたりからチームに手をつけたのかが気になりました。というのも、日本の女子サッカーの伝統的なやり方を好まれる方からすると、ちょっと違和感があるサッカーだからです。

畑中–最初は、監督が大嶽さんになった瞬間にハイプレスの練習しかほとんどしなくなって(笑)……周りを気にせず、まずはボールに誰かが行くという決まりができました。基本はボールに必ずプレスいくやり方です。初めは多分、監督から見たら「みんなが後ろを気にしている感」があったと思うので、まずはボールに行くという感覚を付けさせたかったからか、ボールを奪いに行くハイプレスの練習をとことんやっていました。それまでは、後ろの状況をしっかりと確認して、準備ができたらゴーっていう感じだったのですが、そうじゃなくて、まず行ける人がボールに行けば、自ずと後ろはポジションが変わってくるから「後ろは気にするな! ボールに行け!」と指示されました。自分がボールに行けば自分で奪える場合もありますし、奪い切れないときでも、次の人は声をかける必要がなく動きます。前の人の動きでポジション決めてセカンドボールを奪います。自分が後ろになった場合、次の狙いどころがはっきりしたので、「これは自分自身の特徴を出すに合っているサッカーなのかも」と思いました。ちょっとずつ大嶽さんの目指すサッカーを掴んできたと思います。

—最初は、選手の皆さんが戸惑ったのでは?

畑中–「これも行って良いのぉ?」くらい分からなくて……さらに紅白戦では休憩するところがない。1人がボールに行ってしまえば、みんな動かないと駄目です。スプリント量が増えて……練習には走り込みのメニューもありますが、それよりも紅白戦がしんどくて……。

—「海外では練習の中で走り込む」と聞くことがありますが、それに近いかもしれませんね。最初は理解に個人差があったのでは?

畑中–監督が前向きで「出来なくても良いから初めはチャレンジしてほしい」という声かけをされていたので、選手は「とにかく一回はやってみよう」という雰囲気になりました。戸惑う部分はあったけれど、チームの雰囲気は良い方向に持っていけたと思います。

—畑中選手は抵抗なくやれたのではないかと想像していました。今の伊賀FCくノ一三重ほどではないですが、畑中さんが高校生時代にプレーされていたスペランツァFC大阪高槻(当時は本並健治監督)はコンパクトな守備のやり方に見えたからです。だから、畑中さんは、大嶽さんのサッカーに入りやすかったかな?なんて思いました。

畑中–自分の中で「これでいいんや!」と、自分の中で考えている(理想の)プレーとマッチする部分がったので、楽しかったです。しんどい中にもワクワク感があって、すんなり自分の中に溶け込んだ感じはありました。

提供:伊賀FCくノ一三重

プレスとはプレッシャー?プレッシング?そして「シームレス」とは?

—プレスの意味は「プレッシャー」のことか「プレッシング」のことなのか、伊賀FCくノ一三重の場合は、どちらの意味でしょうか?

畑中–両方あると思います。ボールにしっかりと寄せるところだったり、一人が寄せたら、そこに誰かが(前から)戻るスピードだったり、全てにおいてスピードが必要になってきます。でも、長い距離より、どちらかというと短い距離でパワーを使うことが多いですね。

—短い距離というのが、大嶽監督の言われる「シームレス」なのでしょうか?

畑中–「シームレス」……最近、よく言われます。ボールが自分の所に入ってくる前に良いポジションをとっておけば、FWにボールが入ったときに、すぐにボールにアプローチできる距離になる。それを求められています。先に良いポジションをとっておけば長い距離を走らなくてもボールを奪えると思うので大事なことだと思います。

—大嶽監督は「ポジショナル」といわれているサッカーをやっている監督だと思うのですが、最終ラインに参加されている畑中さんからすると守備の準備にも一体で繋がる攻め方(シームレス)はどうなのでしょうか?

後から「指示をする」よりも「情報を与える」

畑中–「センターバックがハーフウェイラインを越えてアンカーの脇に出たり、相手がいないときはセンターバックの一枚がアンカーの役割をしても良い」「『センターバックだから真ん中の後ろにいる』ではなく必要だったらどんどん前に出て良い」と言われています。リスク管理と状況判断は、今でも自分の課題と思っています。

—センターバックが上がることについて「攻めの枚数を増やす」という考えと「前にスペースがあって使われるとピンチになるので守備のためにスペースを潰す」という2つの考えがあると思うのですが、主にどちらですか?

畑中–自分の中の解釈は、一番の仕事は失点しないことなので、相手に攻撃の起点を作らせないために、自分が前の位置をとって潰したいと思っています。だからスペースを埋める守備的な意味で前のポジションをとっていることが多いです。一対一が強い宮迫選手とセンターバックを組んでいるのですが「宮迫選手と相手が一対一の状況になってでも前に出ろ(数的優位を作らなくても良い)」と監督から言われることがあるので、リスクがあっても信じて前に出ることを試行錯誤しながらやっています。センターバックを組む相手によって得意なプレーも変わるので、みんなでの良さを出せるように、やり方を話し合ってやっています。

—後ろの声が重要になると思うのですがいかがですか?

畑中–後ろから視野は前の選手よりも広いと思います。後から「指示をする」というよりも「情報を与える」ことが多いと思います。「いるよ!」とかを伝えて、みんなで情報を共有して正しいポジションを取ることが多いです。ちょっと「情報を与える」と、自分のプレーに集中できます。「指示をする」と、相手を動かしたりして少なからず自分のプレーへの意識が少なくなっていまします。

—GKとの距離はセンターバックが気にする必要があるのか、GKに任せれば良いのかどちらですか?

畑中–GKのタイプによって自分たちの位置が変わります。今シーズンの出場が多いGKの井指選手は、自分たちが高い位置を取ると高い位置をとってくれます。(DFが抜かれても)出てきてくれるGKなので、井指選手の位置は任せています。

提供:伊賀FCくノ一三重

スペインのやり方に近い大嶽監督の考えるデュエル(一対一)

筆者は、畑中美友香選手のお話を聞くにつれ、以前に掲載した十川ゆき選手のインタビューを思い出しました。スペイン流の守備の間合いの取り方を習得するのに苦労したお話です。「(守備者は)止まらないで突っ込んでくる感じで、交わされたならば振り切られる前に手で引っ張ってでも止める。」「コーチに『止まるな』って2ヶ月くらい言われ続けました。」。 それが十川ゆき選手の感じたスペインサッカーでした。大嶽直人監督の指導は、それに近いのかもしれません。

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