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金メダルは獲りにいきます! 高倉麻子監督が語るなでしこジャパンの2021年

新年あけましておめでとうございます。2020年の元日に続き、今年も東京オリンピック直前の元日がやってきました。2021年の #女子サカマガ は、高倉麻子なでしこジャパン監督のインタビューから始まります。ご存知の通り、なでしこジャパンは東京オリンピックで金メダル獲得を目指しています。早速、1月26日(土)を皮切りになでしこジャパン(日本女子代表)候補トレーニングキャンプが始まります。こうしたトレーニングキャンプは7月まで毎月行われます。214()26()1年ぶりの国際試合となるSheBelieves Cup(米国遠征)。48()にユアテックスタジアム仙台で国際親善試合。411()にも国際親善試合を予定(開催地未定)。610()にエディオンスタジアム広島と613()にかんせきスタジアムとちぎで国際親善試合を連戦。714()のサンガスタジアム by KYOCERAで壮行試合を行い、本大会へ臨みます。2020年から延期され、やっと本番を迎える東京オリンピックに向けて、高倉麻子なでしこジャパン監督の決意と2021年の展望をうかがいました。

※スケジュールは、いずれも12月16日発表時点のものです。

高倉麻子監督

世代の間に穴を開けずに強化を継続 なでしこチャレンジトレーニングキャンプ

 —まず、12月7日(月)から行われたなでしこチャレンジトレーニングキャンプについて教えてください。

高倉–なでしこチャレンジトレーニングキャンプはU-20日本女子代表となでしこジャパンの間のポジションにいる選手を対象に、定期的に行っています。日本の女子サッカーの世代の間に穴を開けずに強化を継続していけるようにやっています。2020年はコロナ(COVID-19)の影響を受けました。規模が小さくなりましたが、トレーニング期間が短くなっても続けていくことが大切だと思っています。

まだ、なでしこジャパンの招集に該当しない選手を集め、なでしこジャパンが求めているプレーのポイントを伝え、アドバイスします。選手は、何かをきっかけにプレーが飛躍的に伸び、本人の意識が変わることがあります。なでしこチャレンジトレーニングキャンプを機会に選手のパフォーマンスが伸びてほしいと思っています。同じチームメイトとずっと練習していると、視野が狭くなるところがあります。所属チームと違う環境、違う選手たちと一緒にトレーニングすることで気づきを得てもらう狙いがあることを所属チームに説明し選手の参加をお願いしています。もちろん、パフォーマンスがよければ、すぐにでもなでしこジャパンに招集されるので、選手にとってチャンスだと思います。

—高倉監督はプレナスなでしこリーグで、かなりの試合数を観戦されています。事前に選手各々の課題をお持ちになって、なでしこチャレンジトレーニングキャンプで、それについて具体的に指導されることもあるのですか?

高倉–選手は、指導者と接して、いろいろな会話をして、どんなヒントを取り入れるのか自分で拾っていくものだと思っています。指導者Aさんが言った●●が響く、指導者Bさんが言った▲▲が自分に入りやすい……。優秀な一人の指導者が一人の選手を育てるケースもありますが、多くの選手はみんなに育てられるのだと思います。私は、試合を見て、もちろん良いプレーをしている選手をなでしこチャレンジトレーニングキャンプに呼ぶのですが、「この選手のプレーを変えてやろう」というおこがましいことは思っていないので、一つのことに固執せず、大きな観点から指導したいと思っています。選手は代表チームに選ばれると、国際試合等で刺激を受けることがあると思います。しかし、そういうチャンスを得られない選手には、なでしこチャレンジトレーニングキャンプのような刺激が必要だと思います。

真剣な眼差しで高倉麻子監督とホワイトボードを見つめる選手たち

選手の強い意志を感じたなでしこジャパン(日本女子代表)候補トレーニングキャンプ

2020年はコロナ(COVID-19)の影響で、代表監督として大変なシーズンだったと思いますが、いかがでしたか?

