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福岡J・アンクラス WEリーグを目指す「帰ってきた九州の強豪」 河島美絵監督インタビュー

プレナスなでしこリーグ2部に復帰した福岡J・アンクラスは、九州から唯一の全国リーグで戦う女子サッカークラブチームです。1986年に福岡女学院中学校・高等学校のサッカー部として創設されました。「アンクラス」とはスペイン語で錨の意味。福岡女学院中学校・高等学校の制服に入るマークが由来です。福岡J・アンクラスの「J」は福岡女学院中学校・高等学校の「女学院」を意味します。

以前、大学や社会人の強豪チームが存在しなかった九州で福岡女学院中学校・高等学校の女子サッカー部は「九州の強豪」として知られていました。2007年に特定非営利活動法人ANCLASを設立し、トップチームがモックなでしこリーグに待望の初参戦。これまで、猶本光選手、川村真理選手(現・加藤)の2名の日本女子代表選手を輩出しています。

2009年にプレナスなでしこリーグ1部に初昇格したものの2018年シーズンにはQリーグ(九州女子サッカーリーグ)2部にまで降格。「福岡J・アンクラスはどうなってしまうのだ?」という不安の声が挙がりましたが、2017年に株式会社福岡アンクラスを設立し新体制に。2018年シーズンから出産を経て川村真理選手が加藤真理として選手登録され復帰。2018・Qリーグ(九州女子サッカーリーグ)2部、2019・Qリーグ(九州女子サッカーリーグ)1部、2020・プレナスチャレンジリーグを1年でクリアし、2021年シーズンは待望のプレナスなでしこリーグ2部に復帰します。今回は2017年シーズンから監督に復帰されている河島美絵監督にお話をうかがいました。

河島美絵監督

九州の強豪がなでしこに帰ってきた

河島久しぶりだなって気持ちです。なでしこリーグという名前の響きは嬉しいです。でも、まだ戻っている途中という感じです。地域リーグにまで落ちましたので這い上がっている途中です。人生の振り幅は大きいなと思っています(笑)。

—JアンクラスのJの意味を知らない方も増えたような気がします。

河島そうですね。株式会社化して今の社名は株式会社福岡アンクラスです。もう、なぜJなのか知らない人も増えましたね。クラブは前に進んでいるのだと思います。

—九州の女子サッカーの現状はいかがですか? かつては熊本と福岡になでしこリーグのクラブがありました。鹿児島県の強豪・神村学園高等部と鳳凰高等学校で全日本高等学校女子サッカー選手権の優勝を争っていた時代もあります。

河島今は、九州でも力のある子が分散してプレーしているイメージがあります。各地にチームが生まれたので、良い子はいろいろなところにいます。福岡大学(福岡県)、活水女子大学(長崎県)のようにサッカーに力を入れている大学もありますが、全国と比べるとちょっと力の入れ具合が足りないかもしれません。

河島2012年に、猶本光は筑波大に進学するとともに、福岡J・アンクラスから浦和レッドダイヤモンズレディースに移籍しました。直後にヤングなでしこブーム(FIFA U-20女子ワールドカップ日本大会)がありました。そのときも関東と九州ではサッカーのニュースの盛り上がり方が全然違いました。私が「そっちは盛り上がっているの?」と連絡すると、猶本が「めちゃくちゃ盛り上がっていますよー!」というくらいでした。「こっちはニュースのテロップでちょっと出るくらいだから、もう少し光頑張れ! 福岡ってもっと言って!」と言っていました(笑)。それくらい女子サッカーのニュースが九州では取り上げられない。トップのリーグのクラブがあれば、もしかしたら大学のサッカー部も力を入れてくるかもしれませんね。

—確か、あの頃は女子サッカーのトップクラスの試合の開催地が東日本に偏っていました。その影響もありますね。FIFA U-20女子ワールドカップ日本大会は全て東日本で開催されました

河島対戦相手として、みんなが知っている日本女子代表選手を福岡に呼ぶことが福岡J・アンクラスの使命だと思います。ただ上に上がりたいのではなく、そういう試合をできるようにしなければならないと思っています。

