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101年目の『フートボールの時間』 女子サッカー発祥の地から見えてきた with コロナの高校演劇そしてWEリーグの盲点 豊嶋了子教諭インタビュー

トップ画像は丸亀市立資料館蔵

日本の女子サッカー発祥の地は香川県丸亀市といわれています。なぜなら、日本で最も古く、女子サッカーが行われていた確かな証拠となる「袴姿の女子学生が笑顔でサッカーボールを追いかけている写真」が丸亀市で発見されたからです。「フートボールをす」と書かれた女子学生が書いた日誌も発見されました。さらに、サッカーボールが記録された備品台帳も見つかっています。それは、女性の人権が、まだ十分に確立されていない大正時代のことです。

2019年に放送された大河ドラマ『いだてん』で、女性が偏見や差別と戦いスポーツに挑んできた歴史を描いていたことを覚えていますか? 人見絹枝さんが1928年にアムステルダム・オリンピックで女性初の銀メダルを獲得、前畑秀子さんが1936年にベルリン・オリンピックで女性初の金メダルを獲得、「東洋の魔女」と呼ばれた全日本女子バレーボールチームが1964年に東京オリンピックで女性団体競技初の金メダルを獲得……ただ、それらの栄光の記録は競技の結果。競技よりも『いだてん』が描いたのは、彼女たちに向けられる偏見や男性からの不当で強烈な差別でした。

人見嬢(人見絹枝さん)の大奮闘 日本オリンピック後援会・オリンピックより

『フートボールの時間』は、大正9年(1920年)の実話を元にしているので、人見絹枝さんよりも、さらに古い時代の物語です。「女性が運動するなんて!」「女が足を広げてボールを蹴るなんて、はしたない!」と言われた時代に、女子学生たちが大好きなサッカー(フートボール)を楽しみ……そして、ある日、突然に女子サッカーの記録は歴史から消え去ります。

 『高校演劇「フートボールの時間」』は舞台を収録した映像作品

『高校演劇「フートボールの時間」』がヨコハマ・フットボール映画祭で上映されます。ただ、残念ながら、新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言により開催が延期となり、まだ上映日時が決定していません。それでも、今『高校演劇「フートボールの時間」』を考えることは女子サッカーと日本の女性の未来に繋がります。物語から101年目の『フートボールの時間』を考えてみましょう。

ヨコハマ・フットボール映画祭は延期となりましたが、2021年1月30日11時よりリモートで女子サッカーイベントを開催します。進行をWE Love 女子サッカーマガジンの石井和裕が担当します。ぜひ、上のYouTubeからご覧ください。

『フートボールの時間』は、香川県立丸亀高等学校の前身の一つである香川県立丸亀高等女学校(明治32年設立)で、実際に起きた女子サッカーの出来事を元に作られた演劇です。香川県立丸亀高等学校の演劇部により上演され、2018年に開催された第42回全国高等学校総合文化祭演劇部門・第64回全国高等学校演劇大会で最優秀作品に選ばれました。ヨコハマ・フットボール映画祭で上映される『高校演劇「フートボールの時間」』は、舞台を収録した映像作品です。

指導する豊嶋了子教諭 提供:豊嶋了子教諭

当時、演劇部の顧問だった豊嶋了子(のりこ)教諭(現・観音寺第一高)に、お話をうかがいました。『フートボールの時間』が、なぜ、今も愛されるのか? 当時の女子サッカーとはどのような位置付けだったのか? 『フートボールの時間』を通して、WEリーグから何を感じるか? そして、高校演劇とは? 無観客におけるライヴの価値とは? 100年間の時間と高校演劇と女子サッカーに橋を渡してお聞きしています。上演から2年を経た今だから語れる『フートボールの時間』です。 

—2018年に上演された演劇作品が2年を経ても、また映像で上演されることについて、いかがですか?

豊嶋–この作品に、いまだに反応をいただいて嬉しいですね。2020年は、この作品の物語・大正9年(1920年)から100年でした。教科書に載らない歴史かもしれないけれど、何年経っても、この作品をきっかけに、みなさんが考えてくれると嬉しいです。

各大会で推薦され全国大会(全国高等学校総合文化祭)を目指す高校演劇

豊嶋–高校演劇は高校生が役者も裏方も行う演劇です。生徒と顧問の先生で作り上げていきます。60分以内の上演というルールの中で審査されます。プロの芝居と違って、一つの大会で上演は1回。やり直しが効きません。地区大会(秋開催)、県大会(秋開催)、ブロック大会(冬開催)、全国大会=総文祭/全国高等学校総合文化祭(次年度の夏開催)……一つの作品を上演し続けます(大会ごとに作品の改良は可能)。全国大会で上位4位に選ばれると国立劇場で上演することができます。順位付けがあるので、少しでも上の大会に進んで一人でも多くの人に見てほしい……となると質の高いお芝居を作る必要があります。

—高校演劇は、劇団や演劇同好会と違って上の大会に進むことを目指すという大前提があるのですね。国立劇場で上演できるのは野球の甲子園、全日本高校女子サッカー選手権のノエビアスタジアム神戸のような大きな舞台ですね。

