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字幕翻訳の真実「オリンピック・リヨン-女子サッカー最強チームの真実-」の字幕は、なぜ現場感覚に溢れているのか?

ヨコハマ・フットボール映画祭2021は、2020年1月30日に、WEリーグ誕生記念! 女子サッカーを旅する1日 でスタートします(フットボール文化祭 の開催は見送りになりましたが映画祭は開催されます)。この映画祭で上映される多くは日本未公開作品。ヨコハマ・フットボール映画祭実行委員が独自に字幕翻訳をしています。今回は、作品の中から「オリンピック・リヨン女子サッカー最強チームの真実」を取り上げ、女性と字幕翻訳について考えてみます。字幕翻訳からジェンダー問題も垣間見えます。この記事の発端は一つのツイートでした。

ミーガン・ラピノー選手は世界で最もカッコいい女性アスリートとして紹介されることもある米国女子代表選手です。FIFA女子ワールドカップ2019フランス大会では、トランプ大統領と舌戦を展開したことでも注目されました。2020年10月にWNBAの女子バスケットボール選手であるスー・バード選手と婚約しています。「LGBTQコミュニティーの象徴的なカップル」とされています。BBCがミーガン・ラピノー選手のスピーチに、どのような字幕をつけたか、こちらの動画をご覧ください。先に挙げたツイートの「~だわ」とか「~なの」とは全く異なる表現で字幕がつけられています。

長時間を費やして行われる字幕翻訳

さて、字幕翻訳は、どのようなプロセスで、どのくらいの労力を費やして行われているのでしょうか。ヨコハマ・フットボール映画祭実行委員会の伊東紗衣子さんによると、ヨコハマ・フットボール映画祭2021では主に8名で字幕翻訳が必要な全上映作品の字幕翻訳を行っています。

伊東–翻訳(サッカー、ビジネス、法律、IT、ファッションなど)を本業にする人に加え、法律関係、外資系企業の財務管理、映画館スタッフ、福祉関係等で勤務する人。 共通するのは映画が好き、サッカーが好きという点です。1本の映画を2人のスタッフで担当するのを基本とし、1人が翻訳、もう1人がチェックします。 完成した字幕は私が最終チェックした後、字幕翻訳のメンバー以外の実行委員会スタッフも確認し、さらに修正を加え、トータルで1~2か月かけて完成させます。

語学力だけでは翻訳をできない

1998年から神戸ルミナリエに関わり、2011年と2015~2019年にディレクター兼プロデューサーを務めた(2020年はCOVID-19のために中止)ダニエル・モンテベルデさんは、日本で広告、映像制作、イベント・プロモーションに携わって約30年。7言語を駆使してさまざまな分野の国際的プロジェクトを手掛けてきました。ダニエルさんは、日本での仕事をコピーライターからスタート。日本サッカー協会の各種翻訳業務、FIFAワールドカップ2002日韓大会の招致活動の翻訳等も行なっています。

 字幕翻訳の話に入る前に「翻訳とは何か?」についてダニエルさんにお話をうかがいました。ダニエルさんが経営する株式会社ラティナインターナショナルコーポレーションの会社案内には、このように書いてあります。

 「原文に込められた特有の美点を損なうこと無く他の言語に表現するには、文化的感受性と豊富な経験、そして言語への感性が求められます。ラティナの翻訳は言葉を置き換えるだけの翻訳ではありません。」

ダニエル・モンテベルデさん

字幕にしても吹き替えにしても、その人の個性を自分の国の文化に自然であるように置き換えて表現するものです

ダニエル–日本人が日本語で国内向けに面白いコピーを書いて広告を作る。次に、それを海外向けの広告にしたい。そのコピーを翻訳する。でも、そのまま取扱説明書のような翻訳をすると、コピーの面白さが伝わらないです。翻訳者は、まず、元の広告とコピーの意味を深く理解しなければならないのです。そして、単に語学の能力だけではなく、クリエイティブマインドがあり創意工夫できる人でなければならないです。「理解すること」と「表現すること」両方の能力が必要です。コピーの翻訳は(新規の)作成ではないけれど(新規の)作成に近いです。だから、私は「クリエイティブ翻訳」と呼んでいます。時々、出来上がったコピー表現が、日本語と翻訳後で全然違うこともあります。でも、メッセージはきちんと呼応しています。

—使用する単語の意味は違うけれど、翻訳で伝えたいことが伝わるのですね。ラピノーの字幕に可愛らしい女性の言葉遣いで字幕が付いていたケースがあります。なぜ、このようなことが起きるのでしょうか。

