WE Love 女子サッカーマガジン

男女チーム連携で着々と準備が進む サンフレッチェ広島 久保室長インタビュー

2020年10月15日のWEリーグ参入クラブ発表の中で、いくつかあった驚き。その中でも、サンフレッチェ広島の参入は大きな話題となりました。何しろ、その時点では、サンフレッチェ広島には女子サッカーチームがなかったからです。選手、監督、強化担当、練習場、女子チームの呼称……何もなかったサンフレッチェ広島にWEリーグに相応しい力はあるのか、今、チームづくりはどのようになっているのか、代表クラスの加入発表でニュースをざわつかせている移籍交渉の現場はどのようになっているのか、今回は、サンフレチェ広島 WEリーグ準備室長の久保雅義さんにお話をうかがいました。

筆者がインタビューを終えた感想を先に書くと「かなりやりそうサンフレッチェ広島」です。スタッフの熱意に加えて、Jリーグクラブの強みを余すことなく活用しています。そして、インタビュー途中で思い出したのですが、広島市は女子視点マーケティングの先進地でした。もしかすると、広島から女子サッカーが変わるかもしれません。

インタビュー時のサンフレチェ広島 WEリーグ準備室長 久保雅義さん

久保サンフレッチェ広島は0からのスタートです。9月のWEリーグ開幕に向けて、着々と準備を進めています。今は、チャレンジ精神で、白いキャンバスに絵を描ける状態です。既に、フロントスタッフは決定し、同じ目標に向かって一体感を持って進んでいます。

オリジナル10の責務がサンフレッチェ広島を動かした

久保厳しい社会状況の中でWEリーグ参入に手を挙げました。正直、迷った部分もあったのですが、サンフレッチェ広島はJリーグ立ち上げ時にオリジナル10です。そして、広島は「サッカーどころ」です。広島は「スポーツ王国」という自負があります。広島東洋カープ(プロ野球)、JTサンダーズ広島(Vリーグ)、広島ドラゴンフライズ(Bリーグ)、コカ・コーラレッドスパークス(ホッケー日本リーグ女子)等のチームがあります。この地に女子プロサッカーチームが参入して、広島のスポーツをさらに盛り上げたいと考えました。また、神戸から西にWEリーグ参入クラブがないので、西日本の女子サッカーを盛り上げていかなければならない重責を感じています。 

—サンフレッチェ広島の選手加入ニュースを拝見して、1992年頃の清水エスパルスの立ち上げのニュースを思い出しました。あのときは、まだ、実質的にトップチームの実態がない清水エスパルスのJリーグ参入が決まり世間が驚き、大榎克己さんが契約第一号選手と発表され、ついで長谷川健太さん(現・FC東京監督)……次第に選手が発表されてチームが出来上がっていく様子をファンが注目していました。あのときのようなワクワク感が広島から拡がっていくのではないかと思います。

久保そうしていきたいですね。Jリーグ立ち上げのときのように、広島県全体で盛り上げていきたいです。

—2020年10月15日にWEリーグ参入が決定した際、参入理由として「広島から『女性の社会進出・男女の平等』を発信していくため」という説明がありました。WEリーグ(Women Empowerment League)の理念についてどのようにお考えでしょうか?

久保サンフレッチェ広島の女子チームは、立ち上げにあたって「女性の元気を広島の元気に」を合言葉にしています。女性の活躍の象徴になるチームを作っていきたいです。広島県には女性のオーナー企業がかなりあります。株式会社サタケさん(代表取締役 佐竹利子氏)、株式会社メンテックワールドさん (代表取締役 小松節子氏)をはじめ、多くの企業で女性が活躍されています。サンフレッチェ広島が包括連携協定を締結させていただいた学校法人石田学園広島経済大学にはたくさんの女子生徒さんがいらっしゃいます。県内にはたくさんの大学、高校があり、女子生徒さんが学んでいらっしゃいます。こうした広島県の女性の活躍の象徴となるクラブを目指していきたいです。

—サンフレッチェ広島のパートナー企業の中でも、例えば、ゆめタウン(株式会社イズミ)は「ゆめCanプロジェクト」をはじめ、積極的に女性の活躍の場を広げ、躍進されてきた企業です。そうした企業から、ご期待の声が届いているのではないですか?

久保みなさん、WEリーグ参入に興味津々です。これまで、女性に特化したアパレル、エステ、化粧品のような業種のパートナー企業がいらっしゃいませんでした。参入決定から、いくつかの企業にお話を持ち込ませていただいて、手応えを感じています。広島には、横のつながりが強い風土があるので「みんなで盛り上げよう」というお話を企業からいただくことが多く、ありがたく感じています。

アマチュアクラブ、大学チームと連携して女子サッカーを普及していきたい

—広島市のアマチュアクラブの活動をお聞きすると、必ずしも女子選手が多くはないと感じます。選手集めに苦労されているクラブもあります。広島の女性マーケットについて、どのようにお考えですか?