高倉–3月に2020 SheBelieves Cupに参加して3連敗でした。日本では、とてもネガティブなことを言われていたみたいですが、私たちは「やれること」「やれないこと」をしっかりと整理でき「よし! いよいよ!」という感じでした。帰国したらコロナ(COVID-19)の感染が拡大。東京オリンピックは延期になり……でも、中止にならなかったです。自分たちのチームは若い選手が多くて発展途上です。トレーニングをやればやっただけ強くなると感じているので「時間をもらった」と考えて、やれることはやっていこうと思いました。選手には、いろいろな想いがあると思いますが、辛い中でも、真面目にトレーニングを頑張っていたと聞いています。

—監督から、なでしこジャパンに招集した選手にリクエストしたことはあったのでしょうか?

高倉–代表チームが選手を各チームにお返しした後は、各チームの監督にお任せしています。ですから、選手個人に連絡をとったり、プレーについて言ったりは、基本的にしないようにしています。各チームからどのような状態でトレーニングしているのかの情報を入れていただきました。各チームが、コンディション作りの努力をされていたと聞いています。今年、コロナ(COVID-19)の感染拡大の中で選手のことは気になりましたが、私は、ひたすら……孤独の中にいました(笑)。プレナスなでしこリーグがスタートしてからも、スタジアムでは(感染防止のため)選手と喋ってはダメだったので、遠くから選手が頑張っている姿を見てこっそり帰る寂しい時間を過ごしていました(笑)。

—「監督は孤独だ」とよく言われますが、物理的に孤独だったのですね?

そうですね。私は、これまで、監督として孤独を感じることはなかったのですが、さすがに選手との接点がなくて、ちょっと寂しさがありましたね。

2020年の後半はなでしこジャパン(日本女子代表)候補トレーニングキャンプを組むことができてホッとしましたし、よく組めたな、と思いました。監督は、どのように感じていましたか?

高倉–ああいった状況の中でも、今井純子女子委員長と「いつならできるか」を話していました。4月から5月頃に「夏にトレーニングキャンプをできれば」と話していたのですが、コロナ(COVID-19)の感染拡大状況を見て無理だと判断しました。プレナスなでしこリーグが始まると、今度は、とにかくプレナスなでしこリーグの試合をこなすことが重要なのでトレーニングキャンプをやるわけにはいかない。それで、10月と11月のインターナショナルマッチデーにやろうということになりました。日本サッカー協会の皆さん、医療スタッフの皆さんに感謝しています。

「やっとトレーニングキャンプだ!」というとき、選手の皆さんは良いムードでしたか?

高倉–みんな笑顔でしたね。私も嬉しかったです。ただ笑顔なだけではなく、ここからリスタートして東京オリンピックへ進んでいく強い意志が、一つ一つのプレーに乗っていたと思います。今年のプレナスなでしこリーグで活躍して、なでしこジャパン候補に新たに加わった選手も、全く物おじせずに努力してくれました。新たに加わった選手がチームに与えてくれたパワーは計り知れないと思います。

なでしこジャパン(日本女子代表)候補トレーニングキャンプ

「戦う部分」はサッカーの本質

11月のなでしこジャパン(日本女子代表)候補トレーニングキャンプでは、いわきFC U-18ら、男子選手とのトレーニングマッチが行われました。12月のなでしこチャレンジトレーニングキャンプでも日本サッカー協会からの発信には「プレーの強度」という表現が目立つ、と私は感じました。高倉監督が「プレーの強度」についてお考えのところを教えてください。