豊嶋–全国に2000校くらい演劇部のある高校があります。全国大会に出場できるのは12校です。甲子園よりも狭き門です。さらに国立劇場で上演されるのは4校ですから、全体の1/500です。

丸亀市立資料館蔵

香川県丸亀市で実際にあった女子サッカーの出来事が元になった『フートボールの時間』

香川県立丸亀高等学校は「丸高(まるこう)」の愛称で親しまれる県内屈指の進学校です。明治26年に丸亀中学校としてスタート。昭和24年に高等学校再編成により香川県立丸亀高等学校と香川県立丸亀女子高等学校を統合し香川県立丸亀第一高等学校となり、昭和28年に香川県立丸亀高等学校と改称されました。場所は丸亀城の内堀の横ですから、まさに昔から丸亀市の中心に存在してきた学校といえるでしょう。豊嶋了子先生も「丸高」の卒業生です。

丸亀城

豊嶋–2016年は県大会で3位になり四国大会に進めずに終わってしまいました。みんなわんわん泣いて意気消沈していました。出場する大会がなく、やることがなくなってしまって、心に穴が空いた状態でした。丸亀高校記念館(旧香川県立高松尋常中学校丸亀分校本館)に「丸高」の元校長の馬場康弘先生が資料整理に来ていました。毎週月曜日に、私は、そこへ行って「面白い話」を聞きに行っていました。2017年1月に馬場康弘先生が「豊嶋さん、これはすごいよ」と写真と資料を見せてくださりました。大正時代に女子がサッカーをやっていた写真、女子の日誌、それに明治39年(1906年)に掲載された運動会の新聞記事が残っている。これだけ資料があるのに、「丸高」で女子サッカーがあったことが、まるでなかったのかの如く触れられてこなかったのです。そのとき、馬場康弘先生が「私ね、これを小説にしようと思うんですよ」と言っておられて「小説を書かれるのですか?」と聞くと「私は小説を書けないので、誰かに資料を渡して書いてもらおうと思うんですよ。」……他力本願か! という感じだったのですが(笑)、そのときは四国大会も全国大会もなく喪失感だけが残った状態だったので、自分の心の空いた穴に光るものが落ちてきて、生徒に相談する前に「これを題材に脚本を書こう」と決めました。

—馬場康弘先生が「小説を書く」と言わなかったら、この作品は生まれなかったかもしれませんね。

豊嶋–そうですね。調べてみると備品台帳に書かれたボールを破棄した日付と実際の運動会の日付がずれていて、そこだけは謎が解けていないのですが、この空白の1ヶ月間を想像したら面白い脚本を書けるのではないかと思って脚本を書き始めました。

備品台帳 提供:豊嶋了子教諭

上演から年を経て日本は変わったのだろうか?

—2021年になって、日本の女性をめぐる社会は前進しましたか?

豊嶋–全く変わっていないですね。COVIDー19(新型コロナウイルス感染症)の問題が出てくるまでは #MeToo(ミートゥー)等の運動が、テレビのドキュメンタリーでも取り上げられている印象でした。今は「女性の問題は置いておいて、まず命を守ろうぜ」 といった方向に、みんなが走っているので、昔からの根深い問題が取り残されている感じがしますね。女性問題は世の中にずっとあるものだから、ずっと考えていかなければならないのと同時に、即効性が求められていないかもしれません。でも、それだと、女性は生きている間にずっとジェンダー的な違和感を抱き続けることになると思います。けれど、全く、世の中が女性の問題解決について考えないということはあり得ないです。『高校演劇「フートボールの時間」』を見たときに、ちょっと思い出してくれたらいいと思います。

—そんな状況ではありますが9月にWEリーグが立ち上がります。「女の子の夢から、限界をなくせ」女性の活躍をサッカーで実現していこうとしています。WEリーグについて豊嶋先生が受けた印象はありますか?

豊嶋–香川県綾川町に女子サッカーチームが立ち上りました。UDN香川[UNITED DREAM NATION KAGAWA]立ち上げのニュースは地元で大きく報じられていました。廃園になった保育園を選手寮にするとか、広い練習場を作ってみたり……。綾川町は大型ショッピングセンターがあり、鉄道も通っていて高松市へのアクセスがよく住みやすい町です。地元では、これまで丸亀市が女子サッカー発祥の地と言っておきながら、綾川町に先を越されて「丸亀市何やっているんだ!」という話題になりましたね。でも、立ち上げまでは明るいニュースとして聞いていたチームが、その後どうなったのかをメディアで見かけていません。まだまだ注目してもらえる芽が息吹いていない、もどかしい感じがしています。

※UDN香川は、顧問に松本育夫氏を迎え2021月の本格始動に向けて準備を進めています。

—WEリーグは参入クラブの「運営にあたる法人を構成する役職員の50%以上を女性とする」「意思決定に関わる者のうち、少なくとも1人は女性とすること。(取締役以上が望ましい)」と定めました。女性リーダーシップ・プログラムも実施しています。こうした取り組みへの感想はいかがですか?