久保WEリーグ参入が決まった後、市町村を回ってご挨拶させていただきました。そこで感じたのは、子どもの年代の女子選手に、将来の目標とするプロクラブが存在しないという課題でした。WE参入で解決したいです。そして、アンジュヴィオレ広島等のアマチュアクラブ、大学チームも含め、広島県内の女子チームと、連携して普及活動を行い女子サッカーの裾野を広げていきたいです。広島県内の女子サッカークラブは(活動地域が比較的分散していて)あまり近隣にないので、サンフレッチェ広島が一緒に練習したり、協働してイベントを開催したり、サッカー大会を開催したり、協力できることがあると思います。

—次は営業についてうかがいます。男子のスポンサー営業と女子のスポンサー営業に違いはありますか。

久保金額は圧倒的に違います。まだ具体的にWEリーグの露出がどうなるか決まっていませんので、企業によっては露出効果を気にされる場合もあります。しかし、今は、単純な露出効果ではなく社会貢献を重視しているパートナー企業が多いと感じます。男子のパートナー企業が、女子のサポートとして金額をプラスアルファしていただくケースもあります。0から立ち上げる女子のプロチームということで、これまで、好意的にお話を聞いていただける企業が多く、男子のスポンサー営業とは視点が違うところがありますね。

男子チームではできなかったことを女子チームでトライしてみたい

久保女性のファン層を取り入れるのが肝で、男子のファン層とは異なるターゲットを考えています。女子チームは0からのスタートなので、今まで男子チームではできなかったことを女子チームでトライしていきたいと思っています。成功したら、逆に男子チームにも共有し、活かしていければと思っています。デジタルマーケティングやプロモーションに関しては、外部のマーケティングスタッフを活用・強化してトライしていきます。

—Jリーグと違って、まだやり方が固まっているわけではないので、新しいことにトライできそうですね。広島市は女子視点マーケティングの先駆けとなったマーケテインング会社の株式会社ハー・ストーリィが生まれた街ですから、とても楽しみです。

久保女子の試合は広島広域公園第一球技場(収容人数1万人)をメインの会場にしようと思っています。トラックがない専用スタジアムです。今までと違う、観戦のきっかけをいかに創れるか、楽しかった余韻をいかに残せるか、普及活動と併せて重要になってきます。スタンドでの応援の方法も女子ならではに変わってくると思います。

岡島喜久子 WEリーグチェアを広島広域公園第一球技場にご案内するサンフレッチェ広島 WEリーグ準備室 運営担当 坂田さん スコアボードの向こうにエディオンスタジアム広島が見える。

久保2024年に新スタジアム(スタジアムパーク)が建設される予定です。男子、女子で、この新スタジアムを使用していく方向です。3万人規模で、広島市の都心部にできる全国でも稀なスタジアムです。スタジアムが完成する前に、男子、女子、どれだけ盛り上げていけるかが重要です。COVID-19(新型コロナウイルス感染症)の問題はあるのですが「足を運ばないと体験できない楽しさ」を伝えてファンを増やしていくことが必要です。

新スタジアム(スタジアムパーク)は本川(旧太田川)に面した水辺のスタジアム。平和記念公園(写真手前)から歩いて行くことができる(三番目の橋の右の緑地が予定地)。

コンパクトなエリア内に必要な施設が全て揃いつつある練習環境

—サンフレッチェ広島のアカデミーは(男子)は全寮制の先駆けで、男子は、これまで優秀な選手を数多く輩出されてきました。アカデミーや練習環境について決まっていることを教えてください。

久保広島はスポーツ王国と言われながらもサッカーの練習をできるグラウンドの数が少ないです。みなさん練習拠点には苦労していました。女子チームの練習拠点は包括連携協定を締結させていただいた学校法人石田学園広島経済大学様の施設を使用できることになりました。フィットネスクラブもパートナー企業のご協力で使用できるようになる見込みです。広島経済大学様には女子サッカーチームがあり、素晴らしい人工芝のグラウンドをお持ちです。サンフレッチェ広島女子チームは、空いている午前中にグラウンドを使用させていただくことになりました。このグラウンドは、周囲からピッチが見える環境になっています。(地域や大学の)いろいろな方に練習を見ていただける可能性もあります。今後も広島経済大学様と連携し地域を盛り上げていければと思っています。

アカデミーについては、まだ決まっていません。寮は男子のパートナー企業に物件を探していただいています。男子のノウハウを生かして、女子も良い選手を輩出できるように体制を作っていきます。 

学校法人石田学園広島経済大学様の施設

—瀬戸内海に山が迫り平地の少ない広島特有の課題と解決策ですね。以前に、このマガジンでご紹介したディアヴォロッソ広島は不動産会社がグラウンドを作るところからクラブが誕生したわけですが、やはり練習場の確保は重要な切実な問題なのですね。こういう活動から、各地に練習グラウンドが増える、波及効果があると良いですね。

男女連携による強みをフル活用

久保さらには男子チームのパートナー企業のご協力をいただいてアマチュア契約選手の働き場所も確保できそうです。こうした環境整備は選手獲得に強くアピールできると思います。それから、これまでのサンフレッチェ広島の育成理念を選手に説明すると、好意的に捉えていただけるという話も強化担当と監督から聞いています。男女のチームの連携はサンフレッチェ広島の強みです。

—新しいチームだけれど、既に理念とノウハウがあり、それが選手のために役立つということですね。

男子チームは多くのファン・サポーターを集めるJリーグの強豪の一つ。

監督と強化担当の想いが伝わり有力選手が続々と加入

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