高倉–FIFA女子ワールドカップ2011ドイツ大会でなでしこジャパンが優勝する前から、日本の女子サッカーはフィジカル的な要素、つまり早さ、高さ、サイズ、ぶつかり合いの部分が、ずっと課題でした。これを、組織力やテクニックでカバーして世界一に輝いたと思います。その後、各国ともに(組織力やテクニックが)整備されて、今度は私たちがフィジカル的な要素で上回っていかないといけなくなりました。私はなでしこジャパンの監督になったときから、それを強く感じています。ただ「ヨーイどんで走り勝つ」とか「サイズが急に大きくなる」は無理なので「より身体を細かく動かせる技術」等、何点かにフィジカル的な強化要素を絞って地道な努力をして、具体的な数値が上がってきました。ただ、FIFA女子ワールドカップ2019フランス大会の結果を踏まえると、なでしこジャパンはルーズボールの勝率が低く、この改善は世界で戦う上でどうしても外せないです。なでしこチャレンジトレーニングキャンプに参加した選手たちにも、なでしこジャパンに上がってきたときに、すぐに対応できるように指導しています。時間もスペースもない中で、より強く、より速く力を発揮していくには、もう一回り「プレーの強度」を上げていかなければならないと思っています。

なでしこジャパン(日本女子代表)候補トレーニングキャンプ いわきFC U-18とのトレーニングマッチ

日本国内の女子サッカー全般の「プレーの強度」について意識の違いは感じますか?

高倉–日本のサッカーは「パスサッカー」という表現で良いと思います。「いかに大事にボールを繋いでいくか」を志向しているチームが多いです。なでしこジャパンも、より強いプレッシャーがかかる中でも、それを凌駕するようなボールの動かし方や突破のアイデアを追求していきます。例えば、組織をうまく作って3人で相手ボールを奪いに行ってもドリブルで剥がされたら組織は崩壊します。なぜ、組織をうまく作っても剥がされるかというと、最後に「身体が当たる局面の技術」が理由であったりします。プレナスなでしこリーグはレベルが上がってきています。選手の意識も高く、球際の戦っている場面が多くなっていると思いますが、それでも、割と綺麗なサッカーをやりたい傾向があるので、日頃から「身体が当たる局面の技術」に課題を見出すことが少ないと私は思います。でも、国際試合を戦うなでしこジャパンでは「プレーの強度」は重要なポイントです。

プレナスなでしこリーグでは、伊賀FCくノ一三重、ノジマステラ神奈川相模原、スフィーダ世田谷FC、横浜FCシーガルズのように「プレーの強度」に特徴を持って結果を出しつつあるチームが増えてきました。私は、FIFAワールドカップ2019フランス大会の後、日本の女子サッカーの意識が変わりつつあるのではないかと思いながら、そうしたチームの監督や選手にお話を聞くと、みなさん「このサッカーは嫌がられるのですが」とか「煙たがられるのですが」という表現を付けがちです。「本当の日本の女子サッカーはこうではない」「綺麗なパスサッカーが日本の女子サッカーだ」という固定観念が、まだ強すぎるような気がして「もっと日本の女子サッカーは変われば良いのに!」と思います。

高倉–そうですね。本当は「戦う部分」は当たり前で(パスサッカーは)その上でのことです。(「プレーの強度」の部分と「いかに大事にボールを繋いでいくか」の部分の)どちらを先に進めていくかはチームの状況に合わせて監督が決めることです。本当に良いチームは、バイエルン・ミュンヘンでも、ものすごく戦っているじゃないですか。守備のところは泥臭いです。「戦う部分」はサッカーの本質です。だから、私は「局面の弱さ」とか「弱さがあるから試合に負けた」とは言われたくないです。

なでしこジャパン(日本女子代表)候補トレーニングキャンプ

WEリーグが世界一のリーグになることを望んでいます

—高倉麻子さんは、代表監督である前に、日本女子サッカーリーグ〜Lリーグ〜なでしこリーグの先陣を切って牽引された方です(プレナスなでしこリーグの前身の日本女子サッカーリーグの第一号ゴールを記録)。その立場から見られるとWEリーグのスタートをどのように見ておられますか?

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