ダニエル–ラピノーの問題も、普通に訳して字幕をつければ良いのです。可愛くしたりする必要がある? 必要ないですところで、日本では、海外のテレビ番組や映画の吹き替えがたくさん行われています。私が、目を瞑って吹き替えの音声を聞くと、音だけで米国映画の吹き替えか、フランス映画の吹き替えか……それが分かる。普段の、日本人は、そのような喋り方をしないのに、声優が特徴のある吹き替えをする。とても不自然に感じます。登場人物が普通に喋っているときは、どうして日本人が普通に喋るように吹き替えないのでしょうか。僕は普通の日本語で聞きたい。

—最近は、日本人のお笑い芸人で、海外ドラマの吹き替えを物真似する人がいらっしゃいますね。どの国の(民族の)作品なのかによって吹き替えのパターン化しているということですね。

ダニエル–いいね、それ笑えるね(笑)字幕にしても吹き替えにしても、その人の個性を自分の国の文化に自然であるように置き換えて表現するものです。

 通常の翻訳と字幕翻訳の大きな違いは「文字数制限」

映画字幕の現場はどのように字幕翻訳を考えているのでしょうか。“言葉のプロ”を育成する職業訓練校・日本映像翻訳アカデミーの板垣七重さんに、お話をうかがいました。板垣七重さんは映像翻訳ディレクター歴8年。日本映像翻訳アカデミー英日実践コースの「リップシンク」、課外講座「120分でマスター! 最強の調べもの術」などの講義も受け持っています。

板垣七重さん 提供:日本映像翻訳アカデミー

—通常の翻訳と字幕翻訳の違いはどこにありますか?

板垣–文字数制限が一番大きな違いです。映画やドラマでは1秒あたり4文字という制限があります。1枚の字幕に出せるのは2行までです。映像を楽しみながら字幕を無理なく読める文字数が決められています。その文字数の中でしっかり伝わるよう表現の工夫をしなければなりません。シーンの意味や、前後のセリフを読み込んだ上で、どこまでを字幕にするのか、情報の取捨選択も必要になります。名詞と動詞が離れない位置で改行する等、読みやすさも考えています。セリフに出てくる単位を日本の視聴者が理解しやすいように換えることもあります。例えばドルだと伝わりづらいので円に変える。あとはジョークが難しいです。そのまま字幕にしても伝わらないことが多いです。ですから「笑わせる」ということを最大の目標にして日本の視聴者が理解できるネタに変えることもあります。

—よくネット上には「台詞と字幕が一致していない」と書く人がいるのですが、それはやむを得ない事情があるからなのですね? ジョークのことは、私にはよく分かります。私は歌舞伎を見ますが、歌舞伎でも笑わせる台詞のところは、昔のままでやっても伝わらないのでスカイツリーのネタが出てきたり、「マジすか!?」という今っぽい言葉遣いが入ってきたりすることもあります。

板垣–字幕翻訳は、厳しい制約があるので試行錯誤の連続ですね。翻訳者が考えに考え抜いた上で、その表現にたどり着いていると思います。もちろん、視聴者の皆さんのフィードバックから学ぶこともあります。

—キャラクターを示す「役割語」や性別を強調する表現が字幕に多く用いられていると感じます。なぜでしょうか?

板垣–女性には「●●だわ」「●●よ」という表現が多く使われてきました。その語尾の起源を辿ると「明治時代の良家の子女の言葉遣い」が小説を通して広まり、それが一般の女性の口調として広がっていったという説があります。それが昭和になると山手のお嬢様の言葉遣いになっていきます。その頃は、教育水準の高い女性が翻訳の仕事を担っていた(多くの女性に翻訳の仕事の門戸が開かれていなかった)ということもあって、その言葉遣いが翻訳に使われるようになったという説もあります。字幕翻訳では、女性言葉だけではなく「●●だぜ」という男性言葉も使われてきました。ただ、近年は、発注者から「だぜ!は禁止」のように「『役割語』をなるべく使わないように」と、はっきりと言われるケースが出てきています。理由は時代が変わったからです。昔はヒーローがいてヒロインがいてステレオタイプに構成される作品が多かったです。近年は、登場人物の役割の幅が広がり多様になってきたので「●●だわ」「●●よ」ばかりでは、うまく登場人物を表現できなくなってきています。一人の登場人物でも、一つの作品の中の登場シーン(弁護士として働く法廷のシーン、家庭のシーン)で語尾の表現を変えることもあります。単に「男性だから」「女性だから」で表現が決まるのではなく、一人一人の登場人物を理解し、シーンを把握した上で言葉選びをすることが大切だと思います。最近はトランスジェンダーの登場人物も多く「ニュートラルな言葉遣いにしてください」と発注者から念押しされることもあります。

—「役割語」は、これからどのようになっていくと思いますか?

