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パラグアイ女子代表戦、パナマ女子代表戦直前 「苦労人」大部由美コーチの5レーンから、なでしこ国際親善試合の見どころを読み取る

なでしこジャパン(日本女子代表) はチーム戦術の確認と東京オリンピックのメンバー選考の場となる国際親善試合を行います。 対パラグアイ女子代表(4月8日 宮城/ユアテックスタジアム仙台)、対パナマ女子代表(4月11日 東京/国立競技場)の2試合です。

今回ご紹介する大部由美コーチは高倉麻子監督の相棒として日本女子代表を支え、特に守備の強化を担います。

ところで、現役生活を東京電力女子サッカー部マリーゼで終えた大部由美コーチは、縁の深いJヴィレッジ(マリーゼのホームスタジアムであり練習グラウンド)で行われた東京2020オリンピック聖火リレーのグランドスタートをどのように見つめたのでしょうか。

「この状況の中でも聖火リレーがスタートしたことは、我々にとっても勇気付けられることです。力をもらいました。(FIFA女子ワールドカップドイツ2011優勝の)『なでしこジャパン』が第一走者ということで、過去の優勝シーン、我々が歩んできたシーン、前の方々がやってきたことが繋がって今があるということを感慨深く思いました。選手、元選手が堂々とスタートを切ってくれたのは不思議な心境です。」

大部由美コーチは「女子サッカー界の苦労人」と呼ばれます。記者会見で説明された5レーンの話に入る前に、その歩みを振り返ってみましょう。

日興證券でプレーしオリンピック出場

たったの9年間しか活動していないのにも関わらずL・リーグ(現・プレナスなでしこリーグ)優勝3回、全日本女子サッカー選手権大会(現・皇后杯 JFA 全日本女子サッカー選手権大会)優勝3回という夢のような強さを誇ったチームがありました。それが日興證券女子サッカー部ドリームレディースです。

大部由美コーチは中学校を卒業後、ドリームレディースのメンバーに加わりました。1991年シーズンに新人王を獲得。メキメキと頭角を表し、日本女子代表のセンターバック(3バックが多かった)に成長していきます。1996年に女子サッカーが初めてオリンピックの正式競技となったアトランタオリンピックでは、日本女子代表のメンバーとして参加。21歳のことでした。結果は、ドイツ女子代表戦(3失点)、ブラジル女子代表戦(2失点)、ノルウェー女子代表戦(4失点)の3連敗。大部由美さんは世界の壁を痛感します。そして、ドイツ女子代表戦では4万4千人という大観客の前でプレーし、オリンピックの凄さも体験したのでした。

Jリーグの後を追って女子サッカーにも第一次ブームが到来。1990年台の中盤には大物外国籍選手が来日。L・リーグのスタンドには多くの観客が集まりました。ところがバブル崩壊により1997年に証券不況が到来。山一證券が廃業。日興証券も合理化が必要となり、大部由美コーチの所属する日興證券女子サッカー部ドリームレディースは1998年に廃部となります。1996年、1997年、1998年シーズンにL・リーグを三連覇し、最強女王の座についたまま、大部由美コーチはプレーの場を奪われたのでした。

OKI FC Winds、YKK東北女子サッカー部フラッパーズ、東京電力女子サッカー部マリーゼへ

1999年シーズンはOKI FC Windsでプレー。多くのチームから有力選手を補強した期待のチームでしたが、これも1999年に廃部が決定。その名のWindsは追い風とならず、大部由美コーチに冷たく吹き付けたのでした。

続いて2000年シーズンからL・リーグに加盟したばかりのYKK東北女子サッカー部フラッパーズでプレー。これも2004年シーズンに廃部。2005年シーズンにYKK東北フラッパーズが東京電力女子サッカー部マリーゼに移管されたことから、大部由美コーチは東京電力女子サッカー部マリーゼの選手として、Jヴィレッジで毎日を過ごすことになりました。

既に1997年に竣工していたJヴィレッジに地域待望の地元チームが誕生したことで、福島県内は大いに盛り上がりました。大部由美コーチは中心選手として、東京電力社員・関係者、そして、福島県の地域住民の期待を背負ってプレーすることになりました。東京電力女子サッカー部マリーゼは、日本の女子サッカー史を振り返っても、Jヴィレッジという随一の練習環境とホームスタジアム(Jヴィレッジスタジアム)を有するチームでした。ところが、2006年シーズンの東京電力女子サッカー部マリーゼは成績が振るわず、チームに不協和音。監督がシーズン途中で去り2部に降格。シーズンの大詰めでは大部由美コーチが監督兼任選手としてプレーすることになりました。そして引退。

東京電力女子サッカー部マリーゼのチームメイトで日本女子代表選手として活躍したのが丸山桂里奈さんと鮫島彩さんです。2人は、2021年3月25日にJヴィレッジで開催された東京2020オリンピック聖火リレーのグランドスタートに参加しています。

選ばれたことに喜び、誇り、責任を

東京2020オリンピック聖火リレーの翌日に、筆者は大部由美コーチへ質問する機会に恵まれました。「聖火リレーについて」「これまでの大部由美コーチの経験をどのように選手に伝えてきたのかについて」質問すると、このように答えてくださりました。

大部由美コーチ なでしこジャパン(日本女子代表)候補 トレーニングキャンプにて

「我々も頑張ろうということをみんなで確認した1日でした。とても嬉しく思っています。パワーアップしたり、スピードアップしたり、サッカーが進んで、今は、我々がやってきた時代よりも数段のレベルが上です。昔はああだったという話をするより、東京オリンピックに向かう限られた人数の中に選ばれていることに対して喜びを感じたり、誇りに思ったり、責任を感じたり、自分たちがサッカーを楽しみながら勝利を目指すことで周りに勇気を与えたりすることができるんだという話をしています。」

さて、高倉麻子監督が率いる、なでしこジャパン(日本女子代表)が金メダルを獲得するためには、どうすれば良いのでしょうか。課題といわれやすい攻撃力の強化には、ワンセットで、強度の高い守備の成熟が必要不可欠です。どこでどのようにボールを奪えるかにも注目が集まります。

高倉麻子監督 なでしこジャパン(日本女子代表)候補 トレーニングキャンプにて

5レーンの採用で、よりわかりやすい練習に

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