豊嶋–女性の問題への取り組みにこだわりすぎの印象もありますね。実際には、今までも女性が頑張っていないわけではない。でも、あまりこだわって発信しすぎると、今までやってこなかったからWEリーグが初めてやっているような印象を受けてしまう。WEリーグが、ここまで主張しなくちゃいけないのかな? と感じるところがあります。今まで女性が社会に進出できていなかった理由を知った上でWEリーグのメッセージを見ないと、WEリーグのメッセージを上っ面のメッセージと感じてしまう人がいるかもしれません。

提供:豊嶋了子教諭

医学部不正入試事件が発覚するまで女子学生は気づかなかった差別の存在

豊嶋–『フートボールの時間』の制作当初、部員たちに「自分が性別で差別を受けていると感じることある?」と聞いたら全員が「ない」と言っていました。「出席番号も男女一緒だし、ウチら大事にされているよね。」と、言っていました。ところが、その後、女子や多浪生らを不利に採点した医学部不正入試事件が発覚しメディアで報じられて、多くの生徒が「あっ、女性差別ってそういうことか」と気づいた、という経験があります。意外と、当事者の女性が差別されたという意識を持っていない。だから、特に若い子には、なぜ女性差別の問題を解消することが必要なのかを伝えていく必要があると思いました。「女の子なのだから浪人せずに行ける大学に行けばいいのよ」と言われたり「25歳を過ぎたらお見合いの話がこなくなる」とか言われたことがある生徒がいます。「それ、差別じゃないの?」と私が言うと「そうですか? そういうものじゃないんですか?」と返されたりします。自分が不当に不利な立場に追いやられている気持ちを抱いていない彼女たちは、声高に女性の権利を叫んでいる人たちにあまり共感できない可能性があります。

—社会の問題点が理解されていないと、WEリーグからの発信が空回りして上滑りする感じがありますね。

豊嶋–多くの若い子は、差別意識を特に感じず、自分には同じようなことは起こらないと考えているのでしょうね。高校にいると、むしろ、女子の方が良いことがあって、例えば「冬のマラソンは男子の方が走る距離が長いじゃん」とか「重い荷物を、はい、男子が運んで」と言われたりします。学校の中で「お前、女のくせに」と言われるシーンには、ほぼ遭遇しないです。だから、医学部不正入試事件のような具体的な差別を受けないと、女性差別の問題を感じないかもしれません。

—今、20歳代前半までの世代の人は「頑張る」「チャレンジする」が以前ほど美徳に感じられていないので「チャレンジの可能性の芽を摘まれる」ということに不利益を感じにくいのかもしれませんね。現実に起きている問題と、何を主張していくのかを紐づけて説明してあげないと、伝わりにくいということですね。

豊嶋–ロンドン・オリンピックのアジア2次予選のイラン女子代表とヨルダン女子代表の試合で、ヒジャブ(イスラム教徒の女性が頭髪を覆うスカーフ)を着用していた選手が出場資格を取り消されたニュースがありました。学校で紹介したのですが「えー可哀想」という反応でした。子どもたちは問題意識を持つことが希薄になっていると感じます。

劇場、スタジアム……ライブの価値とは?

—舞台を映像で上演されることについてはいかがですか?

豊嶋–『高校演劇「フートボールの時間」』は、編集も良いタイミングでされていて、とても良い映像作品です。ただ、舞台の隅っこの役の人が、台詞にハッと反応する良い演技をしていたりしている、出演しているけれどあまり映っていない人もいる……どうしてもカメラを通ると舞台の一部しか見られないという点がもったいないと思います。それでもやっぱり、映像化の力は大きい。映像化されることで、過去の舞台が間違えなく未来に残っていきます。未来の高校演劇に携わる子供たちが『高校演劇「フートボールの時間」』を見て「自分たちも、こんな芝居を作りたいな」と思ってくれると嬉しいです。

—これを機会に高校演劇に興味を持っていただいて、劇場に足を運んでいただけるきっかけとなると良いですね。今年度はCOVIDー19(新型コロナウイルス感染症)の影響で無観客、映像審査といった方法も取り入れて大会が行われているとお聞きしました。映像審査は演劇の根本に関わりませんか?

提供:豊嶋了子教諭

豊嶋–中止よりは良いかもしれないですが、一番したくないというか……。北海道ブロックでは、富良野高校さんが、映像審査で2年連続の全国大会出場を決めました。今年度、富良野高校さんは全国大会に初出場しましたが上演はCOVIDー19(新型コロナウイルス感染症)の影響で映像配信だけでした。直接観た高校演劇関係者は全国に少ないわけで「生で観たらどんな感じなんだろう」とざわざわしています。

—もしかすると「映像審査に強い芝居をする学校」という可能性もありますね。ルールが変わると、競技としての高校演劇の評価ポイントが変わり、大きな変化への対応が必要になるのですね(サッカーにも通じるところがありそうです)。

提供:豊嶋了子教諭

演劇でいえば劇場、サッカーでいえばスタジアムでライヴ体験をする価値、そして、たくさんの人が共に練習して物を作り上げる価値が、この先、例えば3年も同じ状況が続くと維持できるのか不安があります。そうしたライヴの価値についてどのようにお考えですか?

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