板垣–完全に排除する必要はないと思います。エンターテイメント作品では、日常とは違う言葉遣いが使われることもあります。登場人物のキャラクターや口調によっては役割語が効果的なケースもありますね。

—キャラクターの下調べは翻訳者に委ねられるものなのでしょうか?

板垣–日本映像翻訳アカデミーでは「リサーチは映像翻訳者の仕事」と教えています。受講生、修了生を対象に、何をどう調べるかという点にフォーカスした調べものの講座を設けています。最も調べ物が多いのがドキュメンタリーですね。登場人物の下調べ、裏を取るは当たり前です。事実関係や固有名詞、数字の確認をして、正確に視聴者に伝えることも字幕翻訳者の大切な役割です。

—ただ翻訳する語学力があれば良いわけではないのですね。だからスクールも修了まで1年半を要するのですね。

※日本映像翻訳アカデミーは、1月下旬から、4月期開講に向けた業界セミナーや字幕体験レッスンなどに参加できる無料イベントを開催します。

 

世界最強女子クラブの真実に迫るドキュメンタリー映画

「オリンピック・リヨン女子サッカー最強チームの真実」は2018 /19シーズン終盤、オリンピック・リヨン女子チームが三冠をかけて闘う姿を追ったドキュメンタリー映画です。白熱する試合、厳しいけれど笑顔と歓声で溢れることもある練習、スタンドで熱狂するサポーター、選手を待ち受ける出待ちのファン、オフザピッチの生活が鮮やかに描かれています。

寺田美穂子さんは日英/英日翻訳者。映画「オリンピック・リヨン女子サッカー最強チームの真実」の字幕翻訳を担当しています。寺田美穂子さんは、ベガルタ仙台レディースの通訳を務めていたこともあります。ですから、女子サッカーの現場を知った翻訳者です。ここからは「オリンピック・リヨン女子サッカー最強チームの真実」の字幕翻訳がどのように行われたのかをご紹介します。

寺田–実はセルマ(セルマ・バシャ:DF 19歳)の登場が最も多いです。彼女はウエンディ(ウェンディ・ルナール:DF30 歳)に愚痴るんです。女子サッカーをあまり知らない視聴者に、字幕でこの選手のキャラクターや関係性の情報を伝えるのが、結構、大変なことでした。こんな資料を作って選手のキャラクターを整理しています。

 

セルマ・バシャ DF 19歳 フランス年代別女子代表
1人称は「私」
クレールフォンテーヌ(国立サッカー養成所)出身のエリート。しかし、自分に自信がない甘えん坊キャラで「どうせ私なんて撮影されても本編ではカットされるもん」と拗ねる。FIFAU-20女子ワールドカップ2018フランス大会に出場。地元の期待を背負って臨んだが4位に終わる(優勝はU-20日本女子代表)。

ウエンディ・ルナール DF 30歳 フランス女子代表
公コメントでは「私達」、選手間では「うちら」大人口調
身長187㎝の大型DF2013/14シーズンからキャプテン。国際女子サッカークラブ選手権2012で来日しており、オリンピック・リヨンの歴史を語る役割。FIFA女子ワールドカップ2019フランス大会でもPKを蹴って得点しておりフランス女子サッカー界の大黒柱。

アメル・マイリ MF 27歳 フランス女子代表
公コメントでは「私達」選手間では「うちら」大人口調
クレールフォンテーヌ(国立サッカー養成所)出身のエリート。「自分の世代に女子選手のロールモデルがいなかった。でも次の世代のために自分達がロールモデルになりたい」と思っている。育成年代から憧れていた先輩選手と一緒にプレーできるようになったときの喜びや葛藤を語る。UEFA女子チャンピオンズリーグ2019/20決勝戦で熊谷紗希選手のゴールをアシスト。

ジェシカ・フィッシュロック MF 33歳 ウェールズ女子代表
対外的に話しをするときは「私達」、選手間では「うちら」、語尾は、やや男っぽい
ウェールズ女子代表でキャプテンを務めた時代もある。世界各国でプレー経験がある。レズビアンであることを公表。2016年にアディダスの広告に出演。2018年に英国王室より叙勲。シアトル・レインFC所属時は宇津木瑠美選手と川澄奈穂美選手がチームメート。

アーダ・ヘーゲルベルグ FW 25歳 ノルウェー女子代表
一人称は「私」、「~なの」までは使わないが、ややフェミニンな言葉使い
2018年に初代の女子バロンドールを受賞。「ノルウェーサッカー協会は男女不平等でリスペクトがない」と批判しFIFA女子ワールドカップ2019フランス大会ノルウェー女子代表を辞退。代表のチームメイトからも批判を受ける。そのため、映画の中で「代表の話は、しないからね」と苦笑するシーンがある。

「自分 すごくね?」選手のキャラを伝える言葉遣い

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