リーダーシップを発揮する相田さくら選手 提供:福岡J・アンクラス

育成や指導についての情報が多めに掲載されているサイト

河島トータルに考えて、ウチの発信力はウイークポイントです。でも、その中でアカデミー(ANCLAS ノーヴァ)や小学生のスクール(ANCLASジュニアスクール)のニュースをたくさん出していこうとしています。スクール生は「スカート履いてサッカーやっています」「ボール蹴ったことありません」くらいの子が多いです。トップチームの選手がコーチをやっているのですが、選手であることを理解していないくらいの子達です。体を動かす、お友達を作る、整理整頓をしっかりやる……といった、子どもの成長を応援することをメインでスクール事業をやっています。

—保護者の評判はいかがですか?

河島「元気に挨拶できるようになりました」「人見知りだったのですが自分から話せるようになりました」という声をいただいています。

—保護者にはサッカー上手になるだけではない期待があるのでしょうね。

河島ただ、それでもサッカースクールなので、整理整頓や挨拶は文化のような位置付けで、当たり前のことにしています。それに加えて、サッカーで「できる」を必ず持ち帰ってもらおうとしています。「お母さん、今日、シザースができるようになった!」とか。その子にはその子に合った指導をしているスクールです。それが「できるがココに!」です。

選手によるスクールでの指導 提供:福岡J・アンクラス

—お母さんに報告できると、お子さんもできたことを実感できそうですね。サイトに書いてある「できるがココに!」とは、そういう意味なのですね。スクールの指導をされているのは、選手である社員なのですか?

河島一つの教室を「お店の店長さん」に見立てて、数字の責任を持って、集客、会場となる学校との折衝もやってもらっています。もし選手を引退しても、同じような教室の経営をできるようになっています。例えば退会を防ぐために、お子様にどのような声をかけ、保護者にどのような声をかければ良いのか、配布するチラシの内容を考えたり、人口の変化を調べたり……。

—マーケティング業務も重点的に実践しているのですね。

河島そして、私たちは、選手の仕事の時間を短くしていこうとしています。これから、短い時間で仕事のクオリティを上げていきます。「●時間以上働いてはいけない」という目標を決めて、時間内で仕事を終わらせなければなりません。選手の優先順位の一番はサッカーなので、サッカーの時間を確保できるように進めています。最初は選手同士で仕事のアイデアを出すのに苦労したようです。1回目の緊急事態宣言下では校庭が使えなくなってスクールを中止にしてしまったのですが、2回目の緊急事態宣言下では、選手が事前に対策を考えて別の会場を押さえていたので開催できました。その場合は集客が課題となるので、集客活動のための動画を作成してSNSにアップして臨機応変にやっています。

試合を決める決定的な仕事をする岡未沙子選手 提供:福岡J・アンクラス

新体制で次の目標を目指す

福岡J・アンクラスは以下のようなスローガンを掲げています。2017年に株式会社福岡アンクラスを設立し新体制となり、福岡J・アンクラスは上昇気流に乗りました。人口156万人の大都市、東アジアの玄関口である福岡市で、どのようなクラブになっていくのでしょうか。

河島美絵監督 提供:福岡J・アンクラス

Next Level ANCLAS

九州から唯一の全国リーグで戦う女子サッカークラブチームとして、いつも支えてくださる方々への感謝と自覚をプレーで表現し常に向上心を持って2020シーズン戦います。

~「VISION」を実現するために、3つの目標を定め遂行する ~

1.充実した環境をつくる<選手・スタッフがサッカーに専念できる環境>

・練習環境 専用または優先的に使用できるサッカーグラウンド/ウエイトトレーニング施設
・医療環境 怪我をしない為の日々のケア・怪我をした場合の治療及びリハビリ
・就労環境 安定した収入を得られる環境→地元企業との連携

2.下部組織の強化体制を確立する

・下部組織専門のサポート組織を設立し、トップと連携をとりながらも独立した強化体制を築く
・「強化」と「普及・育成」を明確にし、それぞれ有資格専任スタッフによる指導を行う
・「強化」から年代別代表を輩出、「普及・育成」は2022年までに会員数を400名にする

3.安定した運営体制

・異業種企業との連携によるサッカー事業の拡大

 

—理念を明確化したのは経営体制が変わったときですか?

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